052 月夜とハイキング②

 今回のデート計画の一番の楽しみ……それが手作り弁当だ。

 ハイキング自体も好きだが、やはり今回この場所を計画したのは月夜の弁当を食べられるということだ。

 星矢の家へ遊びにいった時にたまに月夜の料理を食べることはあるが、やはり弁当はまた違うような気がする。

 ずっと楽しみでまだかまだかと思っていた。

 持ってきたブルーシートを敷いて、紙皿やお箸を取る。月夜はリュックから大きな重箱のお弁当を3つほど取り出したのだ。

 随分大きなリュックだなと思っていたがリュックの半分のスペースを取ってるとは思わなかったよ。

 重箱の蓋を取るとたくさんの具材が山のように彩られていた。

 これは宝の山か……。


「これを1人で作ったの?」

「さすがに1人じゃきつかったので水里ちゃんと作りました」

「2つのキッチンを使えば早くなるか。でも星矢がこんな豪勢な料理をよく許したね」

「ふふ、この料理は私と太陽さんのためだけじゃないのでいいんですよ」


 どういうことだろうか。料理はこのデートだけでなく、別の目的にも使われたってことかな。

 ま、どちらでもいい。さっそく食べさせてもらおう。


「頂きます~」


 さっそく目の前の豚の角煮を取って食べる。……うめぇ! さらに隣のきんぴらごぼうも食べた。こっちも味付け完璧だな。


「すごいよ。この角煮ときんぴらごぼう上手すぎる! 月夜はやっぱ料理が上手だね」

「あ……はい」


 あれ、予想ではもっと照れてくれると思ったのに、何かそっぽを向いて落ち込んでる気がする。


「そっちは水里ちゃんが作ったゾーンです。そうですよね。旅館の女将の娘が作った料理の方が美味しいですよね」

「ぶほっ!」


 やらかした! 盛大にやらかした。


「こ、この……肉団子は」


 月夜はにっこりと笑った。


「さすが料理上手な水里ちゃんの料理を3連続なんて愛されてますね」


 ぱきっと割りばしを握力で折る月夜さん。

 すっげー声が重い。月夜さん威厳ありすぎじゃないですか。

 なるほどこれがデートの練習ってやつか。彼女の弁当を間違えずに食わないといけない。

 そんなクイズを求めてないんだけど……。

 次は間違えないように……。一つ目についた具材を食べた。


「このチーズ入りの卵焼きはとてもまろやかで美味しいな。作った人の優しさが見えるようだ」

「そ、そうですか。えへへへへ……」


 よかった……合ってた。前に話題に出してて本当によかった。

 一発で機嫌よくなったけどこの子いろんな意味で大丈夫かな。チョロ……やめておこう。


「全部は食べきれないから月夜の作ったもの一つずつ教えてよ」

「え~っとこれとこれとこれ……なんですけど」


 最初からこうしておけばよかった、今後共同作業で作った料理を食べる時は気をつけないとな。


 大量に摂取したため腹パンパンだ、お昼も過ぎたし、いい時間だ。

 月夜は重箱を片付けてリュックにしまってた。もう少し休憩したら下山かな。

 少し眠くなってきた。


「太陽さん、起きてください」


 やばい、寝てしまっていたようだ。時計を見ると15分ほど過ぎている。

 昼食の片付けを完全に任せちゃったな……今度穴埋めしないと……。


「あ、あの……」


 月夜はなぜか頬を紅く染め、言いずらそうにもじもじしている。

 何だろう……これもデート練習なんだろうけど、全然分からない。


「人もいないし……いいですよ」

「なにを?」

「だから……髪触りたいんですよね」


 僕は体を起こした。まさかのまさか……。前、相合傘した時に今回触らしてくれるという話があったが……覚えていたんだ。


「ほ、本当は汗もかいてるし別の日にしてもらおうと思ったんですけど、ずっと毎日手入れしてたし……今悪くない状態なので」

「僕にそのサラサラの髪を触らしてくれるんだね!」

「やっぱり変態っぽいですよ! なんかヤダ!」


 変態でもなんでもいい。その髪を触らせてもらえるなら……僕は何だってやってやる。

 月夜は帽子をブルシートの上に置く。ふわっと栗色の髪が全体に広がった。

 確かにいつもに比べて爽やかさが尋常じゃない気がする。もう、無理、むしゃぶりつきたい。

 月夜は切り株に座って僕に背を向けた。触ってOKということだろうか。僕は月夜の後ろに回り込んだ。


 背中まで伸びた栗色のロングヘアー。ものすごい好みである。ショートはショートの良さがあるんだがやはり僕はこの髪の長さが好きだ。

 そして髪の量も多い方がいい。いつか月夜の髪に包まれて眠りにつきたい。


「もし嫌だったら言ってくれよ」

「嫌」

「早いよ。もうちょっとだけ耐えてよ」


 人の嫌がることはしないのが信条だが、これだけは、これだけは崩させてもらいたい。

 月夜の後ろにまわって毛先の先端から触れて、手をなじませるようにとかしていく。

 例えるなら……そう川だ。日本一の綺麗な河川にだって負けてない。栗色の髪が風を受け、光の波がうねりをあげる。

 その川は純度100%、縮れ毛1つない……完璧なものだった。


「すごい……こんなに綺麗な髪はありえない。すごいよ……月夜」

「耳元で言うのやめて! 恥ずかしいから!」


 背中に流れる髪をすくって……髪のかおりを嗅ぐ。薔薇のような……花のかおりがする。

 何度も何度も鼻でそのかおりを感じた。

 僕は月夜の髪を持ち上げて自分の全身を包むように……カーテンのようにかけた。髪のシャワーを顔に感じる。


「はぁ……はぁ……」

「私の髪の中で変なことしないでくださいよ!?」


 次に後ろ髪を持ち上げると……綺麗なうなじが見えた。夏祭りの時……かわいかったよなぁ。

 つい、そのことを思い出し……両手で首元を触れる。


「ひゃあん!」


 月夜は急いで、首を引っ込めこちらに振り向く。


「く、首は駄目です! 私がくすぐったがり屋なの知ってるじゃないですか!」


 そういや、朝はよく水里さんにくすぐられて起こされてるな。パジャマがはだけてえらいことなってるから声だけ楽しんでるけど。

 ふぅ……一通り楽しめたので月夜の頭は軽く撫でてあげた。


「撫で方うまくなりましたね……勉強したんですか」

「ネットでかじった程度だよ。でもほんと月夜の髪はサラサラというか……この髪の量で質を維持するのは大変だね」

「手入れがすごく大変なんですよ。何度切ろうかなと思ったことか……」

「女の子からすればそうだろうね」


 くしを貸してもらい、少し荒れてしまった月夜の髪をとかしていく。


「でも……すごく素敵だ」

「っ! そ、それなら……毎日触られてもいいようにした甲斐があります」

「え?」

「誰のためにこんな面倒なことをしてると思ってるんですか……」


 月夜の呟いた声はあまりに小さく、僕には聞き取ることができなかった。

 はぁ……素晴らしい毛並みだったな。動物ではないけど……思わずそう例えてしまいたくなる。


「ありがとう、満足したよ」

「もういいんですか?」


 もういいって結構触った気がするけどね。もう一度お礼を言うと月夜は立ち上がり軽く、櫛で髪を溶かして再び帽子を被る


「てっきり髪を食べたり、……ん……んに巻き付けたりするのかと思ってました」

「今、とんでもない事聞いたけど僕はスルーすることにするよ」


 月夜の作ったお弁当を食べて、髪も触らせてもらって幸せで絶頂な気分でした。

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