045 妹
「太陽さん、すごく言いづらいことがあるんですけど……」
部活道が終わった後、…‥月夜と一緒に下校していたら急に呼び止められた。
今日の登校時から何か思いつめていたし、少し心配はしていたんだよな。
言いづらそうにしていたが、何回か優しく説得したらようやく口を開いてくれた。
「私の兄になってくれませんか」
「もういるじゃん」
正直な所、実妹と月夜を交換できるなら泣いて喜ぶわ。多分実妹も兄が星矢だったら絶対喜ぶと思う。
月夜はポケットに入れていたチラシを僕に差し出した。
「妹キャンペーン?」
文面を呼んでみるとわりと最近できたスイーツバイキングのお店で仲の良い兄妹で行くと何と妹分の料金がただになるというキャンペーンがあるようだ。
ただ人数の関係で抽選なのだが、試しにやったら見事当たったらしい。
「星矢と行くのは駄目なの?」
「兄の分を払うことに難色を示すと思います」
あいつはスイーツは自分で作れっていう派だもんな。金を使う所では使うけど、ケチる所では完全にケチる。
月夜が何を買おうが特に何も言わないけど、星矢の金を使うことに対してものすごく口うるさいらしい。
シスコンのくせに微妙に細かいんだよな。
妹キャンペーンのチラシをよく見て見る。なんか下に注釈があるんだけど……。
どうやら月夜は気づいてなさそうだ。
「明日は部活動もないし、よかったらどうですか?」
「いいよ~。付き合うよ」
◇◇◇
というわけで翌日、スイーツバイキングのお店に到着した。
キャンペーン抜きでも結構人が多いな。そして9割女性しかいねぇ。
月夜が受付を行い、僕達は席に通された。
「よし死ぬほど食べますからね!」
「気合入ってるなぁ」
値段はそう安くはないが、やはりケーキの種類が豊富だ。シフォンやショートケーキ、バターケーキにパイ、シュー、タルトといっぱいあるな。
僕は一皿掴んでどんどんとケーキを積み重ねていく。甘いものは好きな方だ。せっかくだし、僕もしっかり食べさせてもらおう。
席まで戻ると僕が1皿なのに月夜は3皿ほどテーブルに置いていた。
「今日はお腹いっぱいなんですか?」
「これが女子ってやつなのか」
普通のバイキングなら月夜にだって負ける気はしないがスイーツとなるとやはり変わってくる。
月夜は美味しそうにケーキを一つずつ食べていく。1つ食べて、2つ食べて至福の表情だ。甘い物が好きなんだろうな。
甘い物も美味しいけど、それにすごくブラックコーヒーが合うんだよな。甘いと苦いのコンビネーションが見事だ。
気づいたらあっという間に月夜の皿のケーキが無くなってしまっていた。そして新しい一皿を取りに行くのだ。
「すごいね、見違えたよ」
「今日はもう大食いキャラでいいです。太陽さんにはバレてるし……」
そこはちゃんと気にするのか。
食べる姿を見るのは嫌いじゃないし、好き放題食べて満足できるならそれが一番だよ。
最終もう一皿追加され、月夜の糖分摂取はこれで完了した。
月夜も満足したみたいで紅茶を飲んでいる。
すると店員さんがワゴンに乗せて何かを運んできた。
「アイスクリーム補充しました。宜しければどうぞ!」
「アイス!!」
月夜の目が星のように光ったような気がした。
まさかあれだけ食べてまだアイスまで行く気か。
「太陽さん、アイスですよ!」
「僕はおなかいっぱいだよ。でもよくそんなに入るね」
「ふっふっふ、甘いものは別腹ですから」
「今までずっと甘いもの食べてたじゃないか」
アイスに目がくらんでボケボケな発言をすることに思わず笑ってしまった。
月夜は大満足でアイスを食べてこれにて食事終了だ。
お会計の時間である。月夜は半分払うと言ったがそれは固く辞退した。
月夜にはこれからやってもらうことがあるのだ。それを得るなら僕は本望だ。
店員さんがカメラを持つ。
「え、どういうこと?」
やはり気づいてなかったようだ。僕は月夜にチラシをもう一度見せる。
お会計の時に妹が兄への感謝としてある言葉を告げる。その写真を撮るということだ。
「わ、私見てなかった」
「そうだろうね。じゃあやろうか」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私……これを太陽さんに言うんですよね」
そうです。僕はこのためにここに来たんです。
月夜は何度も何度もキャンペーンの紙を読む、いつもは白くて透明感のある肌が恥ずかしさで赤くなっている気がした。
月夜は紙をポケットにいれやけくそに話し始めた。
「いいですよ! やってやります!」
従業員や他の客からも注目浴びている。そりゃ月夜レベルの女の子が甘えるように感謝の言葉を述べるんだ。当然の話である。
ちょっと緊張してきた。
僕の目の前で月夜はしゃがんで、両手を胸の前で組んだ。恥ずかしそうに頬を紅く染め、少しだけ涙ぐみながら……声をあげた。
「おにぃちゃん……いつもありがと…‥だぁいすき!」
◇◇◇
「どうした?」
僕は神凪家に行き、星矢へお土産のケーキを手渡した。
「なんだこれは」
「いや、君に申し訳ないことをしたと思って」
「どういうことだ?」
「本来君が受けるべきだった言葉を僕が横取りしてしまった罪悪感でいっぱいになってね。それは謝礼だよ」
僕はケーキを星矢に押し付けて帰る。
「い、意味がわからん、それにしても何であいつ両鼻にティッシュ詰め込んでんだ?」
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