079 二人きりのお泊り会③

 月夜の部屋に入ったのは初めてだ。4畳ほどの狭い部屋。そこに今、僕と月夜の2人がいる。

 後ろには月夜の使っているベッドがあり、綺麗に布団がたたまれている。

 これ……恋人同士だったら確実にベッドに行く流れだよ。当然恋人同士でもないのでそんなことをできるわけがない。

 月夜はベッドに座り、僕は勉強机の椅子に腰かけた。女の子らしい部屋だよなぁ。ぬいぐるみにたくさんの本に、壁にかけられた物干しには下着。


「わーわーわー!!!」


 月夜は慌てて、下着がかけられた物干しを取り外して僕には見えないように背中に隠した。


「み、見ないでください」


 安心しろ。僕は君が飛び跳ねたことによって見えそうになった部分にしか目がいっていない。

 月夜はさらにキョロキョロして僕に見られてはいけないものを探し始めた。

 そうだよね。兄と2人暮らしだったら下着とかは自分の部屋に干すよね……。

 あまりじろじろ見ないように……あ。


「【空を目指して姫は踊る】か」


 擦り切れるほど読まれた全10巻の小説。月夜の愛読書でもある恋愛小説だ。そういえば8月の入院時にこの本の話をきっかけで……お互い読書好きって分かったんだっけ。

 20年前の作品なんだけど……月夜が持っているのは改稿版で……1巻だけが初版と話が全然違うんだよな。僕も図書館で読んで感動しちゃったよ。


「もう100回は読んでますからね~」

「面白い話なのは間違いないよね」


 他にも興味深い本がたくさんある。せっかくだし読ませてもらおうかな……。


「あー、太陽さん。私を置いて本を読もうとしてる!」

「ぐっ、バレてしまった」

「私も本を借りてくればよかった」


 ちょっとお互い落ち着いてきたかな。そうだよ。月夜とはこうやって本の話をすればいいんだ。

 お互いの好きな趣味を語り合ってひとときを過ごす。いいじゃないか。ついでに小気味良い音楽でもあればなおいい。

 ちょうど月夜の机には充電された旧型ミュージックプレイヤーの端末が置いてあった。スピーカーにもつながってるし、音楽が聞けるじゃないか。

 僕はウォークマンに手を伸ばし、スイッチを入れる。


『月夜は…‥‥1つ目、気配り上手な女の子だ。準備などでもたくさんフォローしてもらった。2つ目、綺麗な髪をしている。手入れもされていて、触り心地がとても良い。気品に溢れている』


 うん? この声、セリフ……どこかで聞いたことがあるような。


『3つ目、友達想いの子だ。友達が悲しんでる時に慰め、喜んでる時に一緒の騒いでくれる良い子だ。4つ目、頭がいい。それをひけらかすことはなく、得た知識をみんなに伝えてくれる優しい子だ』

「わあああああああ!」


 慌てた月夜は僕に覆いかぶさって、耳を両手でふさごうとする。

 この状況実に良くない。僕に前から抱き着く恰好になっており、月夜の育った胸が僕の顔に何度も当たってとてもいけない気持ちになってくる。

 真っ赤な顔で必死に僕の耳を押さえてくるが多分ミュージックプレイヤーを止めた方が早いと思うんだけど……混乱しているようだ。


『10つ目……そんな月夜が、その……えと……好きだよって月夜!?』


 あ、これ吟画山に行った時の10の質問のやつか。我ながらなんて恥ずかしい言葉を喋ってるんだ。確かスマホで録音されていたのは知っていたがミュージックプレイヤーにまで転送しているなんて……。

 この勢いで机の上に置いてあったミュージックプレイヤーが落ちてきた。ちょうど画面が見える状態で目の前に落ちてくる。再生回数1752回。うそだろ……。

 音楽というか声の再生が終了し、月夜は真っ赤な顔で体を起こす……。もう服の隙間から青色のかわいいブラジャーが見えているが床に押し倒された僕には目線を変えるのも一苦労だ。


