extra episode3『サキュバスちゃんはクリスマスに夢をみない』③
目が覚めた。
そうよ、私は階段で転んで……
「大丈夫かリリィ?」
「あ……かんじ……」
なんて顔してんのよ、馬鹿みたい。
「良かった! リリィが生きてて、ほんとに良かった!!」
何勝手に殺してんのよ、ほんと、馬鹿。
どうやらここは病院みたいね。看護婦のお姉さんが私を見てニコリと笑った。
「外傷もなく、打ちどころも悪くなかったみたいで安心したわ。でも、頭だから少しでも異変を感じたらすぐにお医者さんに相談すること。ふふ、まだ間に合うよ、イルミネーション」
そうだった。今日はかんじとイルミネーションを見る約束だったわね。
——
病院を後にした私達は、既に暗くなった街を歩いていく。昼間はわからなかったけれど、街路樹に飾られた電灯がとても綺麗ね。
程なくしてイルミネーション会場に到着したんだけれど、想像以上に凄い。夜だってことを忘れちゃうくらいの光の世界が広がっていた。
二人でその光景に酔いしれる。
かんじは、私の少し後ろ。あの時と、同じ。
「リリィ……」
「かんじ、その気持ちは……」
「リリィ、この気持ちは、勘違いなんかじゃない」
「……」
「僕は、君が好きだ。君にどんな過去があって、忘れられない人がいたとしても、それでも僕は君が好きで、誰にも譲りたく、ない……例え、君の中にある大きな存在が——」
「心配いらないわ、彼なら、さっきフッちゃったから」
○○、好き、だった……
「へ?」
振り返るのは恥ずかしいし、涙を見せちゃ、かんじが揺れちゃう。だから、私は前を向いたまま、かんじに言葉を投げた。
きっと、素っ頓狂な顔をしてるわね。
「かんじ、私を彼女にしたいなら、ちゃんと言って」
駄目、振り返れないや……ごめんね、○○
「リリィ、僕は君が好きだ」
さよなら、○○
「これからも、君と一緒にいたい」
終わる、私の、
「僕と、結婚してくれ!」
え!? けけ、けっこん!? かんじ〜!?
ま、まぁ、いっか。ほんと、馬鹿ね。
涙でイルミネーションの光がぼやける中、私は振り返らずに、返事をしたわ。
「しあわせに、しなさいよね」
私の初恋は終わった——
————あれから十年、
私達は相変わらずケンカばかりしていた。あの頃と何も変わらない。馬鹿な二人。
ううん、違うわね、
一つだけ、変わったことがあるわ、
「パパ、ママ〜! はやくはやく〜!」
かけがえのないものが、一つ増えたんだもの、
だから、もう、夢は見ない、
前を向いて歩いていくわ。
クマデビルストラップに記された文字、
『未来へ向かって』
彼の気持ちを受け止めて、前を向いて、かんじと一緒に生きていく。
私の人生を、捧げたかんじと、ずっと、
ずっと、一緒に!
【サキュバスちゃんはクリスマスに夢をみない】
お、し、ま、い!
サキュバスちゃんは《処女》を捧げない〜▶︎ カピバラ @kappivara
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