006 カメラ

 写真撮影が好きだ。

 といっても下手の横好きなのだけど、こうやって外に出て綺麗な日常を撮ることが趣味の1つとなっている。

 父が持っているミラーレスカメラを借りて僕は近所を歩いて美しいものを探す。大学生になったらバイトして一眼レフのカメラを買おうかな。


 今日も晴れた夏の日なのでストラップを首にかけて、いい写真を撮りに行こう。

 先日、犬の散歩に立ち寄った河川敷へ足を踏み入れる。できるだけの人が少ない所がいい。勘違いされても嫌だしね。

 川や橋、木々に止まる鳥、駐車する車……移動しつつシャッターを切り、データとして納めていく。

 今日も悪くない。さてと……。


「わっ!」


 肩まで伸びた栗色の髪、目、鼻、口、理想な位置で揃った顔立ち、血色の良い肌、無駄な肉が一切ない肢体。

 思わず吸い込まれそうなほど純度の高い二重の瞳に思わず僕の歩みを止めた。

 その理想的で……華美な少女の姿がファインダーに収まり……僕はシャッター切った。


「あ」


 僕の声と共に撮られたことに気づいた少女は思わず顔を隠す。

 彼女……神凪月夜かみなぎつきよは声を上げた。


「と、撮らないくださいよ!」

「ごめん、思わず!」


 急に前に出てきた妹ちゃんがいけないような気がするんだけど……。

 ただこの綺麗に撮れた写真は何としても残しておかなければと思った。


「太陽さんってカメラが好きでしたもんね。何撮ってたんですか」

「風景とか日常だね。僕は面白い写真とかには興味がないんだよね」


 妹ちゃんは属にいう女の子らしい恰好に小さなポーチを下げていた。友達と遊んだ帰りだろうか。


「写真を見せてください」


 やましいもの撮った覚えはないのでカメラを渡してあげた。1枚ずつ妹ちゃんは見ていく。

 結構な枚数になってるんだよね。ピントがズレたものとかもあるから……クオリティが高いものはないんだけど。


「風景が多いですね」

「そうだね。人物はよっぽどじゃないと撮らないからね」

「え、じゃあこれはよっぽどですか」

「ぶほっ!」


 そこに映っていたのは冗談で撮った妹ちゃんの兄貴の写真であった。


「やっぱり太陽さんってお兄ちゃんのこと……」


 妹ちゃんは手をあて、少しだけ後ろに下がる。この声のトーン、目を細めて、口を緩めた態度。からかいで言ってるな……。


「そーいう声はよく聞くけど、ありえないから」

「お兄ちゃんって太陽さんしか友達いないから仕方ないですよね」


 あいつの写真は必要ないから消しておこう。妹ちゃんは写真の再生を続ける。


「僕は本当に綺麗なものしか撮らないの。僕は美しいものが好きだからね」

「じゃあ……」


 妹ちゃんは僕にカメラの再生画面を提示した。


「これは綺麗なんですか?」

「っぐ!?」


 僕のベストショットと言える、今さっき取った妹ちゃんの写真だ。そうだよ、その通りだよ。綺麗だよ。見りゃ分かるじゃないか。

 でもそんなことを言えるはずもない。目の前の女の子に君は本当に綺麗だよ、なんて言えるものか。


「手にボタンが当たって……」

「むー」


 その回答はお気にめさなかったようだ。

 じろっと見つめられるが僕にも意地がある。顔の赤面を何とか隠し、この状況を打破したい。

 妹ちゃんからカメラを返してもらい、僕は再びストラップを首にかけて被写体を探す。

 お、川に鳥が1羽、いい感じにいるじゃないか。カメラを抱えて……ファインダーに被写体を写して。


 ーーーピッ


 ん? あれ、ちょっと待ってまだ撮ってないんだけど。

 これ、スマホのシャッター音だ!


「私、帰りますね」

「え、ちょっと妹ちゃん……何撮ったの!? ねぇ」


 妹ちゃんはスマホを片手に僕から去っていったのであった。そして僕が撮ろうとした被写体はいなくなっていた。

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