第256話 鵜飼いの鵜の気分です

「まず魔獣退治だな。その後川が流れ込むところの宝石を探そう」

 そんな訳でいつもの堰堤上へ。

「今日の獲物は鹿魔獣チデジカ3頭、猿魔獣ヒバゴン2頭でいいでしょうか」

「充分だな。数が多いからフールイさん、頼めるか」

「問題ない。準備する」

 今日も大穴に液体窒素を仕掛けて猟をするようだ。

「液体の空気を入れましたわ」

「ミタキ君、どう? 窒息する程度に充満している?」

「ええ、もう大丈夫なようです」

 穴から白い煙が沸いているのが見える。

 液体窒素のせいで凍り付いた空気中の水分だ。

「では開始。まずは猿魔獣ヒバゴンから」

 もうこの辺になると狩りというより作業だ。


 獲物5頭にとどめをさした後。

 ヨーコ先輩が風魔法で換気をして白い煙が晴れた。

「もう中は人が入っても問題ないか?」

「大丈夫です」

 鑑定魔法では換気終了と出ている。

「それじゃ解体班は下へ運んで吊るし作業、他は宝石探し第二弾と行くか」

 わかっていたけれど異議を唱えておこう。

「宝石探しは明るくなってからの方が見つけやすいんじゃないですか」

「勿論本番は明日の朝だ。今は新兵器の試運転だな」

 新兵器だと。

「とりあえずみんな移動しましょう」

 という事で荷車で堰堤下へと移動する。

 そこからはアキナ先輩先頭の宝石班とヨーコ先輩、フールイ先輩、シモンさん、シンハ君4人の魔獣解体班に分かれる。


「まずは照明器具を設置しましょう。まだ実際に使ったのを見たことが無い人もいますから」

 そんな訳で鹿魔獣チデジカの魔石を使う照明器具を組み立てる。

 スイッチを入れると暮れかけた谷間が一気に明るくなった。

「うわ、これは面白いのだ」

「普通の灯火魔法より遥かに強力ですね」

「夜の野外でもこれなら作業が出来そうです」

 そういえば今年入った皆さんもオマーチの3人も実際にこれを使ったのは初めてなんだよな。

 でもこれが新兵器なのだろうか。


 影で見えない場所が出来にくいよう、照明器具を3か所に設置した後。

「次はミタキ君の杖を組み立てましょう」

 との事で収納していた箱を開ける。

 何か普通の魔法アンテナより大きくて、付属品が多いような……

 組み立ててみると違和感は正しかった。

 素材こそ魔法銅オリハルコンだけれどもフールイ先輩の空間系魔法アンテナやシモンさんの強力工作系魔法アンテナと同じくらい巨大だ。

 そして杖本体の下にはタイヤがついていて移動できるようになっている。

 更に杖から明らかに導線と思われるものが長く長く伸びている。

 導線の先には右手用の皮手袋がついていた。


「その手袋をはめて下さいな」

 言われたとおりはめて気付く。

 手袋の手の甲部分と手のひら部分の一部に魔法銅オリハルコンの電極がついている。

 手袋をしっかりはめる事で、つまり俺と魔法杖とがつながった状態だ。

「これはミタキ君が鑑定魔法を使いながら動けるようにシモンさんが作った特製魔法杖ですわ。これで杖前方を捜索しながら作業が出来ます。更にタイヤもついていますので作業しながら移動も可能ですわ」

 俺は色々理解した。


「つまり鉱石を掘りながら探索できる専用杖ですか」

「杖を動かすのは私が手伝いますわ。それでは作業を開始しましょう」

 おいおい。

 でも確かに大型魔法アンテナのおかげで鑑定魔法が強力に発動している。

 こんな鑑定魔法の使い方は昼の鉱石探しで使ったのが初めて。

 でも確かに鉱石探しの為にはこの魔法杖はなかなか有効だ。

 既にいくつか水晶が感知出来ているし。

 仕方ない。

 とりあえず皆さんが納得できる程度には取るとするか。

 そんな訳で俺は鉱石採取をスタートした。

 まずは足元ちょい掘ったところにある小指爪程度の水晶からだな。


 ◇◇◇


 実際に成果が見えて探すのも簡単だと面白い事は面白い。

 だからつい猿状態になって鉱石を探しまくる。

 程よい具合にアキナ先輩が杖や照明を移動させサポートしてくれるのもいい。

 結果、昼より遥かに効率よく色々な石を採取した。

 基本的には水晶多数とトパーズ少し。

 アクアマリンのちょい綺麗なものなんてレア品もいくつか。

「そろそろ撤収しましょうか。結構寒くなってきましたし」

 そう言われて初めて俺は結構時間が経っていた事に気がついた。

 空が真っ暗になっているから1時間近くやっていたかな。

 まんまと皆さんの思惑に乗ってしまった訳だ。

 でもまあいいか。

 確かに楽しかったし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る