Folge 61 圧勝

「なぜだ!」


 テストの結果が。


「どうして!」


 続々と。


「馬鹿な!」


 返されて。


「……嘘だろ」


 生徒達は。


「……抜かりは無かった」


 科目ごとに。


「……だのに~な~ぜ~」


 一喜一憂。


「あはは。そっかそっか、夢だな」


 逃避も始まり。


「まあまあまあ。ここからだって、そうだよ」


 幻想を抱きだす。


「……負けた、ぐはっ」

 

 そして、白旗を上げる。

 全九科目の答案が返されたのだ。

 友人である裕二が偉大なるオレに挑んだテスト。

 大物に小物が挑んだのだ、彼はよく頑張った。

 しかし、戦いは儚い。夢は夢でしかなかった。


「今回はいけると思ったのになあ」

「お前ってさ、一桁順位取ったことあったか?」

「いや、無い」

「オレは?」

「常連だな」

「そいつに勝とうとするなら?」

「一桁順位を取らねばならんな」

「よくわかってんじゃん」


 裕二は両手で頭を掻きむしり、フケがハラハラと落ちて行く。

 何かしらケアをしろよと心の中で呟いた。


「なぜいつも通りの結果が出せたんだ?」

「言っただろ? 咲乃たちに手伝ってもらったって」

「反則ってことか。勝てば官軍とはよく言ったものだ」


 オレ、頑張ったぞ!

 最後尾からいつもの順位に上がっただけだ。

 とやかく言われる筋合いではない。


「お前は友達なんかじゃないやい!」

「ひゃ! サダメ可愛い!」


 あれ?

 怒ったのに咲乃が後ろから首に抱き着いてきた。


「はあ。もうわかったよ。はい、負け負け。負けましたっと」


 裕二が降参した。

 初めからそう言えばいいんだよ――まったく。


「左近君ありがと。サダメの可愛い所が見られちゃった」


 スリスリ、頬ずりが激しい。

 可愛い所、あったか?

 わからん。


「負けたのに感謝されて、俺は何をやっていたんだろう」

「でも、史上最高位だったんだろ?」

「……そうだな。それはお前のお陰と言えるだろう」

「なんでマウントをとれるんだ?」

「俺だからだ」


 もう、何の話をしているかわからなくなってきた。

 帰ろう、最大の峠は越したのだ。

 後はそう、お・と・ま・り!


「ありがとな、二人共。いつもよりいい結果が出せちゃった」

「サダメちゃんは元々出来る人ですからね。教えるのも楽でした」

「ちゃんとボクの愛も受け止めながらだったからね。ラブパワーもあったね!」

「ラブパワー、ね。妙にパワーワードだな」

「妹ちゃんには負けない愛だから、無くなると禁断症状に襲われるからね」

「怖い事言うなよ」

「ほんとだもん。毎日補充すれば大丈夫だから」

「咲乃はキスしたいだけじゃない。やり過ぎよ、あんなに」


 確かになあ。

 やり過ぎと言えるほどのキス休憩だった。

 また腫れるんじゃないかと、実はテストより心配していたかも。

 ……一度も拒否なんてしなかったが。

 咲乃のキスはパンチ力が半端なくって、今では癖になりつつある。

 確かに途切れると禁断症状が出かねないな。


「サダメちゃん? まさか思い出していないでしょうね?」

「何を?」

「涎が垂れてきそうな程に表情が緩んでいるので」

「そ、そんなことはないだろう」

「天井見上げながらニヤニヤしてね、あの時を思い出しているんだねって感じだったよ」


 マジか。すーぐ顔に出るからなあ。

 思っていることが筒抜けになりがち。


「サダメ、いつでもしてあげるから。ちゃんと言うんだよ」

「わかった……じゃなくて、え、あ、あわわ」

「はあ。咲乃キスを美咲キスに上書きしないといけないわね」

「は!?」

「恥ずかしいなんて言っていられないわ。私も頑張ります!」


 頬を両手でパンパンと叩いて気合を入れている美咲。

 いやいや、そういうの頑張らなくてもいいから。

 ちょっとぐらいなら頑張ってもいいけど。

 無理しない程度にしてもらえれば、こちらは大歓迎です、はい。


「無理しないでね」

「ちょっと! 美咲のキスも欲しいって言うの!?」

「その、咲乃ばかりじゃフェアじゃないというか――」

「フェアとか要らないから。じゃあボクが倍頑張る!」

「ふぇ!?」

「私がやっと決心したというのに、咲乃が本気出したら困る」

「ならしなければいいんだよ。キスは、ボクが担当」

「サダメちゃんに私を擦りこめなくなるでしょ、だからやめて!」


 大声でなんという言い合いするんだ……させているのはオレか。

 二人の争いを見たら、妹たちも参戦するよな。

 テスト疲れ、取れるかな。

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