065 学園祭2日目④

「さてキャンプファイヤーに行くか」

「その服のままで行くの?」

「家庭科部の要求の1つにこの衣装のままキャンプファイヤーに参加しろってのがあるらしい。俺は守る必要がないんだが」


 家庭科部が服を作る条件としてそんなことがあったのか。

 そのため星矢、天、月夜はその衣装のままキャンプファイヤーに参加する。3人ともお似合いだから取り囲まれるだろうな。


「んじゃ、みんな行こう行こう! あ、先輩」


 世良さんに声をかけられる。


「月夜のこと宜しくね~」

「え?」


 星矢、天、世良さん、瓜原さんは運動場の方へと歩いていってしまった。

 未だに座り込んでいる月夜をそのまま……薄情というか、分かってやってるのか。


「月夜」


 月夜の背がびくっと震える。


「練習通り……練習通りだったんだよな」


 手を繋げばそれで終わりと聞いていたけどそれは嘘だった。初めから頬への口づけをする予定だった。

 誰でもよかったとは言わないが……その。

 月夜はすっと立ち上がり、振り向いた。

 すっかり夜となり、外灯だけの明かりとなったが……月の姫の美しさは明るいままだった。

 それだけじゃない、月の光を経て、一層輝いているように見えた。

 まさに……これぞかぐや姫だろう。


「練習通りであっても……私は太陽さんじゃなきゃやりませんでした!」

「っ!」


 ぐっと、僕に近づき、月夜は叫ぶように声をあげる。でもその後力無く……その男性の中では……ですよと後付けしたのが可愛くて笑ってしまう。

 また頭を抱えて唸る月夜に僕はここに来るまでに回収したバックからカメラを取り出す。

 誰よりも美しい月の姫をファインダーに入れた。


「あっ、もう!」


 月夜はにこりと笑い……こちらを向いてくれた


「ちゃんと」

「もうずっと月夜は綺麗だよ」

「―――っ! もう、カメラ持つといつもそういうこと言うんですから」


 その恥ずかしがりやの所も素敵だ。僕は夜の中でも輝きを損なわない月の姫の写真を撮りつくした。

 すると運動場からオクラハマミキサーが流れ始める。ダンスの時間だ。


「あ、そろそろ戻らないと……」


 月夜も家庭科部の約束通り、その姿で運動場に行かなきゃならない。おそらく、月夜がそちらに行ったら……もう今日は話すことができなくなるだろう。

 僕は……。


「月夜」

「はい?」

「あなたを……心より愛しておりますだっけ」

「え!? そ、それは演技の話で……」


 戸惑う月夜に手を差し出した。


「じゃあ、1回だけ踊って頂けますか……月の姫」

「あっ、……はい」


 月夜は僕の意図に気づき、若干の戸惑いも消え、僕の手を取った。女の子と踊ったことなんか1度もなかったけど……、不器用ながら僕はステップを踏む。

 対する月夜は軽快に……笑顔でフォローしてくれた。そんなでっかい十二単じゅうにひとえみたいな衣装着て、軽快に踊るんだもんなぁ


「太陽さんと踊れてよかった」

「……」


 僕もだよ。

 僕は誰よりも美しいかぐや姫とのダンスを生涯忘れることはないだろう。



 ◇◇◇



 キャンプファイヤーの炎を囲み、皆が楽しそうに話し笑っている。


 月の姫の恰好した月夜は圧倒的な数の人に取り囲まれて声をかけられている。

 十二単じゅうにひとえのような衣装だからみんなにかぐや姫って言われる。しかも男子生徒が20人くらい並んで一斉に告白をし始めたぞ。

 当然……月夜は全部にお断りを入れる。まさにかぐや姫のテンプレートだな。

 ふふふ、あんな感じだと月夜をダンスに誘うことも無理だろう。項垂れる男子の数多し。


 天の王子の恰好をしたあまつは積極的に瓜原さんを誘っている。

 そういうのに慣れていない瓜原さんは慌てふためいているが、後ろにいた世良さんが背中を押し、2人は踊り始めた。

 天の奴、完全に外堀から埋めていってるな。もはや好意を隠す気もないようだ。


 そして親友、神凪星矢も星の王子の恰好して月夜と同じように人に取り囲まれているが、こっちの女性陣は肉食レベルが高すぎるため変わりばんこで踊らされている。

 星矢のやつもさすがに限界のようだ。


 僕も行って……助けてあげようか。


「ほんとに楽しい学園祭だったな」


 人生にただ1回の2年生の学園祭が終了した。


 そしてすぐ……体育祭が始まる。

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