第11話 Re:Re:【議事録】本日の議事録をご確認ください

 立ち上がった細身の若い幕僚は目をぎらぎらさせて周囲を見回した。

「落ち着き給え、君は……」

 エドワルド大統領が仲裁に入るがその幕僚は興奮状態から覚めないでいた。

「マイルズ作戦幕僚です」

 マイルズは宇宙艦隊の中佐の階級章をつけている。

 ずいぶんと若く……20代にも見えるがこの世界は戦死者も多いのでどんどん上がいなくなり、よほど幸運な者以外は階級がすぐにあがるようだった。


 マイルズの言い分はこうだった。

 もともと共和国宇宙艦隊は、帝国との重要な回廊であるアルテミス宙域を制圧すべく大遠征を企図していた。

 作戦の内容もおおむね固まり、あとは実施するだけ。

 いま組織変更を行うと大遠征ができなくなりアルテミス宙域の制圧が遠のく。


 それは確かに言い分としては一理あった。

 マイルズがそれぞれの座席の近くに自分自身の資料を浮かび上がらせる。


 あまり数字的な裏付けやメリット、デメリットなどの検証もなく、涼井の部下が提出してきたら一蹴するような代物だった。しかしどうも周囲はそれに納得しているようである。

「むむむ確かに……」

「大遠征が遠のくのは……」


 涼井は大遠征の効果自体に疑問を持っておりできれば中止に持っていきたいところではあったが、この世界の軍人たちは大遠征になびいてしまった。こうなってしまうとエドワルドも口をはさみづらくなる。

 涼井は嘆息した。


 マイルズ中佐の熱狂的な弁舌も効き、結局艦隊の再編成は延期、大遠征は実施されることになってしまった。

 一方、仲裁というほどでもないが大統領エドワルドの口利きで、かろうじて「一部だけ再編成計画を実施する」ことができた。


「すまなかった、スズハル君。あの流れになってしまうと止めようがなくてな」

 帰りの車中でエドワルドが謝罪してくる。彼もトップダウンというよりはどちらかというと日本の会社員によくいる調整型のようだった。

「いえ……もともとの計画が強いのはよくあることですから」

「大遠征の見込みはどうかね? 案外行けるのではないだろうか?」

「……どうでしょうね」


 あまり効果はないとは思っていたが、案外うまくいく可能性もある。

 そういう意味ではマイルズに反対しきれない自分もいた。


 エドワルドとは空港で別れ、涼井はリリヤ、バークとともに再び機上の人となった。

 リリヤがぽつりと「提督……いつもより冷徹じゃなかったですけど良かったですよ」とフォローになっているようななっていないようなことをいう。


 そして数週間後、共和国宇宙艦隊による大遠征計画が発令された。


 出陣する艦隊は以下の通り。

 総司令官 宇宙艦隊司令長官ノートン大将 

 主席幕僚 ローズ中将

 情報主任幕僚 ニールセン大佐

 作戦主任幕僚 マイルズ中佐

 後方主任幕僚 ライザー大佐

 衛生主任幕僚 リーズ大佐(医官)


 ―作戦参加部隊

 第1艦隊(司令部直轄)輸送艦隊(司令部直轄)

 第2艦隊、第3艦隊、第4艦隊、第5艦隊、第7艦隊、第8艦隊、第10艦隊、第11艦隊

 合計 9個戦闘艦隊、1個輸送艦隊 12万隻 240万人

 うち陸上部隊30万人 戦車・装甲車両など 5000両


 ―留守居部隊

 第6艦隊、涼井の新編成艦隊、残余の地上軍


 こういう時はだいたい敗北するのがSFのセオリーだが、果たして実際はどうか。

 涼井は悩む。

 一方でエドワルドの口利きで、留守居部隊にはなってしまったが、新編成の艦隊を涼井が指揮することになっていた。


 ―新編成方式の艦隊

 第9艦隊(基幹部隊)、第12艦隊(治安維持)、沿岸警備隊(治安維持)


 内容はともかく、これはこれで5万隻近い大艦隊にはなった。

 涼井が考えていた沿岸警備隊と治安維持艦隊の整理統合もできそうだった。

 その点エドワルドには感謝さえしていた。


 一方、いよいよロアルド提督の指揮する第2艦隊を先頭に共和国艦隊は一気にアルテミス宙域への侵入を開始していたのだった。

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