EX-7 僕が大学生で月夜が高校3年生に……(6月)

 僕の名前は山田太陽、18歳。

 志望していた大学に合格し、春からはもう立派な大学1年生となっている。


 大学生になったから何か変わるかと思ったけど……僕自身、そんなに変わった所はないと思う。

 大学デビューでイケメンになったわけでもないし、大学でできた友人達は僕と似たような性格の女気のない男達ばかり。

 学業も普通で……通学、バイトも普通。こんな感じですでに2ヶ月過ごしている。


 ただ1つ言えることは。


「ただいま」


「おかえりなさい、太陽さん」


 恋人が無茶苦茶かわいいという所ぐらいだ。


 恋人である神凪月夜と交際してもう1年半くらい経つ。

 僕が大学生になったということは月夜は高校3年生になったということである。


 通学に1時間かかるため、帰宅はどうしても僕の方が遅い。

 なのでドアを開けるといつも月夜が笑顔で出迎えてくれるのだ。


「月夜が出迎えてくれると安心するな」


「旦那様を出迎えている気分ですよ」


 月夜は口を緩めて笑う。

 月夜は最近、ますます綺麗になった。

 出会った頃から無茶苦茶可愛かったけど、3年生にもなると顔立ちが少しずつ大人びてきたように思う。

 聞いた話だと学内での月夜の人気は相変わらず高いし、新入生達がその美しさに狂喜乱舞したとか……。

 ま、全員玉砕していくのがお約束なのだけど……。


「ただいまのちゅーしてくれなきゃだめです」


「あはは、仕方ないな」


 交際を始めるとラブラブの時期とそうでない時期とで波があったりするものだ。

 僕と月夜もさすがに1年半も付き合っているのとそういった時期を何度も迎えている。


 今はちょうど付き合った当時に返ってラブラブにしようという時期になっている。


 僕が月夜の両肩に触れて、キスをしようとすると手のひらで押しのけられてしまった。


「ちゃんと手洗い、うがいをしてからです」


「は~い」


 このあたりしっかりしているのが今の月夜なのである。

 問答無用で腰を抜かすような深い方のキスをぶちかましてくる月夜さんはもういないのである。


 ……そうでもないか。今でも結構大胆なキスしてくるし。


 さて、ここまで言えば分かるかもしれないが月夜と僕は今、同棲している。

 月夜の兄貴兼僕の親友が女の尻を追っかけて北の方へ行ってしまったのが理由だ。

 このあたり話せばすんごく長くなるので……また別の機会ということで……。

 月夜の兄であり、親友の神凪星矢は月夜を1人残して旅立つのが心配だったため、僕の大学入学を機会に神凪家で月夜と同棲することになった。


「星矢のやつから連絡は来ている?」


「ん。時々ですけどね。こっちはラブラブやってま~すって伝えてます」


 月夜の性欲魔人っぷりは相変わらずで邪魔ものがいなくなったためもう家でガンガンである。

 高校3年生になってますます色っぽくなり……完璧な容姿に僕も大満足なんだけど……それでも搾り取りすぎだと思う。


 もう許してくださいと何度お願いしたことか……。


「星矢がいなくてやっぱり寂しい?」


「やっぱり肉親ですからね。とっても、とっても寂しいですよ」


 実際に星矢がいなくなる時、さすがの月夜も困惑したらしい。

 そりゃそうだ。ずっと一緒だったんだ仕方ない。


 だけど。


「僕が星矢の代わりに来るって言った瞬間心変わりしたよね」


「さすがに"お兄ちゃん、元気でね、バイバイ"って送り出したのは失礼だったかなって今では思います」


「あいつたぶん泣いてたと思うよ」


 でもまぁ……向こうで元気でやってるっぽいから案外良かったのかもしれない。


「だったら……」


 月夜がにょろっと近づいて僕の横に座る。


「私が寂しくならないように……」


 そして腕を絡ませてその豊満な体を押しつけてくるのだ。


