一騎討ちまでの過ごし方(10)そして始まり

「どんな感じ?」


「正直、強いです。流石はアーマスからの猛獣を歓迎しているだけの事は有りますね。」


「それ、抜刀しないで闘っている相手が言うべき台詞じゃないわよ?」


「いぇ、彼女らは基本的には徒手空拳に近い、手甲や爪を使った戦闘スタイルなんです。


だから剣術よりは徒手空拳の方がより彼女らに近いかと………。」


それはつまり、それだけの余裕が彼に有るということなのだが。


「それで?どっちが勝ちそう?」


「…………なんとも。


僕が相手にした事があるのは尖兵なので。


女王とは異なるかと………。」


「じゃあ、明後日の一騎討ちはどうなるか解らない………と。」


「はい。一応、王国騎士団で泣くほど、脱走者が出るほど不評の『これを生き残れば禁忌領域でギリ生きて逝けるかもしれないコース』でデネブさんには特訓して貰っていました。


短期ですが、効果はあるかも………。ただ……」


「それでも矢張り、」






「「女王の実力次第ですね(なのね)。」」






騎士団長との連戦で体力の尽きたデネブを横に話す二人。






























明後日に起こる事を、そしてその後に起こる一連の出来事を、この時は誰も知らなかった。


































「有り難うございました。」


一騎討ちの当日。


騎士団長相手に結局一本も取れずに彼は賢者の塔を去ることになった。








「気をつけて。まぁ何かあったら私が全部焼き払って誤魔化すわ。 だから、思い切りやってらっしゃい。」


少女の様に笑う賢者様。


しかし、私は笑えない。


何せ初日に騎士団長様相手にあれだけの魔法を使っていたのだ。 アーマス全土を焼いても未だ余裕が有ると言われても驚かない。


「止めて下さいタツミンさん。


もし何かあってもこの人は全力で止めますから安心して下さい。」




未だ焼かれた方が楽だったのかもしれない。




しかし、私は決めたのだ。




強欲に、やると。


彼女に勝ち、理想を現実に引き摺り込むと。




「お二方。有り難うございます。 賢者様からは魔剣を、


騎士団長様からは稽古を、


それぞれ授けて頂きました。


これで負けては、私だけでなく、お二方にも迷惑が掛かります。 何より、私の使命は砦の、その後ろの人々を守ること!!


決して負けません。」




そして、同時にアーマスの人々を守る。




そんな覚悟など露知らぬ二人は、魔方陣の中に消えるデネブをただ、送り出した。
































「来たか。」


アーマスの果て。


ジャングルの中、木が一本も生えていない、赤い土だけの小さな平地にて、女王は待っていた。


革の鎧は前と違い、漆黒の毛皮。


爪は金属ではなく、真っ黒な、おそらく獣から剥ぎ取ったであろうソレ。


前より弱い……なんてことも無いだろう。


周囲のジャングルには殺意と血の臭いの隠しきれない猛獣とアマゾネスの気配。


『敗者や逃亡者は決して許さないし、逃がさない。』


暗にそう言われていた。






「逃げなかったのだな。」


 堂々たる様は正に女王。


眼光は鋭く、射貫くようで、美しくも獰猛。


革の鎧から見える肉体は無駄など無く、優雅で狂暴。


 血に飢えた野獣の様で、咲き誇る花の様。








 彼女を殺させる訳にはいかない。


 彼女に殺される訳にもいかない。














 「私にも、護るものがあります。」


 「弱者に何が守れる?弱者は強者に食われるしか無い。」


 穏やかに、それでいて冷酷に、曲げられない現実を突きつけるように言った。


 「では、強者には?」


 「フ……知れた事。」


 初めて笑った。


 至高の芸術の如き微笑み。しかし、


 「全て守れる!全て喰らえる!全てが己が意のままだ!」


 紅い土煙が爆ぜ、彼女が消えた。


















 ガキン!


 爪と白鞘がぶつかり合う。














ランデメンド王国とアーマスの全てを賭けた一騎討ちの火蓋が斬って落とされた。

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