第264話 宿題のプレッシャー
流石に蒸気自動車が入っているとは思わなかった。
この倉庫が車庫だろうとは思ったのだけれど、俺たちの蒸気自動車を入れる場所かと思っていたのだ。
見るとあの大型船に乗っていたものと少しだけ形が違っている。
一番違うのが後ろの荷台。
取り外し可能な大型タンクが載っている。
つまり蒸気自動車版のタンクローリーという訳だ。
鑑定魔法で更に確認してみる。
俺達の蒸気自動車にある乗客用外気導入ファンとか屋根上荷物置き場とか細かいギミックは省略され、全体的に簡素な構造になっている。
でも大型船見学の時に見たものより機構的には俺達の蒸気自動車に近い。
以前見たものでは修理の為ユニット交換できるようになっていたボイラーが固定型でより圧力の高いものになっている。
蒸気ピストンも高圧のみ2気筒だったのだが。高圧低圧2気筒ずつの4気筒。
ブレーキもただの油圧ディスクからベンチレーテッドタイプで倍力装置付きのものになっている。
多分これがアストラム国内仕様の量産型なのだろう。
アストラムは半島国家だが中央部が山地で坂が多い。
それに対応したものになっている訳だ。
「これ本当に使っていいのかな」
「自由に使ってくれとありますし問題無いと思いますわ」
「きっとこれに入れて原油を運べという事だよ。なら原油を入れてこの車ごと別荘へ持っていけばいいよね」
「そうですね。でも一応倉庫の中や部屋の中を全部確認してからにしましょう」
そんな訳で倉庫の中を確認してみる。
他にあったのは荷台に積んであるのと同じタイプの空タンクが1つ。
あとは予備燃料と思われる石炭くらいだ。
「次は部屋の方を見てみましょう」
事務棟の建物はそれほど大きくない1階建て。
部屋は受付・事務室、研究室別室、第1会議室、第2会議室、第3会議室の全部で5部屋。
他に男女トイレがついているだけだ。
第3会議室は会議用の折りたたみ机が10個20人分、折りたたみ式の椅子20人分、引き出しのついた事務用机が3つ。
他にロッカーが10個あるが中身は空だ。
事務机の引き出しの中を全部確認してみる。
鍵のあった机の引き出しの奥に手紙があった。
アキナ先輩が開封して読む。
「看板にあったメッセージとほぼ同じですわね。まずは5番倉庫内のものとこの部屋のものは自由に使っていいという事ですわ。
他には
○ 原油は自由に採取していい
○ 施設は基本的に無人で、時々原油を運ぶ為に軍や研究所の人間が来る程度
○ 出入りする人間はそちらの事を知っているので移動魔法で出入りして構わない
○ 他にも原油採掘施設及び精製施設を開発・建築中。
○ ウージナ郊外他5箇所に飛行場を建設中。それぞれ完成予定は来年2月半ば
という内容です。なお飛行場の場所はウージナの他はオマーチ、ニ・ホ、エビゾ・ノ、シンコ・イバシ、ハツカイ・チーだそうです。詳細な場所についてはこの手紙に地図が同封してありましたわ」
おい、一気に飛行場を6箇所も整備しているのかよ。
しかも原油採掘場所や精製施設も複数整備か。
「何か凄くプレッシャーを感じるな」
「それだけ期待されているのですわ」
「頑張って早く飛行機を作らないとね」
アキナ先輩にシモンさん、それがプレッシャーなんだ。
まあ仕方無いから今日の午後から設計作業を再開するけれど。
「他には何もないようです」
ナカさんによる部屋の確認は終了した模様だ。
「なら原油を積んで別荘に帰ろうか」
「そうだね」
そんな訳で倉庫から蒸気自動車を出してタンクに原油を詰める。
大体
こうして鑑定魔法で見ると硫黄等の不純物が少ないなかなか良質な原油のようだ。
「それじゃ僕はこれを運転して別荘に帰るよ。ここからなら移動魔法を使わなくても1時間あれば着くと思うしね」
まあ運転はシモンさんが妥当だよな。
「なら俺が助手席でついていこうかな」
そう俺が言ったらアキナ先輩がにやりとした。
「ミタキ君は早めに帰って飛行機やエンジンを設計した方がいいのではないでしょうか。宿題は早めに解決した方が気が楽になると思いますわ」
おい、そこまで俺を追い詰めるか!
でも確かにそんな気もする。
ここまで追い詰められた以上、やる事は早めに手を付けておいた方がいいだろう。
「なら代わりに俺が乗っていこう」
確かにタカス君なら故障しても鑑定魔法で調べられるし適役だな。
なら俺は帰って設計図とにらめっこする作業にかかるとするか。
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