087 みんなと初詣④
まだ混雑はしていたものの、初詣への参拝客は落ち着きを見せ始めていた。
僕と月夜は階段を上がり、拝殿の所に到着した。
階段を上り終えた途端に声をかけられる。
「みんな、待たせちゃったね」
「構わないさ……そうやって手を繋いでいるのであればうまくいったのだろう?」
全員が集まって来て、口々に問いかけられる。
九土さんの言葉に僕と月夜はお互いの顔を見て……照れてしまう。
でも……握った手はそのままだ。
「それで月夜。せんぱーいとどうなったの!?」
「え? 今まで通りだよ。私と太陽さんは今まで通りの関係」
『は?』
やばい女の低音域って独特の恐ろしさがあるよね。
月夜との手を外され、世良さん、北条さん、弓崎さん、ひーちゃんに詰め寄られる。
「いや、先輩おかしいでしょ。今までどおりってどういうこと」
「あたし達があれだけお膳立てして……あんた何を考えてんの」
「月夜さんの気持ちを理解した上でそれならさすがに擁護できないんですけど」
「ちょっとやーまだ……あんたほんとち〇こついてんの!?」
「いろいろ言いたいことは分かるけど、一応同意の上だから! あとひーちゃんアイドルがそれ言っちゃいかんて!」
4人の麗しい振袖を着た美女に詰められ、僕は泣きそうになる。
他の面々は月夜と和やかに話をしていた。この差! 僕の対応がよくないのは分かるけど……厳しいです!
何とか話をつけてみんなに納得してもらい、ひとまず参拝することになった。
行列を並んで……賽銭箱の前まで来る。賽銭を入れて二礼二拍一礼を行う。一礼の前に目を瞑り、願いを想った。
僕の隣で同じように目を瞑る星矢と月夜は何を願うんだろうか……。
だったら……今年も神凪兄妹といつまでも仲良く……かな。
参拝を終えた僕達は神社の売店へ足を運ぶ。
「星矢は何を願ったんだ?」
「宝くじが当たるようにだな」
「現実的だな。月夜は……っと!」
隣にいた月夜は参拝を終えた途端に僕の手をすくうように握った。
狙っていたのかと思うほどに早かった。
「参拝も終わったからいいですよね」
「あ、ああ……そうだね」
月夜は穏やかな笑みでしっかりと僕の手を握る。その愛らしさに僕はたじたじとなってしまうが、でも外したりはしない。
それにしても後ろから他女性陣がニヤニヤして見ているのを感じる。あれだけさっき詰め寄ったくせに。
「月夜は何を願ったの?」
「願うこといっぱいありますよ。私は欲深い女ですから」
欲深い……。欲しいものなんて考えればいくらでも出てくるもんだしなぁ。僕はカメラが欲しいとか……かな。
「例えば……彼氏が欲しいとかですかね」
「そうか、案外すぐ叶うかもしれないぞ。なぁ太陽」
「君達、わざと言ってないか……」
さすが兄妹、連携攻撃で攻めてくる……まったく。
売店へ到着。やはり定番はおみくじだね。中吉、小吉、末吉など参拝客が出す結果の声が聞こえる。
僕、星矢、月夜も引いた。最初に星矢と僕のおみくじが配られる。
「中吉、金運は普通か……つまらん」
「お、僕は大吉だ」
「良かったですね! えっと恋愛運は待ち人がすぐ側に……だそうですよ」
「ぶほっ!」
神様、何か僕達の様子を見ていないか? これを好機とぐいぐいと月夜が来る。
月夜も引いたおみくじの紙を開いた。
「私も大吉です。恋愛運は待ち人がすぐ来るって書いてます。ねっ、太陽さんいつ」
「僕に聞かないで!?」
さてと最後はやっぱり絵馬かな。
全員絵馬を購入し、各々願いを書き始めた。
これは表に出る以上、あまり変なことは書けないな。
絵馬を奉納するスペースの前で各々考える。
「家族が健康でいられますように」
一番に書いて奉納したのは水里さん、去年は家族の健康で一騒動あったみたいだし、思う所があるんだろう。
「全国大会優勝」「選考会の突破!」
スポーツといえば北条さんと世良さんだね。2人とも今年はいい所まで行けるといいね。
「単独で成績一位」「生徒全員の安全祈願」
弓崎さんは今年こそテストで星矢や九土さんに勝ちたい願いを書いてるね。九土さんは生徒会長として……真面目なこと書いてるな。てっきりかわいい女の子は全員私の物とか書くかと思ってたよ。
「目指せトップアイドル」「文芸コンクール入選」
アイドルとしてさらなる先を目指すひーちゃんに文芸部として瓜原さんは賞を目指す感じか。
みんな凄いな……目的をもってしっかり生きている。あとは僕と神凪兄妹だけ。
僕はそんな目指すものとかないしなぁ……。神様とお願いするとすればこれかな。
僕が書き上げたと同時に星矢、月夜も書き上げたようだ。3人同時に絵馬を吊るす。
「おいおい」
「あはは……」
星矢と月夜はその内容を見て顔を綻ばせる。
もちろん僕も同じように頬を緩めた。
「まさか3人とも【みんなの夢がかないますように】って書くとはね」
今年の神様は叶えてくれるのが早いな……、神凪兄妹と仲良くとは書いたけど……そんなすぐじゃなくてもいいんだぜ。
その様子をみんなで笑いつつ、今年初めての初詣は終わったのであった。
その後仲良く記念写真を撮って、僕達は帰路につく。
「太陽さん」
帰り道までずっと月夜の手を握ったまま……何時間経っても月夜のその振袖の輝きは褪せることはない。
「今年も宜しくお願いします」
「こちらこそ……月夜」
そして……全てが終わり、そして始まる3学期がスタートする。
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