輪廻深業剣トーカー・コーカー

ランディス特別区の悩み

 筋骨隆々の肉体に青い服を纏った男は走っていた。


 「宜しいでしょうか?ロード。」


 彼の目的地は領主邸のとある一部屋だった。


 「何だ?」


 ロードと呼ばれた男は気怠そうに目を開けた。


 美しい長い金髪。碧い瞳。高い鼻にシミ一つ無い肌。


 紛れもない美男子だった。


 「問題が発生しました。」


 「申してみろ。」


 「民草からの税金なのですが……………集まり方があまり芳しくなく……………」


 「要点を申せ。」


 「税金がこのままでは昨年比でマイナスになってしまう事が予想されます。


 かと言って取り立てを厳しくすれば民草の食料が………………………………………」


 「それを早く言え。『税金が足らない。どうすれば良いか?』その一言で終わるのならそれで仕舞にせよ。時は金也。対策は簡単だ。倉庫を解放し、民草に配分せよ。」


 「!宜しいのですか?」


 「二度は言わん。さっさとやれ。民草が死んでは税も何も無い。たっぷり食わせ、その上で働かせよ。下々を使い潰すなど愚物のやる事よ。」


 「ロードの意のままに。早速。」


 男は駆けていった。






 『ランディス特別区』


 ランデメンド王国中央に位置するこの地域は他とは違っていた。


 それは、別に禁忌領域が有るとか、特殊な生物や特産品があるとか、そう言う事では無かった。


 禁忌領域は特別区の周囲には無く、特産品は卵や小麦や牛乳や果実といった第一次産業が中心の国だ。




 この国の何が特殊かと言えば、それは『独立』という点にある。




 ランデメンド王国は王を頂点とし、その部下たる貴族に領地を配分して治めさせている。


 要は、貴族は王の代理。派遣である。


 つまり、通常の地域は王の手腕と栄え方が比例の関係にある。


 賢王の時代なら国は栄え、愚王の時代なら国は衰える。


 しかし、特別区のランディスは違う。


 王が、治める者を『賢き者』と認めた時のみ、特別区は生まれる。


 王が統治するより圧倒的に治める貴族が直接治めた方が合理的と判断された時。一定の期間限定で『特別区』という認定を受ける。


 この時、その地域の貴族は他の区域の貴族に比べてより自由で柔軟な、地域に則した統治を成すことが出来る。


 新たな法を作ったり、大掛かりな事業を進めたり、蔵を解放したり………強権を持てる。という事でもある。


 逆に、失態が起きれば、それは即統治者の責任。


 反乱や飢饉は即、責任問題となる。








 それが、『特別区』である。
















 今章の舞台はここ、ランディス特別区が主だった現場となる。




 「これで良い。」


 椅子に座りながら窓の外を眺める。


 先程の男が兵士に声を掛けて蔵から赤い樽を運び出していった。


 「これで………良いのだ。」


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