091 コスプレ②

「新刊旧刊2冊ずつで2000円になります」


 黄色和服のコスプレをする月夜はやってきたお客さんに笑顔で対応する。

 彼女の兄貴をモチーフにしたスターロというキャラの衣装だ。妹が着るなんて変な話だな。


「今の売り子さん、すっごいかわいかったよね」

「びっくりしたよね。あんな感じの男性がいたらなぁ」


 月夜の応対したお客様は帰りにそんな話をもらす。

 服装は同じといっても髪型は普通に背中まで垂らした状態だし、男装してるわけでもない。

 このあたり何か考えてコスプレさせているらしいが……。

 お客さんの波が引いたため買い物帰りの弓崎さん、瓜原さんと話をする。


「月夜の人気も上々だね」

「月夜さんに頼んで正解でしたね。この感じだと午前中には全て在庫がはけそうです」


 弓崎さんは残り部数を見てそんな推測をする。

 大したもんだねぇ。


「僕達高校生だけどお金とか大丈夫なの?」

「抜け道はいろいろとあります。そのあたりは九土さんに相談していますから大丈夫ですよ」

「九土先輩も理解があるので助かってます」


 あの完璧お嬢様、女の子だけじゃなくて男同士もいけるのかよ。

 お金の話は九土さんが手配した大人達が手を尽くしてくれているらしいので気にすることはないらしい。興味ないから詳しく聞く気はないけどね。


「ただ……私達が高校生と知って読者の方々が残念に思っているのが心苦しいですね」


 瓜原さんがはざっとため息をつく。何か問題があるのだろうか。

 弓崎さんが新刊を手に取る。


「私達が18歳未満であることが残念らしいです」

「言いたいことが分かったからもういいよ」

「やっぱりサンとスターロの濡れ場が欲しいって意見多いんですよ」

「言わなくていいって! 想像しちゃうからやめろ!!」


 弓崎さんも瓜原さんも尊いとか言い出すし……もうやだこの人達。

 ところでさっきから月夜が僕をじっと見ているのが気になる。


「月夜……どうしたの?」

「ふえっ! あ、いえ……なんでも」


 否定しつつも月夜はじっと僕の顔……いや、全身を見ている感じだ。

 月夜は息を吐いた。


「その服を着た太陽さんがかっこよくて……、その……視線を外せない」


「えっ!」


 僕だけでなく、弓崎さんや瓜原さんからもそんな言葉が漏れる。

 そういえば体育祭の時もそんなこと言ってたね。


「月夜って……山田先輩がかっこよく見えるフィルターとか付けてるの?」


 本人の目の前で言うんじゃない。瓜原さんってかなり毒舌だよなって思う。

 正直、気持ちは分からなくもないが……。

 だけど……そんな月夜の様子を弓崎さんが眺める。そのまま瓜原さんの方を向いた。


「木乃莉さん、4話の案なんですが、新キャラでサンに恋するムーンというキャラを出してはどうでしょう」


 いきなり何を言い出すのか。


「いいですね。サンに想いを寄せる後輩の男の子でスターロの親族にしましょう」

「何で男の子にしちゃうの!?」


 やばいな、星矢や月夜との会話を全部小説に変えかねないぞ……。

 弓崎さんと瓜原さんは設定会話をずっと続けていた。


「そもそも、月夜じゃなくて、コスプレさせたいなら星矢を連れてきたらよかったんじゃ」


 僕としては月夜の方がいいけど、読者としてはキャラクターそのまんまの星矢を呼んだ方が盛り上がるよね。

 そんなことを思い言ってみたが、弓崎さん、瓜原さんに思いっきりため息をつかれた。イライラ。


「公式でいきなり供給過多なことして読者のキャパ超えしたらどうなるか分かりませんか」

「全然意味がわからん」


 弓崎さんの言葉に瓜原さんが続ける。


「学園祭のキャンプファイヤーを思い出してください。あの時、月の姫の服を着た月夜に20人近くの男子が告白してきましたよね」


 そういえばそんなこともあったね。あの月夜は本当に可愛かった。それは覚えている。

 本気でかぐや姫って感じだったもんな。20人全員断られていたのも合わさって。


「この会場にはこの本のファンが大勢います。そんな中で星矢さんのような人を売り子にしたらどうなるか……」


 そう言われるとみんな集まって暴動になるかもしれないね。


 さっきも月夜が男ならよかったって意見が出てたからね。


「もし、先輩達がここで濃厚なキスシーンをしてくれるって言うなら私達も考えましたけど」

「死んでもするかよ」


 いつかは呼びたいけど、今はその時ではないと説得されてしまった。

 もう二度と来てやるかよ。

 そんな話を弓崎さんと瓜原さんはバカみたいに続けていた。


「でも金葉さんと木乃莉って仲いいですよね。喧嘩することあるんですか?」

「喧嘩はしませんが意見の相違は結構ありますよ」

「相違? どんなのがあるの?」


 その回答に突っ込んできたのは瓜原さんでした。


「あはは、私は星矢さんが攻めで山田先輩が受けだと思ってるんですけど、金葉先輩は星矢さんが受けで山田先輩が攻めって思ってるんです」

「死ぬほどどうでもいいね!」

「あー、クリスマス夜にずっと話してたよね」


 ちょっと引きながら、月夜も話に加わる。

 あの重い夜にそんな話してたの?


「そうですね。神凪さんと山田さんが2人でラブラブで帰ったのを見てあらぬ妄想をしたものです」

「腐った妄想はやめてください」

「月夜も海ちゃんも……理解がないから話せるのが楽しくて」


 月夜はともかく、世良さんは興味なさそうだもんな……。

 それに弓崎さんがつっかかった。


「このような趣味を乙女の嗜みというのですよ。月夜さんは男を知って乙女で無くなってしまったのですね」


 その言葉に月夜は顔を赤くして立ち上がった。


「ち、違います! 迫ったけどトイレに行くって逃げられたので乙女のままです!!」

「やめて!? そのネタは僕に波及するから勘弁して!」


 やいのやいの言いつつ、本は全て完売してしまったのだった。

 昼ごはんを早々にすませて、各自自由行動となった。

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