第237話 熊魔獣は色々売れる

「移動魔法と熱魔法のコンビで自動的に敵を倒すのと、生物魔法で魔獣をコントロールして自分の前まで引っ張り出してから倒すのと、どちらがチートなのでしょうか」

「どっちもチートだから参考に出来ないと思いますわ」

 タカモさんの質問にアキナ先輩はそう答えて肩をすくめる。

 横ではユキ先輩が苦笑いしている状況だ。

 そんな訳で本日の成果は熊魔獣アナログマ1匹、鹿魔獣チデジカ2匹。

 それを当座の処理まで1時間程度で終わらせてしまった。

 何か準備したり片付けたりしている時間の方が長いくらいの状態だ。


鹿魔獣チデジカ熊魔獣アナログマのモツって食べられたっけ」

鹿魔獣チデジカは大丈夫。熊魔獣アナログマは経験が無いから何ともいえない。一応内臓全部傷つけずに取ってある」

熊魔獣アナログマの内臓は貴重品だから売ってやると喜ぶ人がいると思うぞ」

「なら熊魔獣アナログマ鹿魔獣チデジカ1頭の内臓は売って、鹿魔獣チデジカ1頭の内臓は食べる事にしましょうか」

「承知」

 バケツに内臓の部位を分けて入れて、ヨーコ先輩とフールイ先輩は砦の受付へ。

 その他の皆さんで内臓を取って洗った熊魔獣アナログマ鹿魔獣チデジカ2頭を水中へ吊す。

「処理も鮮やかですよね。見る間にすっと分けていって、血とかが飛び出たりもしませんし」

「フールイ先輩は上手だよね。小さい頃に相当山に入ってやっていたらしいよ」

「シモンさんも見事ですよね。上手い人がやると内臓が膜がついたまま傷なしで出てきますし」

「僕も昔からやっていて結構自信あったんだけれどね。フールイ先輩には負けるな」

 そんな事を話しながらつるし終え、回りの汚れを水で流せば作業終わりだ。


「これってこの後どうするんですか」

「明日の朝引き上げて、肉と革を分けて、肉も各部位に分けて上に持っていくよ。肉は時間が経つにつれてだんだん味が変わってきて結構楽しめるんだ」

「固いのを薄めに切ってさっと焼いて食べてもいいですし、熟成した柔らかいのを塊で焼くのも美味しいです」

「でも取りあえず今日の夕食は内臓肉祭りだよね」

「肉祭りって想像はつくけれどどんな感じですか」

「タレに漬けて焼いたり、茹でたのをさっと冷やしたり、物によっては生で食べたりかな」

 そんな話をしていたら先輩達が戻ってきた。

 何故か地元の人らしい大人の男性も一人一緒に来ている。

「熊は内臓だけじゃなく頭なんかも使うそうだ。だからもういちど引き上げて頭の解体だって」

「私もやり方を知らないので出来る人に来て貰った」

 つまり今一緒に来た大人は『それが出来る人』か。

 そんな訳で水から重いのを引き揚げて石畳にのせる。


「いい状態だな。体に傷が見当たらない。これはどうやって始末したんだ」

「魔法で心臓に近い動脈を破裂させました」

「なるほど。内臓も上物だったからどうやったのかと思ったんだ。罠で死んだものと比べて段違いに新鮮だったしさ。じゃ熊魔獣アナログマの頭と前後の足を取るぞ」

 彼はそう言って喉元にナイフを入れ、ナイフを回しながら入れていく。

 更に口の部分からもナイフを入れる。

「こうやって取ると頭蓋骨内の脳みそから目や延髄まできれいに取れる」

 見た目はかなりグロイがこの世界では割と皆さん平気だ。

 まあ市場に皮を剥いだウサギとかぶら下っていたりする世界だからな。

 それでも内蔵系はやっぱりグロいとは思うけれど。

 更に両手両足を切り取って作業終了の模様。


「後は明日取りに来るからこのまま水漬けにしておいておいてくれないか。熊魔獣アナログマは皮下脂肪や他の部分も使うから」

「脳みそとか手とかはどうするんですか」

「勿論食べる。美味しいし何より身体にいいって昔からこの辺では貴重なんだ。内蔵の一部なんかは乾かして薬にしたりもするし。

 でもまあこれだけ新鮮で綺麗に処理した熊魔獣アナログマはまず出ないけれどね。危険だからだいたい罠でしかとらえられないし」

 うーん、俺にはわからない文化だ。

 でも喜ばれてお金になるならいいか。

 そういえばいくらになったんだろう。

 あとでヨーコ先輩達に聞いてみよう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る