【MTG】銀河商事の提案
共和国にロストフ連邦が侵攻してきて以降も、エール宙域に居座った銀河商事の傭兵艦隊ヤドヴィガ5000隻に目立った動きはなかった。時折補給船から物資の補給を受けているようだった。
またいくつかの宙域に銀河商事の船団がまとまった数が出現した。
それも大規模な侵攻作戦を行うことはなく遊弋しているのみだった。
ロアルド提督の艦隊もエール宙域に留まり、その点は商業ギルド同盟にたいそう感謝されたが、どうも戦力を引きつけられている感じがした。
そんな折、ヘルメス・トレーディング社に会談の要請が入った。
銀河商事代表取締役CEO ロンバルディア・ミヤタ本人から直々にヘルメス・トレーディング社の代表のサカモトと遠隔で話したいという要請だった。
涼井は本来は目的の見えない打ち合わせは好みではなかったが、ロンバルディアと話をしてみたいという気持ちもあり、会談を承諾した。
銀河商事はわざわざ重力子通信中継用の商業船をヴァイツェン宙域付近まで送ってきた。そこから惑星ランバリヨンにつなぐのだ。この形式であれば映像含めた通話も比較的クリアになる。
打ち合わせの当日、ヘルメス・トレーディング社のオフィスと銀河商事のオフィスの間で直接の通話が確立した。
涼井は背景が曖昧になるように特定しづらい会議室を場所に選んだ。
ふっと空中に雄大な体格をした金髪のこざっぱりとしているが、精悍な印象の青年が出現した。しっかりとしたスーツを着込んでいる。
「私が銀河商事代表取締役CEOのロンバツディア・ミヤタだ」
「ヘルメス・トレーディング社代表のサカモトです」
涼井は微笑を浮かべて応じる。
ロンバルディアは歯を見せながら、やや威嚇的な笑顔を作った。
「サカモト……というよりも共和国の軍人、スズハル君といったほうが正しいかな?」
涼井は微笑を崩さないようにしながらロンバルディアの目を観察した。
カマをかけてきている、というより確信がありそうだった。もとより顔出しで活動している以上、気づく人間が出てくるのは不自然ではない。というよりも気づかれても仕方がないとは割り切っていた。
「ご名答……と言っておきましょうか」
「ふっ話が早い」
ロンバルディアはニヤリと笑う。
「ここのところ、我が銀河商事のビジネスを守るために治安維持活動をさせていただいているのはご存知だと思う」ロンバルディアが話し始めた。
「はっきりいうとスズハル君、君は共和国の意図を得てこの開拓宙域にきたのだろう?」
涼井は肯定とも否定とも取れる曖昧な表情を浮かべた。ロンバルディアはそれを肯定と取ったようだった。
「最近は共和国をクビになるという芝居まで打って大層なことだ」ロンバルディアは仰々しく首をすくめた。芝居ではなく事実なのだが、このまま彼の本意を引き出すために涼井は特に訂正をせずに黙っていた。
「もちろん開拓宙域に目をつけたのは素晴らしいことだ。だがもう遅い。共和国がいまさらこの広大な宙域に食指をのばそうとも、すでに我々はロストフ連邦と連携している。君たちが今更進出してくる前からロストフ連邦は、我々と連携することによってあがるこの開拓宙域からの莫大な利潤をもとに着々と戦力を整えていたのだからな」
ロンバルディアは独善的な演説調で語った。
「共和国はどのくらいの戦力を隠しているのか知らんが、ロストフ連邦の侵攻も順調だ。我々は君たちを開拓宙域で牽制させてもらっている、そこでだ、取引をしようじゃないか。もちろん
「伺いましょう」
ロンバルディアは一方的に語り始めた。
かなり独善的な内容だったが、まとめるとこういうことだった。
それは要するに共和国・ロストフ連邦・銀河商事が一体となって共同戦線を結び帝国の領土をとり、銀河商事は交易を独占するという話だった。アルファ帝国皇帝リリザはまだ帝国全土を完全にコントロールできているとは言えない。曰く、銀河商事には反皇帝派の大貴族とも連携している。帝国の領土を十分に獲得すれば、いまロストフ連邦が制圧している共和国の領土も返す。銀河商事は帝国、共和国、開拓宙域にまたがる交易については独占的かつ排他的な権利を得る。
「ふーむ興味深い提案ですな」
「そうだろう、ゆえに……」
「まぁお待ちください」
ロンバルディアがまた長い話をしそうになるのを涼井は遮った。彼は不愉快そうに顔をしかめる。
「やや一方的な話かもしれませんので、もう一人の利害関係者の意見を聞いてみましょう」
「ふん、大統領オスカルでもつなぐのかね」予想通りだという表情をロンバルディアは見せる。
涼井が側のリリヤに指示を出す。彼女がコンソールを操作すると、空中に投影された映像にもう1人の人物が現れた。
白磁のような肌に銀髪。瞳の色も銀だ。
さすがのロンバルディアが目を見開く。
「こっ皇帝……」
「ずいぶん一方的な話のようですね、ロンバルディアさん」
アルファ帝国皇帝リリザは凄みのある笑顔を見せたのだった。
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