Re:Re:【緊急事態】共和国強襲作戦

 共和国宇宙艦隊はすでに2個艦隊を喪失していた。

 一方、ロストフ連邦はヘラ、ハデス、アポロン、ポセイドンの4宙域をすでに押さえていると見られていた。


「やれやれ降格人事でこの席に戻ってくるとはな……しかもスズハル君の後任として。皮肉なものだな」

 ノートン元帥は少し前まで涼井が使っていた宇宙艦隊司令長官の執務室の椅子に座り込んだ。


「とはいえ今の状態を見逃すわけにはいかんしな……」

 ノートン元帥はため息をついた。


 統合幕僚本部では連日会議が開催されているらしいが全く結論が出ていなかった。

 そもそも大将以上の人事といえば大統領府がある程度権限をもっており、大統領が変われば国防総省や統合幕僚本部のスタッフもほとんど総入れ替えになることもある。

 ここしばらくは右派で金権政治屋と世間では批判の的となっていた大統領エドワルドが長期政権を保っていたからこそ安定した戦争・・・・・・ができていたともいえた。


「さて状況を確認したいが……上の人事で作戦幕僚に返り咲いたマイルズ君も行方知れずになったんだったな」

「元帥」

 端末を組み込んだメガネをかけた初老の男が入ってきた。

 サミュエル元帥だ。

 彼はノートンの親友でもあり前宇宙軍の幕僚長だった男だ。

「おぉ、サミュエル」

「私も予備役で悠々自適の予定だったのですが復帰させられましたよ。降格して宇宙軍の首席幕僚です」

「それは……このタイミングだからありがたいがな」

「さて状況ですが……」


 宇宙艦隊は艦艇の廃棄や現役の軍人の予備役化を大規模に進め、一方で共和国市民へは給付金という名前で現金が配られているところだった。

 

 宇宙艦隊に残されているのは8個艦隊のみ。

 そしてそのうちの2個艦隊は喪失した。

 さらにサミュエルによると革命的反戦軍のシンパとみられるルーベン中将の率いる第1艦隊、同じくカン中将の指揮する第8艦隊がすでに出撃したという。統合幕僚本部での決定とのことだったが、宇宙艦隊をすっとばした指令だった。


 ロストフ連邦は偵察艦の報告によると首都惑星ゼウスのほうに続くアレス、ヘスティア、ディオニオス、アテナなどの中央部にある宙域ではなく、むしろ辺境の付近にあるペルセウス、モイラなどの宙域に向かっているようだった。


「ここに来て辺境を固めにいく意図が読めんな」ノートン元帥は肘を執務机に置いてさらなるため息をついた。「我々の準備時間が多少なりともあるのはありがたいが」

「いずれにしても我々の手元に残されているのはあと4個艦隊です。数だけなら6万隻以上ありますが、何とか有効に使うしかありませんな。急遽、艦艇の廃棄の取りやめや予備役の解除を呼びかけているのですが大統領や統合幕僚本部がまったく動きません。宇宙艦隊が独自にやるわけにもいきませんしな」

「帝国はどうなっている?」

「リオハ条約を結んだ帝国とはあくまで停戦ですからな……もしも救援要請するなら大統領からになります」

「無駄だと思うが大統領に通信を送ってみようか……わしがやるよ」

「いずれにしても4個艦隊はすぐに使えるようにしておきます」

 サミュエル元帥はさっと敬礼して立ち去っていった。

 ノートン元帥は大統領オスカルへの通信内容の検討を始めたのだった。


―― 一方、ロストフ連邦はすでに占領した宙域での捕虜の収容や掃討のためにA集団、B集団とE集団のうち一部の艦隊を残し、E集団の残余4個艦隊が次の先鋒となって辺境付近の宙域の制圧を進めていた。散発的な抵抗はあったもののほぼ無傷でE集団は各惑星や軍事衛星などを攻略していった。


 ペルセウス宙域は最初から抵抗の意思はなく、陸軍などもすでに別の惑星へと脱出していたようだった。

 複数の宙域を陥落させたタマーニュ大将は上機嫌だった。


 艦隊を衛星軌道に残しペルセウス宙域の州政府庁舎を接収したタマーニュ大将は連日酒宴を開いた。


 すでに気が緩み、これまでは接収した庁舎などの重要な通信やログなどは押さえてきたのだがここ、ペルセウス宙域ではそれを怠った。


 司令部のオペレーターの1人が、このペルセウス宙域に存在するペルセウス・デモリションという廃棄業者がここ数ヶ月で無数の共和国艦艇を廃棄しているとする電子上の書類を発見していた。しかし報告することなく、ちらりと見ただけで彼はそれを「確認済み」のフォルダに放り込んで酒宴に戻っていった。


 また同じくロストフ連邦の将校の1人が、ペルセウス宙域に存在する解体のための重機などの機材などの資料を手に入れていたが、彼は酒を飲むのに夢中でその資料を適当に破棄してしまっていた。


 その2つの情報を考え合わせれば、ペルセウス・トレーディング社という企業の子会社が軍部からの発注で無数の艦艇を破棄したことになっているが、それは物理的には不可能、という結論が出る可能性があった。

 しかしタマーニュ元帥たちは弱体化した共和国の領土を刈り取るのに夢中で、敵に対する情報収集にも緩みが出ていたのだった。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る