1-12 月夜と僕の夢

「ここの露天風呂はそこまで熱くないね」

「そうですね。私はこれぐらいがちょうどいいかな」


 ぴとりと肩がくっつく距離。

 露天風呂の中、僕と月夜は隣同士で体を温めつつ会話をする。

 いつものスタイル……僕の胸の中に月夜が入り込んでくっつけ合うスタイルもいいが、今の着衣でそれをやると間違いなく我慢が効かなくなるので要注意だ。


「2月の誕生日の時に入った露天風呂は熱かったよねぇ」

「私はあの熱さは無理でした」


 女性陣が共謀して男性陣を陥れたあの旅行。

 まだ付き合っていない時、月夜と一緒に風呂に入ったんだよなぁ。


「本当に緊張してドキドキが止まらないままお風呂に入ったからあっと言う間にのぼせちゃいました」

「相当早かったよね。僕はあの後、君を介抱するの大変だったんだから」

「実際あの時私の……いろんな所見たんでしたっけ?」

「見たかった」

「我慢したんですね。今だったらめちゃくちゃ触られてそう」


 今だったら気にせずタオル剥ぎ取って見て、触ってるね。

 正直、今も白い二の腕、ふともも。めちゃくちゃ触りたい。監視されているからこそ触ってみたいのだ。


「ねぇ太陽さん?」

「ん?」

「ずっと聞きたかったんですけど……。6月に私達の関係が学校でバレた件」

「うん」

「あれって太陽さんの仕込みですよね?」

「あははは、やっぱり月夜は気づいてたか」


 月夜とデートを学校の連中に写真を撮られてしまったことによる大騒動。

 

 具体的なエピソードは別で語るとして、実はカラクリがあった。

 春休みに月夜と行った栄生えいせい高原で月夜と菜の花の花畑の写真を撮ったんだけど、その写真を企業のコンテストに送ったら評価されて賞を取った。

 あの時は月夜の可愛さのおかげと思ったんだけど、写真部からも撮影技術を褒められて学校でも話題になった。


「その時に九土さんからこの流れを利用してみないかって言われたんだよ」


 生徒会長の九土さんと副会長代理の星矢と3人で相談して、校内の登校口にある掲示板に賞を取った写真を大きくプリントして貼り付ける。

 その1週間後に月夜とデートした時の写真を掲示板に貼り付けた。


「もうびっくりしましたよ。朝、来たらみんなから詰め寄られるし」

「僕の記憶だと喜々して僕と交際してますよ!って答えてたと思うけど」

「私、ウソつかないもん」


 騒動になってすぐに九土さんが賞を取った写真を指摘して、

『月夜くんへの愛情がこの写真から読み取れるじゃないか』と取りなし、星矢が

『妹の交際は俺が認めた。文句があるなら言ってこい』脅すように言葉を吐く。

 学園一のかぐや姫への交際騒動も2人の権力のある生徒から言われてしまえば誰も文句は言えない。


「そこで堂々と僕は月夜を愛してるって言ってくれたんですよね~。録音してほぼ毎日聞いてます」

「あの一瞬でよく録音できたね……」


 ここまでの流れを仕込んでいればあとは僕が気合いをいれるだけで何とかなるものだ。

 その後しばらく数々の男子生徒から文句は言われたが、同じ部活の連中やクラスの連中なども協力してくれて平穏を保っている。


「僕と月夜の交際についてはこれで万事解決……」

「本当にそう思ってます?」


 月夜はぐいっと顔を寄せてきた。ちょっと機嫌が悪そう。でもキスしたくなるかわいさだ。


「私が気にしてるのは【あの娘】です! この件があったのに変わらず太陽さんにアタックしてくるあのメスネコです!」


 今年の4月に入学した新入生で、陸上部のマネージャーになった女の子がいて、ちょっとした経緯で好かれてしまったんだよね。

 上の件で月夜と交際してるから強めに断ってるんだけど、あんまり聞いてくれない。

 月夜ほどではないけど、かわいいから男子からのクレームもあって困っている。


「結構ばっさり断ってるんだけどな」

「あれを断っているとは言わない。彼女いるから控えてくれると嬉しいな~とか、君の気持ちは嬉しいけど正直困るとか、意識している感ばりばり出すからつけあがるんですよ!」

 

