145 太陽と月夜、星矢と水里①

 学期末試験直前、定例のお泊り会が開始される。

 冬の時は大変な目に遭ったよな……。今となっては懐かしいし、あの時欲望のまま行けばよかったと後悔もしている。

 神凪家のアパートを訪れた僕の前にちょうど水里さんが家から出たところだった。


「やっほー」

「こんにちは水里さん」


 清楚な白のワンピース、水里さんは口調と裏腹に真面目な恰好が多い。

 僕の好みではないとはいえ恒宙こうちゅう学園のミスコン1位はやっぱり美人だ。

 肩までかかった亜麻色の髪はところどころ外ハネしており、髪に広がりを感じる。

 月夜ほど神がかった美しさは無いが親しみやすさ、話しやすさから2年でも1番人気の女の子に違いない。


「今日は水里さんも参加するんだね」


 神凪家のアパートの扉の前で僕と水里さんは談笑する。


「ふっふーん、星矢くんから是非来てくれって言われちゃってね~」

「おお、星矢が!? 雨でも降るのか? でも今日は快晴だ」

「そんなこと言われちゃったら私も行くしかないよね」


 特進科5位の水里さんは自己勉だけで試験をクリアできる人だ。

 特に1~3位はちょっと異次元すぎる学力のためせっせとやっても上がれない。水里さんにとってはお楽しみ気分の勉強会かな。


「太陽くんは交際も順調だね」

「……そうだね」

「月夜ちゃんの嬉しそうな笑顔を見ているとずっと相談に乗ってた甲斐があったよ」


 確かに姉妹のように仲の良い2人だ。お互いの恋愛事情に対して、相談し合っててもおかしくはない。


「その、始めて相談された時は……おかしいとか思わなかった?」


 水里さんは首を傾げた。


「ん? そんなこと思わなかったよ。7月下旬のあの時はちょっと運命的な事件だったしねぇ。太陽くんが入院の時にいろいろあったのは聞いてたから疑問には思わなかったよ」

「そ、そう」


 水里さんはバンと僕の背中を叩いた。


「消極的になっちゃダメだよ。未だに月夜ちゃんに選ばれたみたいに思ってるのかもしれないけど……」


 その思いはかなりある。釣り合いとか考えないようにしたいけど、考えてしまうのが性だ。いつ、月夜の気持ちが離れてしまうんだろうと悲観的に考えてしまう。


「間違いなく、選ばれたんじゃなくて、太陽くんが月夜ちゃんを口説いて惚れさせたんだよ。ずっと見ていた私が言うだから間違いない」


 自信満々明るく水里さんは言う。

 この女の子が自信満々に言うのであれば何でも信じてしまいそうだ。本当に天真爛漫、お日様のような子だ。


「ありがとう。水里さんには本当にいくらお礼を言っても足りないかもしれないね」

「どうしたの、改まって」

「ほら、バレンタインデーの日も僕と月夜を見守ってくれてたんでしょ? 駆け出した月夜を追いかけたって」


 あの時は項垂れた僕を星矢が、駆け出した月夜を水里さんがフォローしてくれた。

 当時のことをなかなか聞く機会がなくて、礼を言うのが遅れてしまった。


「あはは、仕方ないよ。あれは私も星矢くんもびっくりだったもん。泣きじゃくる月夜ちゃんを慰めるのは大変だったけどね」


 ただ落ち込むだけだった僕と違い、月夜は全力疾走で走っていったもんなぁ。

 水里さんも運動能力は高い方だけど、大変だったに違いない。


「私1人じゃ無理だったから海ちゃんや木乃莉ちゃんも呼んだんだよ。0時過ぎなのに2人ともすぐ来てくれて……本当にいい友人だよね」


 う、今度世良さんや瓜原さんにもこの件でお礼を言わないといけないな。


「終わりよければ全てよし、みんなが幸せであれば満足だよ」


 水里さんは笑った。

 いつもはお騒がせ女とか言ってるけど、みんなをまとめて……良い方向へ持っていく。

 僕とも月夜とも違う水里さんの力は尊敬できるな。


「水里さん、本当にありがとう」

「何度もお礼なんて」

「ああ、違うよ。今回の件も含めてだけど……水里さんが友達で本当によかったと思う」

「え?」


 水里さんは口をぽかんと開けて惚けた。


「僕と星矢だけだった関係に水里さんが入ってくれたおかげで本当に世界が広がったと思うよ。月夜と関係が進むきっかけも去年に水里さんがここに引っ越ししてきてからだと思うし。そういう意味では出会えてよかったよ」