「うぅ……」


 月夜はそのまま僕の背中に手をまわす。あ、これあかん流れです。恥ずかしさでもうなんでもよくなってる感じだ。この前の体育倉庫を思い出す。

 あの時は星矢が助けてくれたが……今回助けられる人はいない。うるんだ瞳の月夜と目が合う。本当に顔がくっつきそうなほどな距離で、お互いの胸部がくっつき…‥胸の弾力がダイレクトに感じる。

 何度見たって飽きない美しい顔、恥ずかしそうに涙目な姿も実にかわいい。そのまま身を委ねてもよかった。

 でもそれは……月夜に対しても失礼だと感じた。こんな無理やり先へ進むわけにはいかないんだ。僕は空いた両手を使って……月夜の脇腹をぐにぐにと揉んだ。


「ひゃああああ!」


 月夜はびっくりしたのか飛び跳ね、僕から離れて、ベットの方向に飛びのく。まだ……やめない。

 そのまま覆いかぶさって月夜の手をくぐって、彼女の脇腹をくすぐり続けた。


「ちょ、やっ! だめ……!」


 神凪月夜は相当なくすぐったがり屋である。よく、毎朝の起床時に水里さんが起こすために馬乗りになって脇腹や腋の下をくすぐってるのをよく見ていた。

 たまに水里さんの口から涎が出ていて、何が楽しいのかなと思っていたが。


 これは楽しい。


「きゃははは! わ、私……くすぐったい……ダメなの! やん!」

「知ってるよ」

「だめぇ……ひゃはははは……本当に駄目……いやぁ!」


 脇腹を滑らすようにして腋の下に手を入れる。月夜の体が一層跳ねた。ここが一番弱いようだ。

 何というか反応の良さ、声が綺麗、嫌がりつつも笑顔がかわいいため、楽しんでるかのような素振り、手を動かすたびに月夜が悶えているのが分かり、ものすごく楽しい。

 水里さんめ……いつもこんなことをしていたのか。


 月夜はくたくたの状態で立ち上がり、逃げようとするが逃がすわけにはいかない。体力全部を奪ってやる。僕はそのまま追いかけた。

 月夜の脇腹をさらにくすぐると、彼女は悲鳴と共に体をくねらせつつも方向転換し、ベッドの方へ逃げた。僕は構わずベッドに上がり、両手をあげてベッドで背を向ける月夜にのしかかろうとした。


「はっ!」


 責めていたはずの僕はそこで気づいた。


「はぁ……はぁ…‥」


 くすぐられすぎて、月夜の二重の瞳には涙が滲み、色っぽい吐息が漏れる。暴れたせいで上着は乱れ…‥水色のブラジャーの紐があらわになっていた。

 ミニスカートも完全にはだけて、中の同じ色に合わせたパンツが白いふとももと一緒にあった。

 そんな様子の月夜がベッドで僕を見上げている。もはや……詰みの状態だった。僕はいつのまにか誘いこまれていたのだ。


「はぁ……はぁ……太陽さん。来てぇ…‥‥」


 来ての後にはハートマークがついているような気がした。

 そして僕は……その想いに……。











「ごめん、ちょっとトイレ行って来る」












 僕は神凪家のトイレの前で頭を抱えた。


 やばいやばいやばいやばい

 本当にやばかった。人生史上一番やばい状況だったことに間違いない。

 あと一歩、あと一歩気づくのが遅かったら確実に体をくっつけて、胸や尻を触りまくっただろう。ってか触りたかった。

 あああああああああ!

 限界だよ! 童貞にはどうすることもできないよ!!


「でも……さすがに失礼だったかも」


 あそこまで誘っておいて……拒否って女子からしたらどうなんだろう。

 でもまだ付き合ってるわけじゃないし、星矢に何て言えばいいか分からないし……。

 まぁいつもにこにこしている月夜のことだ。きっと許して。


 ドォゴオオゥーーーーーーーーッ!


「ヒィ!?」


 月夜の部屋の扉がものすごい音を立てた。

 雷じゃないよね……あの音は…‥。

 いくじなし、そんな声で言われたような気がした。


 僕は……部屋の隅でガタガタ震えながら朝まで過ごしたのであった。

 そして月夜は僕が帰るまで姿を現すことがなく……1週間口をきいてくれなかった。

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