Re:【増資】ヘルメス・トレーディング社の拡大

 ヘルメス・トレーディング社は急速に拡大をしていた。

 海賊たちとの連携や、護衛サブスクリプションのビジネスも順調だった。

 さらに民間企業でありながら海賊惑星ランバリヨン、ヴァイツェン宙域、ピルスナー宙域を完全に勢力下に置いていた。


 傭兵艦隊マトラーリャと海賊以外に、ヘルメス・トレーディング社が直接雇用する護衛艦隊も日に日に増加していたが、内務部門統括という名の、実質首席幕僚の任務を続けているバークには1つ悩みの種があった。


 膨れ上がる人数と艦艇、ランバリヨンに次々にやってくる開拓民や密輸業者による資材の売り込みなどが発生していたが、もともと艦隊で使っているAIでは新しい状況に対応しきれず悩んでいた。はたして資材が増えているのか? 足りているのか?

 それとも不足気味なのか?


「そういう時は……」

 相談された涼井は地球のノートパソコンでオフィスソフトを開き、既にだいたいて打ち込んでいたデータを表にしてバークに見せた。


「月毎の発生ベースだが……要は納品されたものと消費しているもののバランスが見られれば大丈夫」

「おぉ……」バークは目をキラキラさせて感動しているらしかった。


 涼井が見るに、この世界ではかなりの業務を、地球でいうところのAIに近いものが担っているようだった。


 例えば弁護士といった職業でも実際の法律知識や前提条件はAIが持っているので、法的な判断やある程度の結論をAIがくだしてしまう。人間はそれを読んで最終判断をくだせばよかった。そのため艦隊の指揮といったようなことでも、素人だったとしても、ある程度までならできてしまう。


 逆に言うと頭の中にある知識ではないので瞬時に活用したり判断力の基礎に使えるようなものではなかった。そこまで人間の知能が直接的に利用できるような機能はなく、あくまで業務を代替し、あるいは支援するものとして発達しているようだった。


 それはそれで凄い技術と世界なのだが、一方でこの世界では、人間は何かを学習するということに関しては積極的ではなく、自ら計算して数字を比較するといったようなこともあまり行われないようだった。艦隊の後方業務も定型的なものであれば十分だが、こういう想定されていない状況ではうまく比較できなくなるのだった。


「私はスマートフォンでも似たことができるから、このノートパソコンを業務に提供しよう」

「えっよろしいのですか? 元帥の秘蔵の品では」

「大丈夫、使い方は……」


 もともと幕僚業務に優れた手腕を持つバークはオフィスソフトの飲み込みは非常に早かった。


 実際には「流入する資材>増える人員と艦艇」という状況だったため問題はなかったが、可視化されたことで余剰の人員や艦艇を新たな任務に振り向けることができた。


 傭兵艦隊マトラーリャの装備も急速に整ってきた。

 また地下型の保養施設にはカジノを設置し誰でも遊べるようにした結果、惑星モルトに集まっていた博徒や富裕層も集まってきた。


 その需要に対しては、涼井は規制はせず業務をある程度管理できるようにビザのようなものを発給し、一定の治安がたもたれるようにした。逆に管理された歓楽街やさらに民間向けのホテルなども積極的に誘致をすることで元・海賊惑星ランバリヨンは新興のリゾート地としても有名になってきたのだった。


 そんな折。

 銀河商事と傭兵艦隊ヤドヴィガがまた動き出したとの情報が入ってきた。


 銀河商事は密造戦艦ギャラクシー級の量産をはじめ、掟破りのミリタリーグレードの巡洋艦や駆逐艦などの艦艇の建造を積極的に行なっている、とロブ中佐から情報がもたらされた。


 ロブ中佐は武装商船や開拓船に偽装した偵察艦をいろいろな惑星に送り込んで動向を探っていたのだった。


 どうやら銀河商事にはあのヴァッレ・ダオスタ公につながる軍需企業のフォックス・クレメンス社の技術者がかなり雇用されているらしいのと、ロストフ連邦からも積極的な軍事技術の提供がなされているようだった。


 傭兵艦隊ヤドヴィガは船団を組んでさまざまな宙域に出没しはじめたようだった。その対象の1つが商業ギルド同盟が駐屯するエール宙域だった。商業ギルド同盟から「5000隻近い傭兵艦隊ヤドヴィガが惑星系に居座っている。至急救援を求む」と悲鳴のような通信が入っていたのだった。




 

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