Folge 59 弟の優しさ

 んー、暑い。

 汗がじわーっと出て来た。

 そう、起きてしまった。

 時間を確認したいけれど、言わずもがな、妹が抱き着いているので動けず。

 いや、せっかくだから動きたくないのが本音。

 背中に抱き着いたままなのはツィスカ。

 ツィスカの肌がヌルヌルと擦れて……はあ。

 それを楽しみながら眺めるカルラの寝顔と思いきや。

 これ、脚だ!

 上下逆に寝ているぞ。

 カルラって寝相は良い方のはずなのに、よくこうなる。

 ワザとかな。

 何も考えずに変わったことをするような子ではないからな。

 うん、綺麗な脚だ。

 こんなの毎日のように見せられながら育ったんだ。

 脚フェチになるのは必然。

 誰にもオレを責めることはできまい。


「……兄ちゃんだめだってば。いいけど」


 何をしようとして、何を許した!?

 夢でも気になる。

 そんなに背中へ顔を擦りつけて大丈夫かな。

 汗だくなんだが。


すねでこんなに綺麗。膝もよく傷つけずに育ってくれたね」


 脚のタレントとしてコマーシャルにでも出られそう。

 誰にも見せる気はないけどね。


「気に入ってくれて何よりね。絶対傷つけないって頑張ったから」

「起きちゃった?」

「サダメが起きたらわかるのよね」

「凄いな」

「サダメのためにいる女ですから」

「言い方。中学生のセリフじゃないぞ」

「嫌なら言わないようにするわ」

「嫌いじゃないよ。ちょっとドキっとするだけ」

「ドキっとするのね、なら続ける。嬉しいからご褒美よ」


 う~ん。

 顔中に脛を擦りつけてから寝返りを打つ。

 続けてふくらはぎを擦りつけられた。


「なんだかお姫様に虐められている家臣の気分になる」

「癖になりそう? それともお気に召さなかった?」

「悔しいけど嬉しい。だけどカルラの顔が見たいな」


 器用にグルグルっと回転する。

 目の前は脚から顔に入れ替わった。

 寝起き顔に薄暗さが味付けされた表情。

 色気を受け止めるのが大変だ。

 こっちはまだ高校一年なんだぞ。

 その、こんなの頭がおかしくなりそう。


「わたしもサダメの顔が見たくなっていたの」

「初めから見ていればいいじゃないか」

「だって、サダメは脚が好きだから。上はツィスカがたっぷり押し付けているし」

「それじゃあカルラは脚をって? オレの事をどれだけ好きなんだか」

「言い表せないわね。どれだけなのかしら」


 この雰囲気では自然に顔が近づく、と思う。

 少なくともオレとカルラはそうなった。


「は~むっ!」

「あ、ツィスカ起きた?」


 唇に軽く触れたところで肩を甘噛みされた。


「ちょっと前から起きているわよ。すぐカルラとキスするんだから」

「ツィスカとしていないっけ?」

「姉だから妹より多くないとだめなの!」


 至近距離のカルラに聞いてみる。


「そんなルールあるの?」

「ないわよ。サダメに関しては同等」


 背中からの締め付けが強くなる。


「カルラより好きでいて欲しいもん」


 口を埋もらせながらそんなことを言う。

 息で背中が熱くなった。まったく、さらに汗だくだよ。


「わたしもだけど? 勝負に変える?」

「それはしないわ。カルラのことも好きだから」

「……ツィスカ」


 へえ。

 姉妹愛を感じてしまった。

 なにこの二人は――素敵過ぎる。


「二人同時にハグがしたい!」


 右半身にツィスカ、左半身にカルラ。

 こっちの気持ちも伝われと、思いっきり抱きしめた。


「三人共、まだ夜中だけどさ、いったんお風呂入ったら?」


 案の定、タケルは忍び込んでいた。

 こいつは姉も大好きだからな。

 二人共オレの所にいたら、確実に付いてくる。


「確かに汗だくなんだけど、今入ると目が覚めちゃうからなあ」

「寝不足はよくないものね」

「このまま兄ちゃんに抱かれて寝る!」

「タケルはどうする?」


 電子音が一回鳴った。

 すると爽やかな風が肌を撫でてゆく。


「僕はベッドの横で寝るよ。お腹だけは冷やさないようにね」


 ああ、エアコンという物があったな。

 汗が気化熱でひんやりとする。


 ――――これは!


 妹を抱いて寝ろ、ということだね!

 二人同時に頬ずりをする。

 弟の優しさに感謝。


「みんな、おやすみ!」


 今度は途中で起きずに朝まで寝られそうだ。

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