 実際月夜以外の女の子に興味はないんだけどな。

 異性にきついことって言えなくない? 泣かせたりしたらすっげー罪悪感が出そうだし。実害がない以上、付きまとうなとは言えない。

 僕は他人に対してそこまで強気にはいけないんだよ。


「でもたまに仲いい時ない? キミタチ」

「同じ人を好きになって気が合うだけです。でも基本ライバルですから!」


 学園一のかぐや姫からライバル認定って意外に評価してるようにも見える。

 なるべく、月夜が側にいない時は会わないようにするか。


 のんびりと談笑するがさすがに体も熱くなってきた。

 風呂から上がって、朝飯を食べたらチェックアウトか……。この旅行も終わりだな。


「ねぇ太陽さん」

「なに?」

「太陽さんは将来の夢とか考えてますか?」


 月夜は真面目なまなざしで僕を捉える。

 本来であれば夢を持って、大学に進学して、その道に進むものだろう。

 グループメンバーもみな各々、進路を考えてるし、星矢は堅実な人生という……ある意味夢としてはしっかりしてると思う。


「写真が好きだからカメラマンなんかもいいかと思ったけど、あれは趣味でやるのが1番だね」

「趣味を仕事にすると大変って聞きますからね」


 ゆっくりと息を吐く。


「医療従事者ってのは考えてる」

「医者ではなくて……ですか?」

「医学部はちょっとね。お金の問題もあるし。まだ漠然としてるよ、正直」


 でも考えてないといけない。

 もし月夜と付き合ったまま、結婚することになるのであれば独りよがりに生きるわけにはいかない。

 堅実もいいけど、せっかくだから興味のある分野の仕事がしたいな。


「月夜は……夢はある?」

「ありますよ」


 月夜の夢って正直聞いたことがない。才覚に溢れた月夜なら何でもできるだろう。

 そのルックスを活かした仕事、頭脳を活かした仕事、頭の回転も速く、口も達者だ。

 どんな職についても……美しすぎるなんたらってのがつきそうだ。

 月夜は僕の腕にひっつく。


「私の夢は……たった1つです」


 月夜は本当の美しい笑顔を浮かべた。




「私は太陽さんのお嫁さんになりたいです」


「え……?」


「あなたをずっと好きでいて、あなたを支えて、あなた共に生きたい」


 月夜は顔を赤くしてゆっくりと噛みしめるように言葉を吐いた。

 僕の胸も熱くなり、心が震える。温泉の影響だろうか、互いの熱が上がっているような気がする。


「太陽さんの夢を応援します。だから……成し遂げた時に私の夢を叶えてくれませんか」


 月夜は微笑む。

 向けられる月夜の愛情に嬉しくて、愛しくてほんとにたまらない。

 月夜を自分の胸に寄せて、強く、強く、強く抱きしめた。


「月夜、愛している! 絶対に君の夢を叶えてみせる!」

「はい!」


 立ち上がって、月夜にありったけの愛をぶつけるようにキスをした。

 もう止められない。月夜への愛情が狂ったようにわき上がる。

 何度も何度もキスをして、確かめ合うようにふれあう。


 そして月夜は自分で体に巻いたタオルを剥ぎ取った。


「太陽さん、来て……」

「ああ、とても綺麗だ!」



 一糸まとわぬ綺麗な月夜の体を見て、僕と月夜は重なり合った。







 ピピピピッピーーー!


「ちょちょちょ、あなた達、何やってるの!!」


 甲高い笛の音も関係なない、もはや何も月夜とのふれ合いを止めることはできない。

 スーツ姿の片山さんが慌てた表情で近づいてくる。

 月夜は片山さんの方を向く。


「ああ、もう! 片山さんも何で風呂でスーツ着てんですか!! 脱いでください!」


「え?」


 片山さんは虚をつかれたように止まる。

 そして僕は片山さんの手を引いた。


「今の僕なら2人ぐらいなら余裕っすよ! みんなで愛を確かめましょう!!」


「ひ、引っ張らないでーーーっ! いやあああああ、若者におかされるぅぅぅ!」





 この後、猛烈な抵抗に合い、結局何も成し遂げることはできなかった。


 そして僕と月夜はレッドカードをそれぞれ1枚ずつ頂き、片山さんからすごく怒られた。


 こうして僕と月夜の夏旅行は終わりを迎えた。


 そして時は少し過ぎる。

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