レリルVSデネブ 戦士達の戦い

 油断はしていない。


 ただ、向こうが相手への姿勢を変えただけだ。


 肉から、戦う相手へと。


 一方的捕食から闘争へと。






それだけ。たったそれだけ。






 しかし、次の瞬間、女王は消え、気付いた時には、私の血で赤い地面を更に赤く染め上げていた。




 腹部をザックリと。




 抉り取られていた。




 「戦士としてはこの程度か………つまらんな。


 まだ獣たちを殺し回っていた方が楽しかった。」


 爪を濡らし、滴る血肉を振り払うと私の元へゆっくりと近づいて来た。


 「グッ……………………………ア゛……グガ…………。」


 足に力を入れようとしても入らない。


 その代わりに地面がより赤く染まるだけだ。


 思わず膝をつく。


 掴んでいる白鞘が血飛沫で紅く染まる。


 刀身をつたって血が流れ落ちる。


 私の前にレリルが立つ。


 最高の一撃をこの距離で振るえば確実に当たるが、今の私に、立つ力も無い私にそれは出来そうもない。


 「これから私はお前達の同胞を喰らう。


 獣にも満たない弱い戦士など要らん。これらを喰らって我らの糧になるのを光栄に思え。


 ではな。」


 そう言ってゆっくりと、爪を天高くに掲げた。






 ここで私は死ぬ。


 女王レリルに自身の強さを証明できずに終わる。


 勝てないで終わる。


 賢者様と騎士団長様の顔に泥を塗り、そして死んでいく。


 己が望む理想を達成できずに終わる。




















ザンネンダッタナ。


 ジョオウニカテズニシンデ。


 オマエハヤツニツヨサをショウメイデキズニオワッタ。


 セッカクモラッタケントケイコヲムダニシテオワル


 ヨワイジブンヲノロッテイロ。エイエンニナ。


 ノゾミヲカナエラレズニシヌジブンヲアワレメ。


 カクゴヒトツナイアホウニハナニモアタエラレナイ。








 死の間際に死神からの声が聞こえた。




 『私は、そうか。死ぬのか。


女王に負けて、貰った力を無碍にして、何もできずに死ぬのか。』


 最悪だ。誰にも会わせる顔が無い。


 アーマスの侵攻を許し、人々を危険に曝し、部下に十字架を背負わせて死んでいくのか…………。




















『殺さないのは強者の特権!!


生半可な博愛で闘うのなら自滅覚悟でさっきの毒魔剣を貰いなさい。』
















 「『人を殺せない魔剣』などという物は御座いませんでしょうか?」






















    私は女王を殺したいなどとは思っていない。








強欲に、やると。


彼女に勝ち、理想を現実に引きずり込むと。






















『強くなければ優しくは在れない』




















 そうだ。


 私が死んでも賢者様や騎士団長様が居る。


 しかし、それでは彼女達アマゾネスが死んでしまう。


 それは駄目だ。




 ここで私がやらねば意味が無い。




 彼女を倒すのだ。


 彼女を超えるのだ。


 彼女に認めさせるのだ。


 私は肉ではない。


 貴女と同じ強者だと。




 そして実現させるのだ。


 砦の皆を、


 その後ろの人々を、


 そしてアーマスの人々を


 女王を






 私は、守るのだ。






 動け。


 動いてくれ。


 体よ、


 動いてくれ。








 しかし、意識は遠のくばかり、


 どうにかして、動いてくれ!


 死神よ、待ってくれ!


 あと少し、あと少しで良いんだ。








 シニガミ?


 チガウナ。


 オレハシニガミデハナイ。


 ソシテ、モドリタイナラツカエバイイ。


 チカラヲ。








 そう言って死神ならざる死神は消えていった。










 力?






 力など無い。






 だから私は魔剣なんてものを欲しがった。






 だというのに力を使え?






 どういう事…………。






思い出した事が有った。


賢者様の言っていたことだ。


確か、この剣の説明をしていた時に………


 『切断した者に生命力を与えて復活無いしは蘇生する』
































 最早私は如何やった所で死ぬ。


 最期の賭けだ。




























彼は辛うじて動く手で魔剣を掴むと、




「死ね!」




 女王の振り下ろす爪が首に届く寸前。














 自分自身を貫いた。


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