035 王子とお嬢様と雑兵

 ようやく移動した僕達であったが移動先は自然公園ではなく、九土原彩花くどはらさいか家別邸に案内される。

 別邸に入った時点で女性陣とは別れさせられ、僕と星矢は執事の男性に連れていかれた。

 星矢は何回か来たことがあるらしいが、僕は初めてだ。もし星矢が九土さんと結婚したらセレブになっちゃうのかなぁ。


 巨大な部屋に連れてこられて、百近くもある浴衣を見せられる。

 すると今度はメイドさんが現れて、あれやこれやと浴衣を持っていき、僕達に着せていく。

 これ一着いくらぐらいするんだろう……。


「僕達が選ぶんじゃんないんですね」

「星矢様も太陽様もファッションセンスはないとお嬢様からお聞きしていますのでこちらでやらせて頂きます」


 あ、間違いない。

 僕も星矢も浴衣姿に着せ替えさせられた。髪の毛もセットしてもらい、肌にもなんか塗ってくれた。やべぇ、今、人生で一番イケメンだぞ僕。

 さすがに下駄は履いたことないからサンダルにしてもらった。


 星矢は黒を基調としており、縦じまの浴衣だ。180センチある星矢の体格にぴったり似合っており、やっぱ星の王子様の異名は伊達じゃないな。こりゃ性格悪くてもモテるわな。

 ちらっと聞いてみると九土さんのオススメの品らしい。さすが好きな男子には自分のオススメを着せる。欲があって実によい。

 あとは出発を待つだけだったが、突如更衣室の扉が開き、誰かが入ってきた。

 その人物のあまりの様相に僕と星矢は言葉を失った。


 紺色を基調とし、所々に紋がある大人っぽい着物は腰まで伸びた霞色の髪がマッチしている。九土さんの美しさはぐんを抜いていた。メイクもしており、美人すぎんだろ。

 カメラはあるんだけど……とてもじゃないが撮らせてくれとは言えない。


「星矢やはり黒が似合うな……。その」

「あ、ああ、先輩も……」


 なぜかお互いにそっぽを向いて照れ合っている。九土さんは意外に純情なのは知っていたが、まさか星矢もここまでぐっと来ているとは。

 ハーレムレースに一歩、九土さんが前進したのかもしれない。


「せ~いや。九土さんめっちゃ綺麗だよな! な、そうだよな」

「お、おい」


 九土さんは困ったように僕を見ますが止めません。

 僕はとにかく星矢から言葉を出すように煽った。


「見違えましたよ。先輩。正直……見惚れました」

「――――っ! そ、そう、ありがと」


 九土さんはきゅっと赤くなった。普段クールで大人びた女性ほどこういう顔をするとギャップでいいよね。


「それより先輩はなぜここに。メイドが後で呼びに来ると言ってたんですが」

「そ、それは……」


 九土さんはそこで止まってしまった。


「そんなの決まってんじゃん。誰よりも先に星矢へそのかわいい姿を見せかったんだよ!」

「そ、そうか」


 星矢もさすがに手を頬にあて照れ始めた。


「た、太陽君、君は直球すぎるぞ」


 僕は自分が関係しなければかわいいとか綺麗とか言えるタイプです。だって僕にとっては他人事だもん。どうせそれが目的だからいいんだよ。

 ニヤニヤしちゃうな~。これが2人の世界って奴かな。

 お互い褒め合って……いい感じになったので雑談の時間です。


「僕にまで浴衣用意してくれてありがとう。僕は別に普段着でよかったのに」

「君はいつも着ている奴隷のような着衣で私達と一緒に歩くつもりか」


 ひでぇ言われよう。好きな人とどうでもいい人との扱いをマジマジと見せつけられる。

 確かに私服を持ってきて着るつもりだったんだけど……。

 九土さんは僕のグレーの浴衣をじっと見る。


「君に浴衣を着せたのはそれだけが理由ではない。でも似合ってるじゃないか。雑兵くらいには見えるぞ」

「奴隷も雑兵もそんな変わらないんじゃない?」


 僕の最高のイケメン姿は雑兵レベルらしい。

 九土さんは愛しの女の子達の着衣を手伝ってくるといって出て行ってしまった。あの人、女の子も大好きだもんなぁ。

 女性陣、男性陣の集合は現地という形になった。現地で骨抜きにする作戦らしい。九土さんは企画者特権で先に星矢に見せたのだろう。

 僕も同じ部屋にいて役得だった。惜しいことといえばカメラで撮れなかったことだな。集合写真で我慢するか。


 こうして僕と星矢はまた車に乗せられ、自然公園へ到着したのであった。

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