Folge 38 選手交代

 咲乃の芳香で目が覚める。

 ボクって言う子がこんなにいい匂い。

 見た目はボーイッシュではない。

 美咲と同じく色白の美人。

 容姿からすれば納得できる。

 となると、ギャップを感じるのは自分を『ボク』と呼ぶところか。

 そして絡みつく美脚。

 咲乃はオレのツボに嵌っている、ということなのかな。


「ん、ん~」


 咲乃が起きるみたい。

 鼻の頭をオレの胸元から首筋、そして頬へと這わせて来た。


「くすぐっ――」


 くすぐったいよ、と言おうとしたけど最後まで言わせてもらえなかった。

 起きているオレが起きようとしている咲乃からモーニングキスをされる。

 寝ている時にされると見ることができないから、これは嬉しいな。

 寝ぼけ眼の女の子からのキス。

 やっべ、これ好きだ。


「おはよ、サダメ」

「ああ、おはよ」


 なんだこれ、最高なんだが。

 妹たちから数え切れないほど似たようなことをされているのに。

 不思議だ。


「咲乃さあ」

「……ん~、なに?」


 伸びをした彼女を軽く抱えた。


「可愛いな」

「はふん。そんなこと急に言わないでよ。変な声出た」

「良い声聴けた」

「もぉ!」


 照れて赤くなった顔を隠すようにおでこを擦りつける。

 オレの鼻は咲乃の鼻で往復ビンタを食らう。

 かえって可愛さが増しているんだが。


「お返しする」


 唇を唇で受け止める。

 彼女はすんなりと受け入れた。

 キス、好きだもんね。

 真っ赤な顔したままお互いの柔さを細胞に覚えさせるように。


「お二人ともそろそろ起きてきてね」


 そう声をかけながら部屋の前をタケルが通り過ぎていく。


「起きよっか」

「はあ、仕方ないね。またこういう風にできるのを待っているね」


 ギュッとハグをして二人共起きた。

 キリが無くなるから。

 目を見るだけで思いをシンクロさせる。

 まさかここまでの仲になるなんて思わなかったな。

 手を繋いでリビングへ行くと、美咲がソファーの前に立っていた。

 そこへ咲乃がオレを連れて行く形で向かう。

 美咲が朝のあいさつをしてきた。


「おはようございます」

「おはよう」


 定型文を交わすと、咲乃がオレの手を美咲に渡した。

 これ、なんだか寂しいものがあるな。


「美咲、程々にね」

「咲乃に言われたくないわ」


 ん?

 何、そのやりとり。程々とは?

 咲乃が忠告するなんて、軽く背筋に冷たいものが走った。

 すぐにでも咲乃に抱き着きたくなったが、すると何かとマズそうだ。

 先行きが不安になりつつ、この日から彼女は美咲へとチェンジした。

 オレ、なんという生活しているんだ?

 普通の生活が出来ていると思いたい。

 美咲がにっこり笑みを見せた。


「よろしくお願いしますね、サダメ」


 いきなり彼女モード。

 そういえば美咲のテンションは極端だった。

 振り幅が大きいから慣れるのが大変かも。

 とはいえ、最初に告白してくれたのはこの子だ。

 咲乃と会うタイミングが違っていたら……。

 とっくに正式な彼女になっていたかもしれないんだよな。

 ――そうだった。

 告白してくれた気持ちは大切にしないと。

 オレも切り替えなきゃ……だな。


「よろしく、美咲」


 咲乃によって繋がれた手は、握手へと。

 にっこりしたままの美咲にオレも笑みを返した。

 さて、どんな感じになるのか期待はしてしまう。

 なんだかんだ言って、オレもこの状況に慣らされてしまったのかな。

 もういいや、みんなが納得していればいいさ。

 オレの存在がみんなにとって良いことならそれでいい。

 それしか望んでいないんだ。

 美咲はニコニコじゃないか。

 うん、こういう表情を見られるなら。

 オレが一緒にいるだけでそうできるなら。

 さて、こうして妹とは違う女子と付き合ってみて感じたこと。

 付き合い始めってどう接すればいいのか。

 なんだかギクシャクしちゃうんだよな。

 でもこの姉妹は良い意味で体当たりタイプ。

 オレが悩む暇などくれない。

 そこに甘えてしまうけれど凄く助かる。

 男としては情けないとは思うけれど。

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