121 あの夏の思い出④

 妹ちゃんは再び眠ってしまった。

 その間に外へ飛び出す。日が沈むにはまだ早い。雨の中、僕は脱出ルートを探しにいく。

 明日の朝、雨が上がったら……妹ちゃんを連れて脱出する。

 雨の中を痛む足を引きずって、歩き回ったおかげで大まかなルートは確立した。


 洞窟に戻って一休みする。


「っ!」


 頭が痛い。

 妹ちゃんの風邪がうつったのかもしれない。それがどうした。

 動けるんなら大丈夫だ。全身傷だらけだけど構うものか。

 取れたモモと水は全部妹ちゃんに与えた。これで明日の朝までは大丈夫なはずだ。


「……はぁ……はぁ」

「月夜、頑張れ、頑張れ」

「……うん」


 僕は妹ちゃんの手を握り、星矢を真似て必死で声をかけ励まし続けた。僕にできることは多くはない。

 でもみんなから好かれるこの綺麗な女の子を絶対に助けたかった。


 そして明け方。

 雨は収まり、日が出てくる。熱で吐き気がするが……そんなことは言ってられない。

 妹ちゃんを背負って、僕は外に出る。ルートは確立している。ここを進めば恐らく、西側へ出られるはずだ。

 きっと星矢たちもこちらに来るはず……。


 大雨の影響で晴れているが道は雨でぬかるんでいた。でも負けるわけにはいかない。打撲で痛む足を引きずって必死に上を目指して進む。

 1人で登るなら問題ない段差も妹ちゃんを背負った状態なら難しい。

 軽い岩場をよじ登り、なんとか上を目指す。服で妹ちゃんは固定しているから外れることはない。

 30分、1時間……必死に歩き続ける。日が照っているせいで異常に暑い。だがもう……汗が出ることもない。

 もう少し、もう少しで西側へ移動できる。


「あっ……」


 土砂が落ちて道が塞がれている。妹ちゃんを背負ってはこの土砂の段差は登れない。

 僕だけで行くか? でも妹ちゃんを放置していくわけには……。

 どうすれば……どうすれば……。何だかすごくイライラしてきた。

 おまえなら、この子が大事ならすぐ現れるべきだろう。


「さっさと来い! 何やってんだ星矢ァ!」

「うるさい。怒鳴るな」


 日の光に照らされ、塞がれた土砂の上に立つ男。

 ああ、まるでヒーローのようだ。

 栗色の髪に端正な顔立ち……そうだよ、ヒーローはちゃんと呼べば来てくれる。

 僕が待ち望んだ神凪星矢は僕の元に降り立った。


「太陽……おまえ」

「僕はいい。それより妹ちゃんを運んでくれ。高熱が続いているんだ。早く病院に運ばないと」

「……分かった」


 妹ちゃんを星矢に渡して、2人で協力して土砂の段差を登っていく。

 さすが星矢だ。妹ちゃんを背負いながらも動きが俊敏だ。やっぱり敵わないよな。

 塞がれた所を抜け、少し歩くと見知った道へと出た。


「星矢くん! 太陽くん!」


 ああ、水里さんだ……

 奥には北条さん、九土さん、瓜原さん、弓崎さん、世良さん、ひーちゃん。みんな心配そうに見てくれてる、

 大丈夫だ。みんなが心配な妹ちゃんはここにいる。病院にさえ連れていけば大丈夫だ。


 コテージの側に到着した。


「今、ヘリを呼んでいる。もうすぐ着くはずだ」

「すみません、先輩。誰か水を持ってきてくれ」


 世良さんや瓜原さんがすぐさま動いてコテージの中へ入っていく。

 星矢は僕の方を向いた。


「太陽……おまえのおかげだ。本当にすまない、傷だらけにしてしまった」

「僕は大丈夫だ。それより妹ちゃんを優先してくれ」


 お礼を言われるようなことはしていない。星矢に心配されるとむず痒いな。

 みんなが月夜の前に集まって声をかけている。

 遠くからヘリの音も聞こえてきた。

 僕はみんなの輪から離れる。


「太陽くん?」


 水里さんに声をかけられる。


「ちょっとトイレいってくるよ。我慢の限界だ」

「もう……本当に大丈夫?」

「もれそう」

「そっちじゃないよ!」


 トイレはコテージの横に公衆トイレ場がある。

 正直……これ以上立っていられなかった。妹ちゃんが助かると分かってほっとしてしまったんだな。

 今、倒れたら救急が遅れるかもしれない。僕のせいで彼女の治療が遅れるなんて嫌だ。

 これでみんな幸せのハッピーエンドだ。


 全身がズキズキする。頭は死ぬほど痛いし、喉も胃もカラカラだ。まぁ寝れば治るだろう……。

 何とか足を引きずって公衆トイレに入る。


「きっつ……」


 それから何があったか……僕は知らない。

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