146 太陽と月夜、星矢と水里②

「星矢くーん!」


 僕と月夜の横を通りすぎ水里さんは廊下をドタドタ歩く。

 神凪家のリビングの床には大きなテーブルが置かれており、奥で神凪星矢がスマホ片手にこちらを向く。


「バカップルにバカにされたあ!」


 バカップルとはいかがなものか。

 相当真面目な交際をしているというのに……、僕の左腕にひしっと引っ付く月夜の髪を右手で優しく撫でてあげる。

 2人ひっついたままリビングへ到着した。

 星矢も僕と月夜の様子を見て、頬をヒクヒクさせる。星矢は何も言わないが、言いたいことはあるのかもしれない。


「こいつらのバカっぷりは今に始まったことじゃない」

「バカ、バカって、言いたい放題だな君達は。何がそんなに気にいらないんだ」

「そんなこと言いつつ、未だ抱き合って今にもキスしようとしてるトコだよ! もう少しまわり見て!?」


 仕方ない。甘えてくる月夜を押さえて、一時的に離れることにする。

 1つのテーブルを囲んで4人は座る。

 元々座っている星矢の横に、水里さんが座る。星矢の対面に僕が座り、そして僕の胸の中に月夜が座る。


「おい」


 水里さんから低音の声が出る。また、何か気にいらないことがあったのかな。


「その座り方おかしいでしょ!?」

「え、この座り方は私と太陽さんの利害が一致しているんだよ」


 月夜が詳しく説明する。


「私は太陽さんに包まれて、体温を感じるの好きで、たまにこうやって後ろを向いて太陽さんの胸元をすりすりするの」

「僕は小柄な月夜を抱きつつ、たまにこうやって月夜の栗色の髪を撫でてあげたいんだよ」


 僕と見上げる月夜の目が合う。


「完璧だね」「完璧ですね」


「バカじゃないの!?」

「ふっ……」


 水里さんの暴言に星矢はほっこりとした顔をする。


「水里、おまえがいてくれて助かったよ」

「さては私をツッコミ役で呼んだな!? 私の純情を返してよーーっ!」

 

 まったく騒がしいな。僕は月夜の髪を顔に感じつつ、頭をゆっくりと撫でてあげる。

 この体勢が心地良いんだよな。小柄な月夜は本当に胸にすっぽり入って、スベスベの肌は触るだけで興奮するよね。いい香りもするし。

 たまにじゃれついてくる月夜の脇腹をつんつんしてあげると。


「やん、にゃぁん」


 反応良く、体をくねくねして、良い鳴き声をあげてくれるので一層かわいいし、嬉しいよね。

 そんな僕達の様子を水里さんが口を開けたまま見て止まっている。

 星矢が息を吐いた。


「勉強するぞ」

「えっ、もう勉強しちゃうの?」

「おまえの勉強みるために集まってるんだぞ……」


 あ、そうだった。

 星矢も水里さんも上位だからな……。30位中、20番前後の僕は楽観視できる状況ではないのだ。


「そうだよ太陽くん。学期末駄目だったら留年だよ」

「留年!? じゃあ、太陽さんと一緒に2年生になれる!?」

「それもいいかもしれないね」

「いいわけないだろ。あの親御さんを悲しませるなよ」


 星矢はウチの両親をかなり慕ってくれている。僕が大けがしたあの7月下旬の事件の時にいろいろあったようだ。


「それより、その体勢で本当に勉強するの?」


 月夜を胸に囲ったままの体勢の僕に水里さんは指摘する。


「だったら水里ちゃんもお兄ちゃんの胸の中で勉強したらいいよ。太陽さんは駄目だけど」


 それは僕の胸の中に水里さんが来るのが駄目なのか、星矢の胸の中に僕がいくのが駄目なのかどっちだろうか。

 水里さんは星矢の方を見る。


「え、やるの?」

「わーん、嫌そうな顔された!」


 でもここは助け船を出しておくか。


「星矢、一度やってみなよ。女の子を抱くってのはね、経験しておかないと分からないものだよ」

「コイツ、何でそんな上から目線なんだ。イラっとくる」


 月夜を抱きしめながら教えてあげているのに伝わらないものだな。


「水里。おまえがいいなら構わないが……」

「そ、そう?」


 お、これは……。僕と月夜は目を合わせ、2人の様子を見守る。

 僕達の恋路を助けてくれた2人だ。ここらで進めておくのもありだろう。

 星矢は少し下がって、水里さんが入れるようにスペースを空ける。

 水里さんは恐る恐る……星矢の足の上へ座った。

 おお、水里さん顔真っ赤だぞ。こんな表情初めてみた。


「水里ちゃん、かわいい」

「う……うぅ」

「これは……」


 星矢のやつも照れているな。僕も最初に月夜を抱いた時は照れまくったからねぇ。

 恋人同士になるとその照れも心地いいものになる。

 しかし星矢と水里さんは完全に止まってしまっている。


「水里」

「な、何?」

「おまえ……こうやって近づくと想像以上に細いんだな」

「わ、私くさくないよね?」

「特には。それにしても綺麗な髪をしているな。触ってみてもいいか」

「っ!?」


 水里さんはばっと星矢から離れて、窓側まで這いずって進む。


「無理無理無理、恥ずかしすぎて無理!? 世間のカップルなんでこんなことできるの!?」


 今の2人じゃここまでが限度か。

 月夜は僕の胸を顔を預け、僕は月夜の髪を優しく撫でた。


「初々しいねぇ、月夜」

「はい、昔の私達のようですね、太陽さん」

「バカップルは自重しろ」

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