071 写生

 

 11月も中旬にさしかかり、日中もすっかり気温が下がってしまった。

 まだまだがっつりコートは必要ないけど、もう夏のような恰好はできないね。


 土曜日の昼に……僕はお願いで呼び出されることになる。

 学園1の美少女……ミスコン2位だからその名称は違うのか。学校でかぐや姫と呼ばれるほど美少女、神凪月夜に呼び出された。


「もうすっかり葉が落ちてしまいましたね」


 僕と月夜は近くにある自然公園に来ていた。夏の祭りやデートで立ち寄ったりと僕達にとってなじみが深い。

 今日はそんな色っぽい話になることもない。なぜなら月夜の手にはスケッチブックが掲げられているからだ。


「がんばるぞ~」


 特進科の美術の授業恒例の宿題だ。1年のこの時期に休日に写生してこいという面倒な課題がある。

 それもお題目は人物画だという。

 去年はお世話になった人いう名目で僕は星矢とお互いを描いた。あいつ、絵もうまかったけど対象が僕だったせいで大した評価はなかったよな。

 絵の対象が月夜だったら賞取れたんじゃないかな。

 今年のお題目は異性らしい。正直、去年じゃなくてよかった。まぁ母親か妹を適当に描けばいいだけだし、ズルすりゃテレビや芸能人でも構わないしな。

 それで僕が月夜に呼ばれたわけなのです。


 今日の月夜は淡い色のカーディガンに長めのスカートで落ち着いた格好だ。何着てもかわいいが、今日もやっぱかわいいな。

 もふもふの白の帽子が月夜の流れるようなさらさらの髪によく合う。あの帽子何て言うんだっけ。


「どんな感じで描こうかな~」

「この課題って特進科だけなんだよね。おかげで大変だよ」

「うん、海ちゃんや木乃莉も描かないから一緒に課題できないし……異性ってのが悩みますね」

「兄貴に頼めばよかったんじゃ」

「え、太陽さんがいるのにお兄ちゃんに頼む必要ないじゃないですか」


 さも、当たり前のように言われてしまった。

 ここ最近分かりやすいように僕>星矢となっている気がする。シスコンの星矢からすれば悲しみなんだろうけど…‥。

 僕としては嬉しいような照れるような……。月夜は僕の様子に小首をかしげる。考えるまでもないのかな。


 月夜は絵がうまいんだろうか? 星矢は相当うまかったから……楽しみだな。いや、でも描く対象が僕だから、描いた所でって気もする。


「動いちゃ駄目ですよ」

「あ、ごめん」

「何か嬉しそうだね」

「はい、太陽さんをじっと見つめていられるので!」

「っ!」


 そ、それはいかん。というか最近月夜がまたちょっと押せ押せな気がする。

 こっちだって負けるわけにはいかない。


「じゃあ僕だって月夜を見つめてやる」

「ちょ! 目が合ったら照れるからダメです」


 月夜はさっと目を逸らした。押せ押せの勢いはここで止まり、頬を紅くした。でも目を逸らしたら絵が描けないぞ。いいのかぁ?


「太陽さん! 目を合わすのは駄目。ダメです!」

「分かったよ」


 月夜は頬を緩め、ちらちら僕を見ながらスケッチを続ける。くりくりの二重の瞳に僕が映ってると考えると何だか恥ずかしいな。


 目を合わさないけど時々、月夜の顔を見ながらお昼を過ごすのであった。

 しかし、昨日夜更かししたから眠いなぁ。今日は早く寝た方がいいかもしれん。


「ふぁぁーー」

「あくびは駄目ですよ」

「悪い、昨日ゲームしすぎたかも」


 月夜は僕の回答に小動物のように口元を緩めてもう、って言って笑う。

 あぁ……何かいいな。こうやって2人で……会話する時間が何よりも楽しい。この楽しさはいつまで続けられるんだろうか。

 眠気に耐えつつ、時々会話して、月夜のスケッチは完成した。


「じゃあ……どんな感じで」

「え、見せないですよ」

「何で!?」


 月夜はスケッチブックをカバンにしまいこんでしまった。月夜の絵を見れると思ったのに……。


「駄目です。見ちゃ駄目です。……ちょっと溢れすぎているので」

「何が?」

「何でもないです! でも、太陽さんにお礼しないといけませんね」


 月夜は無理やり話題を変えるように大声で遮り、近くにある、横が長いベンチへ腰かけた。

 月夜は何度も両ふとももを叩く。


「え、どういうこと?」

「眠そうだったのでどうぞ。それに私もちょっとやってみたいので」


 こ、これは有名な膝枕というやつだろうか。いや、しかしこれはちょっと恥ずかしいんだが……。

 何度も断っていたら立ち上がった月夜が僕の手を引っ張ってベンチに座らせてしまった。

 やっぱり僕は押しに弱いなぁ。頭を月夜のふとももの上に置く。スカート超しとはいえふとももが柔らかいような気がする。

 ただ一つ言えることは……。


「かわいいなぁ」

「?」


 僕を見下ろし、微笑む月夜がたまらなくかわいくて口から言葉が勝手に出ていった。

 髪や頬なでる月夜の手のひらが心地よくて……僕は……意識が飛んでいきそうだ。


「……すぅ…‥すぅ」

「あ、太陽さん寝ちゃったのかな。ふふ、寝顔かわいい」

「……月夜」

「寝言? はーい、何ですか~」


「好きだ」


「え?」


 っ……、ああ。

 僕の意識がようやく戻る。やばっ、一瞬寝ていたっぽい。

 しかしこのふともも、実にいい。頭にフィットする弾力が……魅力……あれ。月夜?

 ここ最近見たことないほど真っ赤な顔をして僕を見下ろしていた。


「ど、どうしたの? アイタ!」


 月夜は急に立ち上がり、支えを失った僕の頭はベンチに叩きつけられる。


「きょ、今日は帰ります! さ、さようなら!」


 月夜は慌てて、カバンを持って公園から走りだしてしまった。

 僕の心の中はわけのわからなさでいっぱいだ。


「え、何で……? 僕何かしたっけ」


 ふとももを堪能しすぎたのだろうか……。

 その晩月夜から謝罪のメールが来るまで僕は悶々とすることとなった。


 しかし……。この悶々さはこの後すぐ……さらに増幅することになる。071

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