ランディス特別区の悩み2

ランディス特別区領主:デルロ=マレンドック=ヴァーミリア=ノムシュムマン。

通称:ロード

年齢:弱冠28歳。


前領主。つまり、彼の父親が急病で倒れてから数年。この特別区を治めているが、その手腕は戦慄するものが有ると周囲の貴族から言われていた。

 貴族から鑑と言われていた。


 彼の父。前領主はこの区を特別区にした。

 凡庸な小麦や酪農や養鶏しか無かった、凡庸なこの街に、腕の良い料理人を招き、ランデメンド王国屈指の豊かな場所にした。

 それが王に認められ、ランディスは向こう五十年間。名誉ある特別区となったのだ。

 それが三十年前の話。

 そうして今、その息子が治めている特別区は…………………………………………………

















 大混乱の最中に有った。















地獄絵図。と、言い換えてもいい。

 税金が厳しい状況下で、最早領主が蔵を解放せねばならない状況。

 そんな状況下でこうなるのは明白だった。



 『一揆』あるいは『革命』。

 特別区の民たちが農具や武器を手に、或いは魔法を乱射しながら、領主邸へと迫っていた。




 「ウオォォォォォォォ!」

 「キャー!」

 「殺せ殺せ殺せ!」

 「壊せ!奪え!」

 「シクシクシクシク」

 「ギャー!」


 様々な表情の、と言っても、良い表情など欠片も見当たらない、地獄の業火で焼かれた苦悶の表情ばかりしか見えない。

 その表情の塊が、統率や合理等欠片も無く、領主邸に攻め込もうとしていた。

 まるで、生者を引き摺り込もうとする地獄の亡者の様に。






 「ロードを守れぃ!」

 「「「「「オオオオオオオオオオオオ‼」」」」」

 白銀の兜に身を包んだ筋骨隆々の男。

 ロードに報告をしに来たあの男が指揮を執り、同じく白銀の鎧に重厚な盾、更には頑丈そうな槍を携えた屈強な兵士たちを構えさせ、迫り来る反乱分子を領主の元へ辿り着かせない様に立ち塞がっていた。

 「良いかぁ!ロードの命令だ!決して!一人も殺すな!一人も殺させるな!

 皆死ぬなとの命だ!貴様らぁ!解っているなぁ!」


 「「「「「オオオオオオオオオオオオ‼」」」」」


 地を割らんばかりの爆音。

 生きながら地獄に居る亡者たちと白銀の騎士がぶつかり合っていった。



 「押せェ!押しまくれい!」

 屈強な騎士たち。

 それを何の考えも無く押し通そうとする民たち。

 普通ならば、戦い慣れしている。しかも、上等な装備を持った兵士たちが圧勝する筈である。

 ところが如何だろう?


 「グゥ……………………………」

 「あぁぁああぁあぁぁァああああぁあぁ゛―」

 「うぉぉぉおおおお!」

 「ギャーァァァァァァァァァ」

 「押し…………戻される…………………」


 異常な光景。

 数が多いとはいえ、密集陣形の兵士をただの農民たちが押している。

 兵士が力負けしているという異常事態が発生していた。

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