Folge 79 ペチペチ

 休憩を終了させ、重い腰を上げた。

 基本、全員が引き籠り系。

 夏の日差しに体力がゴリゴリと削られてゆく。

 そんな中でも元気アピールを絶やさないウチの長女。


「ねえ。山だからって露出控えたけど、ミニスカートでも良かったんじゃない?」


 主催者である美咲が答える。


「山は標高が高いから紫外線が強いの。露出は控えて損は無いわよ」

「そうなの? 兄ちゃんに脚見せてあげられたのに」

「私たちもだけど、ツィスカちゃん達の肌だと日焼けを超えて火傷になってしまうわ」


 それはマズい。

 男子を蹴散らすなど、激しいことをする彼女ら。

 でも、身体のパーツは全て弱い方だ。

 タケルも身体能力は高いが、肌や眼などは弱い。

 習い事をしていた頃はアザが妙に目立ったものだ。


「ここはよく知っている人の言うことを聞いておこうな」

「は~い」

「お腹いっぱいになったなあ。全部おいしかったけどさ」

「どうしても食べる事が多くなっちゃうね」


 タケルと二人で腹をペチペチ軽く叩いてみせる。


「ちょっとやめてよぉ。二人共イケメンが台無し!」

「面白いのに。普段こんなになるまで食べないもんな」

「お腹って、膨れるんだねえ」


 ペチペチ。

 ペチペチ。

 ぺ――――


「やめて。サダメなら一億年の恋でも冷めないけれど」


 優しく、しかし制止の意図がしっかりと伝わる掴み方。

 カルラの小さな手にペチペチを止められた。

 男子の幼稚な遊びは女子にとって苦痛でしかない時がある。

 タケルとのペチペチ合戦は楽しかったな。


「じゃあ、この手を繋いで歩く!」


 手ですら色気を感じるカルラの手を引いて歩く。

 楽しい。


「あの男、女を取っ替え引っ換えして楽しんでいるぞお」

「相手は彼女さんだから文句言えないわね」

「あっ! そうだった。早くボクも彼女になりたい!」

「ふふふ」


 妹二人とは順番に何かをする。

 勿論二人共って時もあるけれど。

 それが当たり前の日常。

 取っ替え引っ替えなんて気は無い。

 どちらも同じように構いたい。

 どちらからも慕われたい。

 その一心でここまで来たし、これからもそのつもりだ。

 傍から見ると変、なのかな。

 兄が妹を、妹が兄を好きで好きでしょうがないだけ。

 それだけなんだ。

 弟も含む。


「兄ちゃんてね、凄いなあって思うの」


 途中で買って被らせた麦わら帽子のつばを摘まんでいる。

 曲げては離し、曲げては離し。


「三人の妹と弟を同じように構ってくれて」


 肩に掛かっている髪をパッと後ろへ払う。


「みんな寂しくなんて無かったの。気づいたら大好き過ぎて堪らなくなってた」


 全部聞こえている。照れ臭いな。

 そんな風に聞くことなんて無かったから。

 と思うのと同時に、繋いでいる手の握りが強められる。


「そう、なのよ。全てを受け止めてくれる人。パパとママの存在を忘れるぐらい」

「寂しく無かったってのを聞けたのは大きいなあ。涙出そうだ」


 カルラは恋人繋ぎに変えながら、腕が触れるように寄ってきた。


「妹だけど、サダメを離さないから。本気だからね」

「存じておりますよ。オレも離さないって言っているだろ? 安心しな」

「大好き」


 頭をちょこんと腕に当てる。

 慣れているけど、これも今日は照れ臭い。

 みんな気持ちをオープンにし過ぎじゃない?

 山の空気が澄んでいるからかな。

 無理やり理由付けしようとしてしまう。

 旅の恥はかき捨て。

 知人だらけで捨てられない。

 ――――持ち帰るか。

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