1-13 月夜といつまでも一緒に①
夏休みも終わりを迎え、明日から8月下旬恒例の夏期講習が始まる。
そして9月が始まったら直に受験の時期へとなるのだろう。
「太陽さん、次、あそこに行きましょう」
こうやって恋人と一緒に遠くに遊びにいくことも控えないといけないのだろうか。
受験が終わるまでの辛抱だけど、やっぱり寂しい。
「それより急流すべりはどうだ。俺はまだ乗ってない」
「お兄ちゃんには聞いてない」
「ふむ、じゃあ太陽行くか」
「は!? 私から太陽さんを奪わないでよ!」
「ちょ! 2人ともケンカはやめようね! ね!」
なぜか僕は神凪兄妹とデートをしている。
ここは月夜と交際して初めて行った遊園地。ここへ来たのはあの時以来だ。2人で楽しめると思っていた所、僕と月夜のデートに星矢が無理やりくっついてきたのだ。
月夜は僕の側によって耳元で小声で話す。
「太陽さん、あの男、やっぱり始末しましょうよ」
「月夜ちゃん、落ち着こうか」
7月の旅行で監視員の片山さんからレッドカードをもらったことにより、本当に星矢がデートについてきたのだ。
月夜は二人きりを邪魔されてずっと機嫌が悪い。
「太陽さんはそんなに嫌そうじゃないですよね」
「ま、まぁ」
「そりゃそうだ。最近、どっかの淫乱妹につきっきりのせいで男同士気楽に遊ぶこともなかったからな」
星矢の言葉に月夜はばっと僕の方を向く。
「えっ、やっぱり私より……兄の方が」
「違うよ! 星矢もあまり挑発するなよ」
「挑発するつもりはないが……4枚もレッドカードをもらったバカップルのデートに興味があるからな」
まさか1泊2日の旅行でレッドカードを大量にもらうことになるとは……。
最後の温泉がいかんかった。我を忘れて月夜を抱いてしまうとは情けない。
「そんなに営みってやつはいいものなのか? 俺にわからん」
「そりゃ童貞には分からんだろ」「童貞に分かるわけないよ」
「くっ、こいつらにマウントを取られるとは……」
星矢は苦々しい顔で胸を押さえる。
いくらたくさんの女の子に好かれた所で相手を決めないことには先に進めない。
「恋人ってのは別にそれだけじゃないからね。一緒にいてこうやって手をつなぐ。それだけでも幸せになれるものだよ」
僕は月夜の手を握るように触れた。月夜の二重の瞳と目が合い、互いに微笑み合う。心が通じ合うって素晴らしいことなんだよ
「でもおまえ達、あの旅行の次の日また会っただろう。朝から晩まで何をしてたかはしらんが」
握り会った僕と月夜の手が止まる。
あの旅行の次の日はやばかったな。月夜から朝6時に電話かかってきて、「私、もうやばいです」って言われた時のやばさがやばい。
朝6時ってとこもやばいし、すっげー火照った声で言われたこともやばいし、あの日片手で足りないほど交わった気がする。
「この話はもうおしまい! 私と太陽さんが愛し合ってる、それだけでいいの!」
「でも……太陽、おまえ。この前陸上部の1年の子と帰ってたよな。意外に仲良さそうじゃないか」
「おい! 星矢」
「え……」
さすがに星矢の言葉に僕もカチンと来たがそれ以上、月夜は動揺し、瞳から涙がポツリと流れた。
「あ……」
月夜は自分の頬に触れ、涙の跡を拭う。そして両手で瞳を覆った。
「うぅ……太陽さん、そんな浮気だなんて……ひどい」
「ち、ち、違う! 決して浮気じゃない! たまたま帰り道に会って、しかも5分も喋ってないし!」
「ひく……、そりゃ……浮気は男の甲斐性って言いましたけど……ひっく、やっぱり……やだぁ」
「ご、ごめん! そんなに悲しむと思ってなかったんだ! そ、その! 月夜!」
本当はもっとで後で渡そうと思っていたけど、やむをえない。
カバンから直方体のケースを取り出す。
「ねぇ、月夜。見てごらん」
月夜が両手を目から外して、僕が取り出したレザー素材の小物入れを真ん中の空け口から宝箱を開けるようにぱかりと開いた。
そこには2つのシルバーのリングが納められている。
「……あ……え?」
困惑する月夜のため、その中の1つのリングを手に取り、すべすべの月夜を掴んだ。
月夜の右手の薬指へ……そのリングを通した。
まだ左手の薬指には入れてあげることはできないけど……今は君との関係を深めたい。
「嬉しい……」
僕はもう1つのリングを自分の右手薬指に通した。
ペアリング、今日渡そうかずっと迷っていたんだけど……月夜との絆を物として表現したかった。
月夜は右手薬指をずっと見つめる。その表情にさきほど憂い1つない嬉しさに溢れた笑顔だった。
「太陽さん、私、すごく嬉しい!」
「少し前に用意してたんだけど、なかなか渡すチャンスがなくて……、今日は邪魔者もいるし」
「うっ」
星矢はそっぽを向いた。
「ああ、もう……無理、愛しさで胸が張り裂けそう」
ふぅ……何とか機嫌は治ってくれたようだ。
良いタイミングで渡せたし、良かったのかな。
ペアリング……今まで貯めたおこづかいとバイト代がほぼ全て消えたけど、彼女へのプレゼントとしては良いのかなと思う。
「ちょっとトイレ行ってくる」
星矢は息を吐き、少し気まずそうに僕達から離れていった。
あいつ……。
星矢の行く先を見ていると突如月夜に手を掴まれる。
「太陽さん、いこっ!」
「月夜!?」
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