第285話 キャタピラーは登録商標

 確か遊び道具制作用にゴムのストックをアージナの別荘へ持っていっているよな。

 仮の動力源はモーターでいいよな。

 よし、方針は出来た。

 クローラ、無限軌道ともいうあれを作ろう。

 クローラ本体はゴム製でいい。

 ウージナの研究室とアージナの別荘からゴムやら蓄電池やら磁石やら鋼やら、材料一式を移動魔法で取り寄せる。


「実際にモデルを作ってみたほうがわかりやすいと思います。シモンさん、ちょっと手伝ってもらえるかな」

「勿論。何をすればいい?」

「まずはモーター。電気自動車用よりは小さいタイプ。蓄電池2個で2時間動かせる位で大きさは直径20cm程度。出来れば高トルク型のを全く同じ仕様で2つ」

 我ながら無茶なお願いだと思う。

 でもシモンさんは、

「わかった。直径20cm程度で高トルク型のモーターだね」

とだけ言うと早くも制作にかかってくれる。

 その間に俺はシャーシを目分量で作り、シャフトと転輪を作り、そして肝心のクローラを一体成型で作る。

 構造は分かりやすい事を重視してシングルブロックにピン2つのタイプだ。

 伸びないように一部はワイヤーを入れて強化。


「モーター出来たよ。こんなものでいい」

 鑑定魔法で見てみると俺の希望通りの仕様になっている。

 相変わらずシモンさんは仕事が早い。

 こんなの俺がやったら1時間以上はかかる。

「じゃあこれ用のスライド式抵抗器を2つ、これも全く同じもので頼む。やや負荷がかかるから電流多めに流れても大丈夫なように。大きさはモーターの上に設置できる程度で」

「わかった。記述魔法で制御できるように符号を入れておこうか」

「頼む。自在に変化させられるようにダイヤル式じゃなくてプラスマイナスで」

 これだけで話が通じるから本当に便利だ。

 俺はモーターのブラケットを作り、割と減速比が大きめのギアボックスを作って自在シャフトで前部分の大きめの起動輪に接続させる。

 

 そんなこんなで約半時間。

 取り敢えず試験用にクローラ車体の見本が出来た。

 試験用なので記述魔法を使ったリモコン操作で動かす方式。

 ちなみに俺のイメージは米軍のタロンだ。

 でも障害物や傾斜面用にクローラの前部をやや大型化している。

 これで膝下程度の障害物も乗り越えられる筈だ。

 操作装置はとりあえず試験用なので単純なスティック2本上下式。


「これで多少の障害物は乗り越えられると思います。方向転換は左右の車輪の速度差で行ってください」

 そう言ってとりあえず前後左右に動かしてみる。

 ウイーン、ギュギュッ。

 前後左右に動くことを確認。

「こんな感じです。まだ自動化していませんし動力源も仮ですけれど、走破性能がどんな感じかはこれで分かると思います」

「なるほど、タイヤを大きくして変形させたようなイメージなのですね。これは思いつきませんでした。でも確かに四脚型より単純かつ効率的です」

 久々に前世にあったものをそのまま知識として活用した気がする。

 最近は飛行機とか蓄電池とか、細部を研究しないと実用化できないものが多かったから。

 こういったわかりやすい目に見える形のものはいいよな。

 伝えるのが楽で。


「ありがとうございます。至急この考え方を使って試作品を作ってみます」

 ジゴゼンさんも基本的にはモノづくり屋だ。

 そしてこの中の皆さんもそんな感じ。

 早速出来たばかりのクローラ台車を囲んで検討会が始まる。

「それでは私たちは帰りますね」

「本日は本当にありがとうございました」

 検討会の中からジゴゼンさんが顔を出して挨拶をする。

 それで終了。

 また検討会の中へと戻る。


 そんな訳で全員でアージナの別荘へ再び移動。

「ああやって見るとジゴゼンさんも相当だな」

「ミタキとかシモンさんと同じ人種だよねきっと」

「うう、否定できない……」

 俺はシモンさん程酷くないぞ。

 そう言いたいが皆が頷いているので敢えて異を唱える事はしない。

 俺は人間が出来ているからな。

「さて、まだまだ時間がありますから外で遊びましょうか」

「でも飛行場でミタキ君と作ったあの装置、ちょっとここでも試してみたいな」

 出たなシモンさん。


「構造はもうわかっているし実際俺達が使う必要性は無いだろ。あれは本来道じゃない場所を走るためのものだし速度も出せない」

「でもあの方法だと砂浜でも走れるよね。車体が浮くようにすれば水上だって走れそうだし」

 車体が浮くという台詞と水上を走るというイメージ。

 そこである物を俺は思い出してしまった。


「あっミタキ、何か思いついたでしょ」

 ミド・リーは魔法を使わなくても俺の表情を読む。

「いやさ、ホバークラフトという乗り物があって……」

 こうして今日これ以降、俺、シモンさん、キーンさんの3人は工作漬けになるのだった。

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