「いっぱい慰めてもらわないといけませんね」


 月夜を好きになり、全力の告白をした手前、絶対に僕は月夜には敵わないんだろうなと思う。

 そんな彼女の願いのために押し倒して……彼女をしっかり満足させるのである。



 ◇◇◇


 ひとしきり搾り取られた後、肩を寄せ合い言葉を交わす。

 そんな話の中の1つがあった。


「大学の友人に相談されちゃってね。好きな女の子にプレゼントしたいから僕の彼女にアドバイスが欲しいって言われてるんだ」


「ふーん」


「でもあんまり月夜を紹介したくないんだよなぁ」


「もう、太陽さんって私が恋人であることを隠そうとしますもんね」


 つーんと月夜は機嫌が悪くなる。

 この場合彼女の存在を隠すのは悪手なのだが……月夜があまりにも可愛すぎるのが問題だ。

 僕自身、そこまで釣り合う男に見られないのでとにかく横恋慕してくる男が多い。

 通りを歩けばナンパされるし、彼氏がいるのに遊びに誘う話が後を絶たない。

 俺の方が月夜と釣り合っているなんて……イケメン男子が寄り添ってくるのである。

 先日も月夜にしつこく迫った男が断罪されたと後輩の八雲さんが言っていた。


 月夜が本気で怒ると会話が全て無表情業務用敬語に変わる。好きな人されたら間違いなく心が死ぬしゃべり方だと思う。僕がされたら死ぬ。


 月夜と1年半も付き合うと僕を捨ててそっちに行くってのはありえないって分かるんだけど……、できるだけ僕から火種を作ることはしたくない。


「機嫌を悪くしないでくれよ……。月夜だって知らない男に声をかけられたりするの嫌だろ?」


「まー、それはね。太陽さんと付き合ってから告白されるのは相当減りましたけど……一般的に見ればまだ多いってのは分かってます」


「そうだろうね……」


「でも彼氏の頼まれ事を引き受けるのも彼女の役目ですからね」


 月夜はにこりと笑みを浮かべた。


「太陽さんのお友達にお会いしましょう。いい機会ですしね」


「え? いいの」


「伝言ゲームで半端に伝えるより、面と向かって会って話をした方が早いでしょう。太陽さんの新しい交友関係も気になるし」


「あはは……僕に似たようなやつらばかりだよ。月夜に危害を加えるようなやつらじゃないからそこは信じて欲しいかな」


「分かってますよ。私、人を見る目には自信があるので」


 高校3年生になって生徒会副会長になったということもあり、月夜は結構言動が勇ましくなっている。

 元々だけど口で勝つのはほぼ無理だ。僕が月夜に勝てるのはベッドの上だけなのだ。


 そんなこんなで大学で親しい3人の友人に月夜を紹介することになり、その日がやってくる。



◇◇◇


「えーと、右から順に同じ大学の山崎と島田と真辺だよ。で、3人ともこの子が僕の彼女の月夜だ」


「みなさん、今日は宜しくお願いしますね」


 月夜と出会った3人の大学の友人は皆、全員フリーズしてしまう。

 動き出したかと思ったらすぐに腕を引っ張られた。


「おまままま、び、美人すぎんだろ。嘘だろおまえ!?」


 口は悪いが背が高いのが山崎、彼女はいない。


「ねぇ、山田。レンタル彼女連れてくるのはどうかと思うよ」


 背は小さいが学業成績のいい島田、彼女はいない。


「モデルか何かか!? いくら何でも……いくらしたんだ!?」


 こいつが元々、好きになった女の子にプレゼントを送ろうとしている真辺である、彼女は当然いない。


 こういう展開は分かっていたがやっぱり誰も月夜が恋人であることを信じていない。

 ってかレンタル彼女扱いは勘弁してほしい。

 でもまぁ……気持ちは分かる。親兄弟友人みんなに同じようなこと言われるのだから……。


「あ、あの~」


 少し待たされていた月夜が声をかける。


「は、はい!」


 男子校出身の山崎は女性慣れしていない。月夜の可憐さに慌ててふためく。