「も、もうからかわないでよ!」


 水里さんは顔を紅くして、少し後ずさる。亜麻色の髪がすっと揺れて、ややオーバー気味に首を振る。


「ホントにホントだよ。でも水里さんが照れるなんて珍しいね」

「もう、私だって男友達は太陽くんぐらいしかいないんだから、異性に褒められたら照れるに決まってるでしょ」

「あ、やっぱ照れてんだ」

「うるさい! 太陽くんのくせに胸に来ること言うから。彼女を持って気が大きくなったか」

「あはは、女友達っていう点では僕は水里さんを一番仲良しだと思ってるよ」


 気兼ねしないというのは本当に大きい。

 これからもこうやって冗談を言い合い続けていきたいな。


「もう太陽くんったら……っ!」

「ん? どうしたの。ひっ!」


 水里さんがふと左を向いたと思ったら表情を強張らせた。

 釣られて僕も同じ方向を見る。すると神凪家のドアが微かに開き、隙間から恐ろしい目力を放っている二重の瞳が見えた。真顔になっている。

 思わず僕と水里さんが恐怖に声をあげる。


「ふーん、楽しそうですね」


 正体は僕の恋人、神凪月夜だ。微笑んでいるのにまったく笑っていないように見える。

 ドアがギギギと音を上げて開いていく。


「つ、月夜ちゃん、いつから」

「男と女の間に友情は存在しないってとこから」


 そんな話はしていない。

 月夜が嫉妬深いのは知っていたがまさか水里さんとの仲まで疑われてしまうのだろうか。


「僕と水里さんはそんな関係になることはないよ。月夜だって水里さんの想い人を知っているじゃないか」

「そうですけど……でも!」


 月夜はきっと水里さんを睨む。


「水里ちゃんと話す時、太陽さんって安心しきったような口調で話すし、水里ちゃんの料理を前に好きだって言ってたし、私以外で唯一下の名前で呼ぶし」

「太陽くんの浮気遊びに私を巻き込まないでくれる?」

「そんな遊び存在しねぇよ」


 ここはちゃんと否定しておこう。


「月夜、僕を信じてくれ。僕がそんな浮気なんて不誠実なことをする人に見える?」


 月夜は笑みを崩さない。そして首を横に振った。


「浮気は男の甲斐性ですから構わないですよ」

「え?」「はい?」


 僕と水里さんの声が重なる。


「太陽さんが心が離れてしまうこと、半分は繋ぎ留められなかった彼女である私の責任」


 月夜は優しい口調で自分の胸に手をあて……胸中を語る。そして水里さんを見る。


「もう半分は彼氏を惑わす泥棒猫が責任を負わないといけません」

「ひっ!」


 すごい目力。

 なるほど、浮気をすると僕は直接罰せられないけど、浮気相手が血を見るということか。間接的に恐ろしい制裁だ……。

 ふぅ……。

 僕は神凪家のドアを思いっきり開けて、月夜の周囲をフリーにさせる。

 そのまま月夜を抱き寄せた。


「悪いけど……僕は月夜以外の女の子に興味はないんだ」

「……」


 月夜の顔を胸に押し付けて、ぎゅっと強く抱きしめる。

 綺麗な栗色の髪を右手とさわりと撫でて、左手で強く背中から抱き寄せる。


「ふぐぅ」


 月夜が甘えた声を出す。付き合ってそろそろ一ヶ月。月夜は強気なキスに合わせて僕の胸に顔を押し付けられることを好む。

 強引かもしれないが望まれていることをしてあげたい。


「出会った時からずっと月夜が好きだったんだ。不安な気持ちになる必要なんてない」

「ふぁい」


 月夜の耳元で優しく呟いであげる。


「太陽さん……」


 少しだけ月夜を胸から離し、その整った顔を見下ろす。とろけた目で僕を見つめ、ぼーっとしている。

 機嫌が直ってくれたようだ。だが……これで終わりにする気はない。

 僕は月夜の小さな頬に右手を寄せて、ゆっくりとキスをした。

 30秒……1分、ゆったりとした時間が流れる。ああ、愛しい。何度も何度もキスをしたいが玄関口でずっとは良くない。

 唇を放して、僕は月夜を片手で軽く抱き寄せて、2人でそのまま家へ中へと入る。


「今日もずっと一緒だよ」

「……はい」


 ドアゆっくりと閉めて、2人の時間は続いた。


 そして……。

 ドアが急に開く。


「私を締め出すなァァァァァァ!」


 あ、水里さんいたんだ。

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