046 後輩達

 

「山田先輩!」


 6限目が終わってクラスの教室に移動していた所、聞き覚えのある男子生徒の声に呼び止められる。

 振り向いてみるとこの前陸上道具の片付けを手伝ってくれた下級生、遊佐ゆさあまつだった。

 あどけない顔立ちだが全ての顔のパーツが整っており、紛れもなく容姿端麗な少年と言えるだろう。頭もよく、それで生徒会の役員とか完璧か!

 月夜からも言われていたが1年生の中では有名な生徒のようだ。


「こんにちは!」

「やぁ、僕のこと覚えてくれてたんだ」

「当然じゃないですか。僕は山田先輩を尊敬してますから!」


 尊敬されるようなことをしたことないんだけど、下級生から敬意をもらうのは悪くない。

 遊佐くんはとても好感触な男子生徒だ。


「というのは冗談で」

「冗談!?」

「僕、男の先輩と交流なくて……せっかく知り合えたので先輩とも交流したいと思ってるんですよ」


 そこまで聞いて初めて気づいた。

 恒宙こうちゅう学園生徒会はわりと激務で部活との両立はかなり難しい。彼は恐らく部活動に入っていない。そしてこの学校の生徒会長は九土原彩花くどはらさいかさんである。

 生徒会は5人いて、遊佐くん以外全員女の子じゃなかったっけ。


「九土さんが会長だと大変そうだね」

「ほんとですよ。ずっとからかわれてばかりですし」


 遊佐くんは思い出すようにため息をつく。


「会長に勝てるのなんて星矢先輩くらいですよ」


 そうか。星矢も臨時で召集される生徒会員(仮)なので遊佐くんと面識があるんだな。

 これは九土会長のお気に入りであるからで、星矢に生徒会に入る意思はない。


「何か会長の弱みとかありませんか。たまにはあっと言わせたいです」

「そうだな……。九土さんが見ている時、星矢の前できゅっとなりながら「そ、そう、ありがと」って言ってみな」

「それは何ですか?」


 この前の夏祭りでうぶな様子を見せた九土さんの再現だ。これを行うとおそらく遊佐くんはとんでもない目に合わされるんだろうけど、一杯食わせられるだろう。


「もしよかったらまた相談に乗ってもらってもいいですか? 星矢先輩はいい人なんですけど」

「面倒くさがり屋だからなあいつ。口調もきついし」


 遊佐くんはあははと愛想笑いで返す。

 僕と遊佐くんはアドレスの交換を行った。


「僕のことはあまつと呼んでください。星矢先輩からもそう呼ばれているので」

「そうか。じゃあ天、よろしくね」

「はい!」


「あれ、先輩に遊佐じゃん」


 奥からやってきたのは1年生の仲良し3人組である月夜、世良さん、瓜原さんの3人だ。全員所属の科が違うこともあり、揃うとは珍しい。


「3人ともこんなところでどうしたんだ?」

「私達も移動教室だったんですけどばったり会ったんですよ」


 それでクラス教室に帰ろうと一緒になったのか。


「太陽さんと遊佐くんは仲良いんですか」

「今、連絡先を教えてもらったんだ」


 月夜の質問にスマホ見せて返す。


「男子の交友関係は見事ですなぁ」


 世良さんに指摘され、何も言えなくなる。女子に連絡先なんか聞けるかよ。

 そんな中で天は3人に対して声をかけた。


「神凪さん、特進での授業で追加プリントが発生したみたいだからクラスに戻ったらみんなに伝えておいて」

「そうなんだ。分かったよ」

「あ、聞いたよ、世良さんは水泳大会で1位だったんだね。おめでとー」

「ありがとー! 今回は勝ててよかったよ」


「お」


 ホームルームの予鈴の音だ。

 さっさと教室に戻らないとな。しかし天は月夜達と一緒のクラスのはずだが一緒に行こうとはしない。


「僕は生徒会室にいくからみんなは戻ってて、あっ」


「瓜原さんもまたね」

「え? あ、うん」


 瓜原さんにも声をかけて3人組がクラス教室に帰ることを促した。


「じゃあ戻るよー」

「太陽さん、また放課後に」


 僕は手を振って、3人組は教室へ向かっていった

 さて、僕も戻らないとな。しかし天が向こうへ行ってしまった3人の様子をずっと見続けていた。

 まるで誰かに見惚れるように見続けていたのだ。


「天?」


 僕の声に天は体をぴくりと動かした。


「あ、ごめんなさい。それでは先輩、また何かあれば相談させてください」


 何だろう。あの3人に……何かあるんだろうか。

 そしてこの相談がわりとすぐ発生することを今の僕は知らなかった。

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