 僕も2年になるまでは女の子が苦手だったから気持ちは分かる。


「もしかして太陽さんのカノジョじゃないと疑われている感じですか?」


「いや、そういうわけじゃ!」


 よくあることなので正直僕は気にしないが……月夜はわりとこだわるようである。


「仕方ないですね……なら証明しましょう」


 月夜がばっと僕の手を引っ張る。

 その勢いのまま引き寄せられて、がっと両手で頭を掴まれた。


「あ、あの月夜さん……まさか」


「口を開けてくださいね」


「ちょ、がぼ!」


 吸い付くように唇をつけられ、そのまま僕の口内を蹂躙される。

 月夜さんお得意の深い方のキッスである。あまりの強さと巧さに僕はいつも腰を抜かされてしまうのだ。

 2人きりだったら長くて10分以上攻められるが人がいる前なので思ったより早く終了した。


 月夜行う強硬手段。こんなことされてしまえば誰だって本物だと思ってしまうだろう。

 あまりの所業に友人達も口をパクパクさせるしかなかった。


「こんなキッスをするレンタル彼女はいないですよね?」


 月夜は微笑んだ結果、皆は頷くしかなかった。



「しっかしよくあんな美人捕まえたな……」

「山田が彼女の写真を見せたがらない理由が分かったよ」

「てっきり嘘だと思ってたぜ」


 友人達から口々と言われる。

 なんてひどいだやつらだ。

 だけど、月夜の兄である星矢の写真を見せた所で皆が僕と月夜の関係を納得した。


「兄貴の方もすっげーイケメンだな」

「そっかぁ。イケメンの友達を作ればワンチャンあるのか」


「真辺さん……ですよね? 女性の意見が聞きたいと」

「うん、俺、男兄弟だし、女友達もいなから……教えて欲しくて」


 真辺はバイト先の子と関係を深めているようで……日頃のお礼と誕生日が重なったこともあり、その子にプレゼントをしたいらしい。

 ただ重すぎるプレゼントは当然引かれるのでその案配を月夜に見てほしいということだ。


 ちなみに他の2人は暇つぶしである。ただ僕の彼女を見たかっただけの暇人である。

 まるでお姫様を見守るように、ナイトのように女性1人、男性4人でグループ行動をしている。

 ちょっとかっこいい言い方だったな、単純にオタサーの姫とその取り巻きみたいに見られているのかもしれない。。


 時間が経つにつれ、みんな月夜に慣れてきて……話せるようになっていた。


「いいと思います。オシャレですし……重くもなりすぎない。良いアイテムですね」


「おっし! これでもっと仲良くなって彼女作るぞ!」


「山田に続いて真辺まで彼女できたら……焦るじゃないか」


「どこかに女子の知り合いが……あっ」


 友人達が口々に言うのでそこで僕を止めることにした。


「月夜の友人はみんな美人で彼氏持ちだから諦めた方がいいよ」


「がくっ!」


 彼氏がいない友達もいるけど……みんな月夜の兄貴に好意を抱いていた子だったからな……。

 そんな子に僕の友人を紹介したらぶっ殺される。


 その後、軽く……ファミレスで晩ご飯を取り、買い物に付き合ってくれたお礼に月夜の飯代は真辺が払ってくれた。

 3人とはそこで別れて、僕と月夜は2人で一緒に住む自宅へと帰る。



「良い人達でしたね」


「え? どうしたの?」


 突然、月夜が友人達を褒めだした。


「太陽さんがトイレに言っている間にいろいろ話をしたんですよ」


「何を話してたの?」


「なれ初めとかですけどね……一番印象的だったのは……」


 月夜がぐっと僕の手を握った。


「太陽さんを選ぶ見る目を褒められたことですね」


「えーー」


 まさかそんな風に言われていたとは……。


「あーいう場だと口説かれたりとか……太陽さんをやめて自分と付き合えとか言ってくる人結構いるんですよ」


