073 アルバイト②

「こちらサービスのトロピカルジュース。カップル用です」


 このクソ兄貴、何を持ってきてんだ。

 大きなビールジョッキに透明なドリンクが注がれている。ハート型のストローが2本刺さっており、本気でカップル用だ。


「あの……まだ頼んでないんだけど」

「安心しろ。中身はただの水だ」

「じゃあ何でこんな仰々しく入れてきたの!?」


 こんな透明なドリンクあったかなと思ったわけだよ。

 星矢はさらに続ける。


「女性はピンクのストローをお使いください。甘いフルーティな味が楽しめます。男性は青のストローをお使い下さい。わさびのつーんな時が楽しめます」

「この店員の評価ってどうやったら下げられる?」

「無駄だ、店長より仕事ができる俺の評価が下がるわけないだろ」


 何っつー店だ。月夜はピンクのストローに口をつけた。ぷるっとした唇が思わず視界に入る。


「本当だ、甘い。ストローの先に甘味がついてるのかな。太陽さんもどうですか?」

「どうもこうもわさびだよ! 思わず口つけそうになったけど! って星矢は何でこんな嫌がらせを……」

「親友へのねぎらいに半分、かわいい妹を盗られたことへの嫉妬が半分だな」


 最初の半分の要素がまったく見当たらないんだが……。あと盗った覚えもない。

 僕と月夜は定番のハンバーグセットを注文し、星矢の仕事ぶりを見ていた。ちなみに水はもう一杯用意させた。


「いらっしゃいませ~。こちらどうぞ!」


 星矢は満面の笑みで接客を行っている。親友としてみるとほんと七不思議の1つにでもしていいくらい不思議な光景だ。

 星矢のバイトは学校でも特別に許可されている。成績が落ちるようであれば辞めさせられるそうだが、ずっと学年1位だから辞めさせることもできない。


「あの、もしよかったら……」

「ありがとうございます。ですが、仕事中ですのでお受け取りできません。申し訳ありません」


 女性から連絡先を渡されること数多い。あんなシーンを見ると本当に星矢目当ての客って多いんだな。


「もう! お兄ちゃんばっかり見ないで……私とも話をしてください」

「あぁごめんごめん」

「お兄ちゃんのこと大好きなのは分かりますけど……」

「かなり語弊があるね。今更否定するのも面倒だからいいけど」


 そんな話をしていると星矢が何やら慌ただしくしている中年の人に声をかけられた。確か店長さんだっけ。優しいけど、頼りないという。


「また見てる!」


 そして僕はまた怒られるのであった……。

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