第67話 【出張】戴冠式前夜
ヴァイン公リリザがアルファ帝国皇帝になるにあたり、正式な招待状が届けられた。カルヴァドス伯爵……ミッテルライン公ノルマンがわざわざ儀仗兵と共に親書を届けに惑星ゼウスまでやってきたのだった。
帝国とはリオハ宙域で締結した「リオハ条約」があるため、無害航行はすでに可能になっていた。ミッテルライン公は燃えるような赤毛にごつごつした体格は相変わらずだったが、どこかやつれているように見えたが、とにもかくも親書は正式に大統領エドワルドが受け取り、あらためて宇宙艦隊司令長官となったスズハル提督と国務大臣アレックスが親善大使として帝国首都惑星アンダルシアに向かうことになった。
宇宙艦隊は再編成と適正な規模への縮小や動員された予備役や技能兵など復員の真っただ中で、任務についている艦隊は動かしづらい状況だった。
そのため統合幕僚長ノートン元帥と相談した結果、宇宙艦隊からは艦艇が出しづらいので
「海軍?」
その話をノートン元帥のオフィスで聞いたときに涼井は驚愕した。
ノートン元帥は少々意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「スズハル君……君でも驚くことがあるんだな。いや、すまなかった。君は確か戦場で吹っ飛んだ時に記憶に少し問題が出ているのだったね」
現在、共和国には3つの軍が存在する。
1つは宇宙軍。残りは陸軍と海軍なのだそうだ。
陸軍は防衛のために各惑星に駐屯しているので知っていたが、海軍が存在するとは思ってもみなかったのだった。
「海軍……ですか」
「そう……我々宇宙軍人も忘れそうになるのだが、ほとんど名誉職であるが、ちゃんと統合幕僚監部にも陸軍幕僚長と宇宙軍幕僚長と並んで海軍幕僚長も勤務しているよ」
共和国の宇宙軍創設は海軍をベースに行われたのだが、その時に伝統を重視して海軍そのものも残されたとのことだった。戦力としてはほとんどなく、だいたいは宇宙軍で定年近くなった将官や後方勤務、予備役の将校などが最後に名誉職として幕僚長となり年金にわずかばかりの手当がつくという役職だった。
しかしそれでも各居住惑星の海洋調査(水ではないことも多い)を主任務に、海洋のみの防衛のための潜水艦や大気圏内を飛行する航空機の部隊もあり、200隻ほどの艦艇で構成された小規模な艦隊も持っているとのことだった。なお困ったことに海軍も宇宙艦隊を持っているが、陸軍も「宇宙艦艇隊」を持っているとのことでややこしいことこの上なかった。
海軍は、惑星防衛などでは、宇宙軍や陸戦隊と一体となって戦うこともあるプロフェッショナルな集団であり、所属している将校には名誉職のためかえって有名な人物などもいるようでこういう戴冠式などには向いているようだった。
涼井は宇宙艦隊の自分のオフィスに戻り、第9艦隊首席幕僚からそのまま宇宙艦隊司令部の幕僚長に就任するとともに昇進したバーク少将に後の手配を任せた。
今回の帝国における戴冠式に向かう親善大使として同行するのは国務大臣のアレックスと、その官僚の一部、副官で大尉に昇進したリリヤ、これまで護衛をつとめてきており、これまた昇進したロッテーシャ少佐と陸戦隊の大隊ということになった。
海軍は第1海軍宇宙艦隊の200隻が護衛につくことになり、ファーガス中将という60歳半ばの元宇宙軍人が指揮する艦隊が準備された。
海軍所属の宇宙艦艇は1世代古いらしいが、そのかわり堅牢だったり引退はしたが強力だった艦艇が多く、小規模な艦隊としてはかなりの戦力を持っていた。
しかし砲の半分は降ろされて礼砲と機関砲に換えられており、どちらかというと居住性を意識した造りに換装され、大きな迎賓室や賓客向けのゲストルームなども備え付けられていた。まさに外交用のフネというわけだ。
ファーガス中将は元は宇宙軍准将だったそうで海軍に転任し2階級昇進した。
彼は豪放磊落に笑いながら、涼井たちがまとまって過ごせるようにゲストルームをすべて開放してくれたのだった。
そして7月28日。
帝国に向け親善大使である国務大臣と涼井の一行を乗せた海軍の宇宙艦隊が惑星ゼウスを出発したのだった。
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