1-13 月夜といつまでも一緒に②

 月夜に引っ張られ、僕達はわりと全力に近い速度で走っている。

 互いの手にキラリと見えるペアリングが僕の視界に映る。


 月夜の行く先は観覧車。

 ちょうど待っている人はいないし、すぐに観覧車の中に入れそうだ。

 係員に声をかけ、早々に僕達は観覧車の中へ入る。

 速度を上げて走ったのでかなり息が切れてしまった。

 僕と月夜は対面で座る。


「やっと2人きりになれた……」

「あはは、まぁ、15分だけだけどね」


 月夜のスマホには追跡アプリが入ったままだ。星矢はすぐにここまで来るに違いない。

 さすがにスマホを手放すわけにもいかず、月夜は我慢して使用してる。

 アプリを消す手段はあるんだろうけど、下手に消すと監視がエスカレートする可能性もある。

 星矢は口酸っぱく言う男ではないから旅行の件がなければ基本見逃すだろう。


「あの太陽さん……」


 息を落ち着かせた月夜だったが……さきほどとはうって変わって、強ばった表情になる。

 まるで恐れているような……隠し事を話すような子供のような顔だ。


「ごめんなさい!」


 月夜は立ち上がって頭を下げる。頭を下げられる理由が分からず、混乱してしまう。


「そ、その……ペアリングがすごく嬉しくて、ほんと胸がいっぱいになりました。でも!」


 月夜の声のトーンが上がる。


「……私、太陽さんをからかってた」

「え?」

「嘘泣きして、同情を引き立てたんです。太陽さんを困らせてやろうって思って。だから、ペアリングをもらった時に嬉しさ以上に罪悪感が……」


「月夜、こっちに来てごらん」


 月夜を手招きする。月夜は気まずいのか躊躇するが、怒っていないことを示すため、できるだけで笑顔で手招いた。

 月夜を膝の上に座らせて、華奢な体を胸に感じる。

 月夜の栗色の髪はいつもよい香りだなぁ。ちょっとだけ顔をうずめよう。


「太陽さん?」

「半分ほんとで半分ウソだね」

「どういう……?」


 両手でぐっと強めに抱きしめる。


「嘘泣きの仕草と困らせるってのは月夜の意思。でも……涙を流したのは意思じゃない」

「ーーーーっ!」

「月夜は本当に悲しかったんだ。だから涙を流した。君は頭のいい子だからそれをうまく利用したんだろうけど……、その涙を流させたことを僕は謝りたい」

「……」


 軽率だったのかもしれない。不安に思わせてしまうのかもしれない。

 もちろん僕だって月夜が他の男子と一緒に歩いていたら動揺するだろう。例えその気がなかったとしても……僕は不愉快に思うに違いない。


 でも他者と一切関わらず生きていくことは無理だ。

 そんなことができるのはファンタジーの世界だけだ。僕達は現実を生きているのだから。


 これからも笑って、喜んで、泣いて、悲しんで、その繰り返しが続くんだろう。

 でも僕は……だからこそ月夜と共に生きたい。


「私は……さみしがり屋で」

「知ってる」

「かんしゃく持ちで」

「知ってる」

「嫉妬深くて」

「よく知ってる」

「可愛げの無い女です」

「いや、世界一かわいいよ」


「もう……」


 月夜をこちらに振り向かせる。


 何度でも言うよ……。


「誰よりも君を愛してるよ」


 あの春のピクニックの時のように僕はありったけの愛をかき集めて月夜の唇にキスをした。





 僕と月夜は手を繋いで、観覧車を降りた。


 僕と月夜はきっとこれからもこんなやりとりをしつつ、仲良く時々、ケンカもして愛を深めて生きていくのだろう。


 僕と月夜の高校生での物語はきっとここが終着点だ。


 何か大きな物語でもない限り、変わらず平穏にこれからも生きていくことだろう。




 ◇◇◇




「俺を置いていくとは寂しいじゃないか」


 観覧車乗り場の入り口の前には星矢が待っており、周囲の女性から羨望の目で見られていた。


「なぁ、星矢。今日……というより最近変だよな。【あの夏祭り】の後から」

「なにもない」


 まったく表情を変えないはず星矢の頬がぴくりと動く。

 この男は元々強く干渉しない性格だ。例えレッドカードを4枚持ってきたからといってデートを邪魔してきたり、

 不穏な言葉を吐いたりはしない男だった。


 なのに星矢はまるで何かを求めるように……誰かを求めているように見える。

 まるで親を探す子のようだ。


 いつも8月下旬に行われる地元の夏祭りだが、ちょっとした大人の都合で今年はお盆前になってしまった。

 もちろん、グループメンバーで夏祭りに参加して、僕と月夜は抜けだし2人で花火を見ていた。……今回は外でしてないよ?


「水里ちゃんの告白を断ったからでしょ」

「ーーーーっ!」


 その言葉に星矢は分かりやすく反応した。

 あの夏祭りで2人の関係に変わった点があったらしい。僕も詳しいことは知らない。

 その後、水里さんが実家のある東北の方へ帰ってしまったからね


 月夜の言い方はぶっきらぼうだ。月夜と水里さんは仲良かったから。

 星矢に対して態度が厳しいのはこのこともある。


 1年から付き合いのある神凪星矢がここまで動揺しているのを初めて見る。


「お兄ちゃんがそんなんだからお盆終わっても水里ちゃんが帰ってこないんだよ」

「つ、月夜落ち着こう」


 去年も夏期講習の初日はいなかったし、帰ってこないことはおかしくない。

 どうせその内ひょっこり帰ってくるよ。水里さんこそグループのお騒がせ娘なんだし。


「星矢も冷静に……な」

「俺は冷静だ。よし、じゃあラブホに行くか。いつも行ってるんだろ。俺も一緒に」

「行かねぇよ! 落ち着け!」


 星矢が来なきゃ行くつもりだったけど、3人で行くほど僕もバカじゃない。

 動揺しまくった親友を何とかなだめつつ、楽しかった夏休みが終わるのだ。


 だけど……次の大きな物語はすぐ先に迫っていた。


 僕と月夜にも関係しているが、1番関係しているのはこの目の前の男だった。

 そう、2学期になっても水里さんは戻ってこず、そして……転校の話が僕達にも伝えられた。


 残り半年の時間を使って、次の大きな物語は始まる。


 After1 ~月夜と夏をもう1度~ 完

 NEXT After 2  星矢くんは誰を射るのか(仮題)に続く。


※今回の章はこれにて完結です。今後の更新については近況ノートをご確認下さい。

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ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件 呪酢 @jyusujyusu

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