122 あの夏の思い出⑤

※122話,123話は星矢視点となります。 


 俺、神凪星矢にとって最も恐ろしいことは家族を失うことだ。

 大切な妹と遠方に住んで、生活が苦しい中で支援してくれてる叔父は何としてで守りたい。


 あの時、土砂崩れが月夜に降り注がれた時、俺は運命を呪ってしまった。

 まったく気づかず、動けなかった。ただ1人の男を除いては……。

 親友、山田太陽のみが土砂崩れと同時に動き、月夜を庇って、崖下へ転落していった。


 一刻も早く助けにいかないといけなかったが大雨と島の未開拓の東部地域は夜の移動が出来ない。

 そのまま、まる一日歯がゆい時間を過ごすことになる。

 ようやく雨が上がった早朝に俺はすぐさま、東部地域へ足を踏み入れた。


「さっさと来い! 何やってんだ星矢ァ!」

「うるさい。怒鳴るな」


 俺はその声を聞いて気持ちが高揚した。

 妹が無事だった……そう思えただけで心から安堵する。

 しかし、月夜を背負う親友の姿を見て心が冷えた。あいつの体はボロボロだった。顔から足まで擦り傷、切り傷だらけだ。月夜には何の傷もないのにどうして。

 俺の質問を太陽はばっさり切り捨てる。高熱を出している月夜を助けるのが先決と何度も口をうるさく言う。

 太陽の姿も気になるが、有無を言わさない言葉と表情に割り切り、協力してコテージまで連れていった。


 コテージまで到着してすぐに月夜にできる限りの治療を行い、他のメンバーが呼んでくれた緊急のヘリが本土からやってきた。近場の島で本当によかった。

 月夜を乗せ、俺と顔が利く九土原先輩が一緒に乗り入れる。

 早く……病院に行かないと。


「待って!」


 水里が慌てた顔でこちらにやってきた。


「太陽くん、こっちに来てない!? さっきから姿が見えないの」

「なんだと!?」


 本人はずっと問題ないとずっと強がっていたが、そういえばさっきから声がしない。

嫌な予感がし、俺はすぐさまヘリを降りる。


「最後にどこに行ったか分かるか?」

「トイレに行くって……」

 

 トイレはコテージから少し離れた所にあった。

 月夜を早く病院につれていかなければいけないが、放っておくわけにもいかない。

 急いで公衆トイレの中に入る。すると入口のすぐ側で太陽はうつ伏せで倒れていた。思わずぞっとした。


「太陽! おい、しっかりしろ!」


 顔が青白くなっている。上着のチャックを開くと胸部が裂傷で服の中が血まみれになっていた。

 足は打撲だろうか、内出血でパンパンに膨れ上がっている。こんな状態で月夜を背負って歩けるのか……?

 月夜よりよっぽどひどい状態じゃないか。

 太陽を持ち上げ、頭を出来る限り揺らさないようにヘリへ運ぶこんだ。


「急いで出てくれ! 頼む!」



 ◇◇◇



 月夜は高熱だったが、点滴を受け容体はすぐに安定した。

 太陽はかなり危険な状態で緊急の手術となったが、無事に終わり、命に別状はなくなった。

 太陽の両親には連絡して、謝罪をさせてもらった。何度か太陽の家に泊まりに行ったことがあったため顔見知りでもある。

 罵倒も覚悟していたが、やっぱりあいつの両親だけあって温かい人達だった。月夜を心配してくれ、俺を励ましてくれたことはありがたい。

 素晴らしい人達だな、俺と月夜を捨てた両親も……この人達のようであれば……。


 そしてその夜。


「……ここは」

「起きたか」


 太陽はようやく目を覚ました。

 礼と文句、どっちも言ってやる。

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