099 夢

 

「起きて……」

「ん……」

「起きてください……」


 うん……。

 目が覚めた。ここはどこだろう。

 見覚えのないベッドに部屋だ。そして僕に微笑む……美しすぎる女性の姿。

 月夜……? で、でも顔が大人っぽくなってるし、胸はがぼぼーんってなってる。でもどう見ても月夜だ。

 エプロンを付けて、僕を起こそうとしたようだ。


「つ……月夜?」

「はい、月夜ですよ、あなた」


 あなた!? これはいったいどういうことだろうか。唖然としていると月夜は微笑む。


「呆けているみたいですね。妻の顔を忘れちゃいましたか?」

「あ、いや……そんなことは」


 妻!? 月夜が僕の奥さんだって。

 そんな事実はあるはずが……! もしや未来に来てしまったのか。

 僕は思わずほっぺをつねってみた。


 痛くない。


「あ、夢か」



 ◇◇◇



 どうやら夢を見ているみたいだ。月夜に好意を持つあまりについに奥さんにしてしまう夢を見てしまったのか。

 そういう願望がなかったわけではない。月夜が奥さんって僕にとってはきっとありえないほど最良の未来なのだから。


「月夜」

「はい?」

「……。今日の朝ご飯は何かな」

「あなたの大好きな鮭の開きとオムレツですよ」


 妻なのだから抱きついて、キスさせてくれって言おうと思ったが夢でもヘタれが抜けない僕にできるはずもなかった。

 夢なんだからその豊満な体を楽しむ……って感触とかないから無理か。

 しかし、大人になった月夜は美しい。完全な美女となっており、どんな大人も彼女を放っておかないだろう。


 月夜に連れられて、リビングへのドアを開く。

 リビングの中に入ると2つの陰が僕に突進してきたのだ。


「パパ、おはよう!」

「パパ、おそいよ!」


「もう夜空、夕翔。パパに失礼でしょう」


 僕の足にしがみつくのは2人の子供。栗色の髪にくりくりとした二重の瞳の子供。女の子のは肩まで髪を伸ばしており、男の方はくせ毛が強い。

 どっちもすんごくかわいい。こんなかわいい子供初めてみたぞ。人形かと思ったよ。

 女の子が夜空で男の子が夕翔だというのか。女の子は月夜そっくりで男の子は言えば星矢そっくりだ。背丈も近いし双子かもしれない。

 僕がパパってことは2人の父親なのか。

 僕は屈んで2人を抱きしめる。抱きここちがあるような、ないような……、とにかく。


「かわいい。2人に僕の顔の遺伝子が入らなくて本当によかった……」

「もう、お義父さんやお義母さんと同じこと言うんだから」


 ウチの両親なら言いそうだ。これだけ月夜の遺伝子が顔に出ているなら将来も安泰だろう。

 どちらも告白されまくる人生になるだろうけど。


「ちゃんと、あなたの遺伝子だって入ってるんですからね」


 どこだろう。正直、あんまり入って欲しくないんだけど……不純物にしかならないよ。


「パパ、ぎゅーっとしてぇ!」


 女の子、夜空をぎゅっとしてあげる。本当に月夜の小さい頃みたいでめちゃくちゃかわいいな。

 いっぱい頭を撫でてあげる。この子もあと10年ぐらいしたら彼氏が出来てしまうんだろうか。嫌だなぁ。星矢の気持ちが分かる気がする。


「わたし、大きくなったパパのお嫁さんになる!」

「はは、ありがとう」

「ママとりこんしてわたしと結婚してね」

「ブホっ!」


 なんかとんでもないこと言い出したぞ。月夜は……笑ってるけど、笑ってないぞ。


「もう夜空ったらパパを困らせたら駄目よ」

「困らせてないもーん。わかい女の方がいいって星矢おじさんが言ってた」


 あいつ何言ってるんだ。夢の中だからわけわからん存在になっていてもおかしくはない。


「アレの言うことを聞いては駄目よ。夜空、パパから離れなさい」


 兄がアレ扱いなのが当たり前になってる件。それにしてもなんか険悪になってきてないか? 妻と娘がケンカする所なんて見たくないんだが。

 すると隣にいた夕翔が声をあげた。


「じゃあ、ぼくがママと結婚するー!」

「あ、あら。ふふ、ありがとう夕翔。3人とも、ご飯にしましょう」


 月夜の機嫌が直ったようだ。ふぅ一触即発だったなぁ。


「助かったよ夕翔」

「ママは怒ると面倒くさいからね。僕がバランサーにならないと駄目なんだ……」


 この無駄に気を使う性格、間違いなく僕の遺伝子だな。

 その性格は将来苦労するぞ。星矢の顔で僕の性格って多分めんどくせぇぞ!


 食事を終え、仕事に行く準備をする。月夜が全部用意してくれてるからよく分からんが、何の仕事をしているんだろうか。

 言われるまま、渡されるまま、僕は準備をしていく。


「今日は結婚記念日なので早く帰ってきてください」

「結婚記念日……」

「やっぱり忘れてたんですね」

「ご、ごめん」


 忘れるも何も知らないんだよな。ただ、月夜にそれを言うわけにもいかない。

 どうしたらいいんだ?


「仕方ないですね。またあの時のようにプロポーズしてくれたら許してあげます」


 あの時っていつの時だ。

 月夜は目を瞑って僕の言葉を待つ。これは夢なんだ。それにこの月夜は僕の奥さんなんだ。

 言ってしまったって問題はない。


 よし、言うぞ……。勇気を出すんだ! 言うぞ!



 ◇◇◇


「月夜」

「はい?」


「結婚してくれ」

「ひょえっ!?」


 はっ!?

 なんか意識を取り戻した気がする。

 そうだ……。今日は月夜と図書館に行ってて、昨日夜更かししたから結構眠くて……。

 目がぱっちりと開く。目の前に真っ赤な顔をした月夜がいるな。

 うん、なんか幼くなった? おっぱい萎んだ?

 これは多分現実だな。頬を引っ張ると痛いもん。


「あのあのあの……ま、まだ付き合ってないのに……そんな、嬉しいし、受けてもいいんですけど、私」


「月夜」

「は、はい」

「なかったことにしてください」


「は?」


 この後めちゃくちゃ叱られた。

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