 月夜ほどのかわいらしさだったらとにかく手に入れたいと思う男は多いだろう。

 実際、僕とデートをして目を離した瞬間にナンパされることも多い。


「でもあの人達はかなり私に気を使ってくれました」


「女性が苦手なだけかもよ」


「ふふ、だから安心です。太陽さんを安心して大学に行かせてあげられます」


 やれやれ敵わないな。

 だけど気のいいやつなのは事実だ。

 親友としばらく会えなく寂しいと思う気持ちはあった。

 だから大学で新しく気の合う奴らと出会えたのは大きい。


「プレゼントと言えば……2年前のクリスマスを思い出しますね」


「2年のクリスマス……」


「もー! 太陽さんが空目指の初版本をくれたじゃないですか!」


「あ~、あったね!」


 月夜は通称【空目指】が大好きで、僕が送った本をまるで宝物のように常にバッグにいれて持ち歩いていた。

 四六時中持っていて、ニコニコしながら見せてくれるからあげてよかったなぁって本当に思う。


 月夜は本を取り出して、ニコニコ顔で僕に見せる。


「ネットだったらプレミアがついて下手すれば万くらいかかるし、なかなか購入できないのに……よく見つけられたなって思います」


「それはほんと奇跡だったと思う。でもクリスマスに間に合って、本当に良かったと思うよ」


「それに値段も安かったんですよね! 太陽さんて結構運がいいじゃ」


「そんなわけないだろ」


「へ?」


 僕は眠る記憶を呼び戻した。


「あの時は……お互い高校生だったし、気を使わせそうだったから言わなかったけど……実際はあれ……万くらいしたんだよ」


「え!?」


「書店も古本屋も正直100件以上まわったと思う。見つかったのは奇跡だったのは間違いないけど」


「……ど、どうしてそこまで」


 そんなの1つしかないじゃないか。


「月夜が絶対喜んでくれるって分かってたから。君の喜んだ顔を見れるなら1万なんて安いもの……そう思ったんだよ」


 我ながら恥ずかしいことを言っている。

 正直付き合い始めだったら赤面して素直に言えなかっただろう。

 今だからこそ言えることなんだ。月夜と交際して1年半にもなる今だからこそ……。


 月夜は立ち止まり、そして……。


「うへへへ……」


 にやぁと笑った。


「そんなに私のこと好きだったんですか。ほんと太陽さんはしょうがないですねぇ」


 月夜に一目惚れしたあの時から……絶対釣り合わないと思って、距離を置くことも考えていたけどやっぱりそれでも月夜のことが大好きだったんだ。

 月夜のためなら僕は何だってやってやる。


 月夜はばっと僕の腕を掴んでぎゅーっと抱きしめて来た。


「私、幸せぇ……。大好きな人に好きって思われるのが本当に嬉しい」


うん、そうだね。

僕も月夜に好かれていることが本当に嬉しいと思う・


「太陽さん、好き好き……。大好き」


 付き合った頃のように甘える月夜に……僕はまだまだ骨抜きにされてしまいそうだ。


「僕も好きだよ……月夜」


 いつまでも、いつまでも……月夜と一緒に。





【後書き】


10ヶ月ぶりの更新いかがだったでしょうか。

ちょっと月夜の口調を忘れてかけているようでごめんなさい笑


本作のエピソードは元々考えていたAFTER3のお話となります。

大学生となった太陽がどのようにして月夜と過ごしていくかを焦点にしたお話ですね。


本作は自分としてもかなり思い入れのある話です。

なのでこのままアフターだけを書き続けるのは寂しいと考えています。

なので大々的なリメイクを行いたいと思っています。

全編リメイク+AFTER1~3全て……行ければいいなぁ。

……来年のカクヨムコンくらいには出せるようにがんばるぞ!




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