Folge 63 ワンプッシュ分の請求

「左近さん、それは可哀そうに」


 カラスからの攻撃を受けたため、すぐに風呂場へ直行。


「でも、美咲ちゃんたちとのことはイラっとするわよね」


 最近ようやくどんな環境にいるのか実感するようになってきた。

 だってさ日常だから、一般と何も変わっているように思わなかった。

 変わっているのは、家の間取りと着替え部屋があることぐらいかな。

 親が不在って人の話は聞いたことあるし。

 弟妹と仲良くし過ぎているとは裕二から聞いていたけど。

 まさかイラっとするほどとは思わないよ。


「妹とならまだしも、美咲ちゃんたちは、ねえ」

「ツィスカちゃんたちとの話も有名だわ。仲が良いを超えているから」

「妹と仲が良くて何がいけないのよ」

「ツィスカちゃんもサダメと同じ考えなんだね」

「同じも何も。仲が良くて問題がある関係じゃないもん」


 もう一人の妹が話に加わらない。

 何故かと言うと――。

 カルラはツィスカの背中を抱いていた。

 オレがよくやるラッコ抱きだ。

 頭を撫でたり、首を抱えて頬を合わせたりして。

 一人でツィスカにじゃれていた。

 ツィスカはじゃれについては無反応。

 カルラの好きにさせながら美乃咲姉妹と話をしていた。


「今のカルラちゃんみたいな感じ、かな」

「カルラ? 姉に甘えるのは普通じゃない。カルラは可愛いのよ」


 そうなんだよなあ、この姉妹。

 オレの前では取り合うようなことをするものの、実は普段こんな感じ。

 猫のように二人でじゃれ合っている。

 それをゆっくり眺めていたいのだけど、させてくれない。

 オレに甘えちゃうからね。

 美乃咲姉妹のおかげで珍しくじっくり眺めていられる。


「美咲ちゃんだって咲乃ちゃんの事となると何よりも優先していて」

「言わないで」

「お姉さんなんだなあって。咲乃ちゃん良かったねって思うの」

「そうだね。ボクが外に出られなくなったりしたから余計にね」

「もう、いいってば」

「美咲ちゃんが照れてる! いいわね、もっと見た~い!」


 ふむふむ。

 姉妹同士の会話っていいね。

 それも双子同士でなんて、いつまでも見ていられる。


「ねえ兄ちゃん」

「どした?」

「いつまでパンツ一枚でそこにいるのよ」

「あ」

「早く入らないと風邪ひいちゃうよ。看病してあたしも風邪ひくぞぉ?」

「それはまずい。入ってくる」

「いってらっしゃい」


 五人の声がハモる。

 しっかりタケルが混ざっていた。

 こういう時にあいつは情報を収集しているんだろうな。

 さてと、珍しく一人で風呂。

 と言ってもシャワーだけだが。

 いやあ変な事ばかり連続で起こったな。

 本当に裕二の呪いなのかな。

 それはお門違いだろ。

 オレを知る女子に勉強を教えてもらった、それだけだ。

 テスト結果で勝負とか、なんでオレに勝ちたがるんだ。

 今回のテストはマジで頑張ったんだからな。

 えっと、頑張らなきゃならなくしたのは自分だけど。

 あ!? これトリートメントじゃない!

 ほらぁ。

 どうでもいい事考えているから、またシャンプーすることになったじゃないか。

 めっちゃ泡立つ。

 裕二からシャンプーワンプッシュ分としてジュース奢らせるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る