112 月夜の誕生日⑦

「う、うーん」

「あ、起きた」


 場は宴会の部屋。

 僕と瓜原さんは倒れていた月夜を介抱していた。

 星矢と水里さんは旅館の調理場を借りて、いくつかの料理を作成し、他のメンバーでイベントや宴会の場の設営をしていた。

 僕も手伝いたかったが、月夜の側にいるようにと注意されたため宴会場の窓際にいた。

 月夜は起き上がって、少し頭を押さえる。


「月夜、大丈夫?」

「木乃莉ありがと。ちょっと頭が痛いけど、大丈夫。それより何かすっごいいい夢を見てたの。あんなに覚えているの初めて」

「夢?」


 ウキウキ気分で月夜は瓜原さんと話す。後ろにいる僕の存在には気づいていないっぽい。まぁいいか。


「あのね。太陽さんみたいなかっこいい王子様にね」


 ぐふっ!

 危うく声に出るとこだったわ。まず前提おかしいだろ。僕みたいな王子様ってどういう設定だよ。

 瓜原さんもちらちら僕を見て困ってるぞ。月夜は栗色の髪をふりふりと動かして喜んでいる。どんな顔してるか後ろからでも想像できる気がする。


「抱きかかえられてね。すっごく大切にしてもらえたの。いい夢だったな……」

「多分夢じゃないよ……それ」

「え?」

「思い出して、月夜がどこで倒れたのか。誰が介抱したのか」


 月夜の動作がそこで止まる……。するとワナワナと震えだした。


「わ、私……風呂場で倒れた……? あの時確か太陽さんが側にいて……」


 瓜原さんが指をさして、月夜が後ろを振り向く。指をささなくてもいいんだよ。僕もどんな顔をしていいか分からなくて顔が熱くなった。

 月夜は風呂場でのぼせた時のように二重の瞳をぐるぐるさせ、気を動転させる。


「ひゃあああああああ! わ、私は……タオル巻いてたけど……そ、その!」

「だ、大丈夫! 何とかタオル巻いたまま介抱できたから!」

「で、でも……! は、恥ずかしい!」


 月夜は真っ赤になった顔を隠して手で覆った。

 瓜原さんはそんな様子を見て、息をつく。


「それで何で水着着てなかったの。持ってきてたでしょ」

「……入らなかったの。水着が入らなくて、あ! ふ、太ったわけじゃないですよ!」


 そこは別に気にしていない。


「その胸が入りきらなくて……」

「はぁ!? また大きくなったの!? 私は中二から成長してないのにどうなってるの!?」


 そういう体の話は僕のいない所でしてください。

 瓜原さんは機嫌悪そうに月夜の胸部を見つめる。


「毛の処理とかしっかりしたから大丈夫かなって」


 大丈夫なわけないだろ。どんだけ僕の煩悩刺激したと思ってるんだ。

 あんなに長時間、股間のカーテンを維持したのは初めてだよ。病気になるかと思った。

 僕は月夜へと声をかける。


「ま……無理しないようにね」

「はい……」


 やばいな、月夜の顔が見れないや。


 月夜が復活したということで月夜も早々に料理班の所へ行ってしまった。

 僕は宴会場の設営、料理の運搬などを行い……あっという間に定刻の19時になってしまった。


 旅館側が用意してくれた料理に水里さん、月夜が作った料理が並ぶ。星矢の料理はまた違うやつなのかな。

 3人とも戻ってきて、神凪兄妹が僕の両隣に来る。


「おつかれ、星矢、月夜」

「ああ」

「何とか間に合いました」


 食事は立食系のバイキングだ。これはたくさん食べないといけないな。

 九土さんが司会進行をし、場を盛り上げる。今日の主役である月夜から一言もらうため、前の方へ呼ばれた。

 僕はカメラを持って近づく。作業準備の時からずっとカメラ回してたからね。この後もどんどんカメラを回すよ。


「今日は私の誕生日にこのような素晴らしい会をありがとうございます。冬の旅行も兼ねていますのでみんないっぱい食べていっぱい遊びましょう!」

「ふふ、可愛らしいな。では皆、乾杯だ」

「かんぱーい」


 みんなグラスを持って乾杯した。当然お酒などない。

 僕は星矢や月夜と話をしつつ、各々喋るみんなに向けてカメラで写真を撮り続ける。

 風景写真ばっかりだったのに……いつのまにか人物写真の方が多くなってしまったな。大半が月夜だったりもするんだけどね。

 やっぱり僕は楽しそうに笑うみんなを撮ることが好きだ。


 食事の最中……一大イベントがやってくる。 ライブハウスで練習した小規模ライブだ。北条さんと世良さんはコーラス担当。ひーちゃんはアイドル衣装に着替えて……僕は……。


「きゃああ! 太陽さん、素敵です!」


 喜んでるのは君だけだけどね。

 秋の体育祭で星矢が着ていた白のタキシードの衣装を特別に借りてきた。やや大きいが着れないことはない。

 カメラは星矢に任せてるが……さっきから連射モードで撮るのやめろ、あいつ。


 今日は月夜の誕生会。いつもはこんなことしないけど……恰好つけさせてもらおう!



 ◇◇◇



 小規模ライブも終えて、誕生日プレゼントで有志で購入した大きめのパンダのぬいぐるみが月夜に渡された。

 あれ、今流行りのやつだよな。前に一緒にいた時、月夜が何か言ってた気がする。

 そしてそのままカートで運ばれてきたのが特大の誕生日ケーキだ。

 星矢が仕上げのホイップクリームを加えて完成だ。

 なるほど、星矢が料理班にいたのはこれを作るためだったんだな。


「お兄ちゃんこれ作ってたんだ」

「意外に楽しいもんだ。パティシエって未来もありかもしれない」


 イケメンパティシエってことで人気出そうだな。家庭科部で腕を磨く星矢の将来が少し見えてきているのかもしれない。

 甘いもの好きの月夜は目を輝かせていた。

 ろうそくを16本立てて、火をつけて、部屋を暗くする。

 月夜が息を吹いて……火を消した。本当に理想的な誕生日パーティだなぁ。カメラを持ってケーキを食べる女性陣の写真を撮りまくった。

 ちなみに衣装はやはり大きいのですぐ浴衣に戻してしまった。


 さてと……全てのイベントも終わり、みんな歓談に入っていた。

 写真も相当撮ったし、もうそろそろいいだろう。

 さてと誰の輪に入ろうかな。いくら友達だと言わても女の話の輪に入るのはやはり抵抗がある。

 星矢の所に行くのがいいか。


「あ」


 ふと窓から見える夜空が星だらけであることに気づいた。

 これは是非とも撮ってみたい。

 よし、外に出よう。


「ちょっと外行ってくる!」

「はーい」


 誰かの答える声がして、僕は部屋を出て……玄関口へと向かった。


「……あれ、太陽さん何か落としてる。カード入れかな。……っ!」

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