第195話 変わる未来

「それにしてもオマーチからここまで往復は大変でしたでしょう。シャクさんとターカノさんが交互に魔法を使われたのですか」

「それなんですけれどね」

 ターカノさんが申し訳なさそうな顔をする。

「どうせ夕方までには出来るだろうと思ってさ。ちょっと姉の処で一休みさせて貰っていた。ちなみにジゴゼンも朝から来ていたんだ。出番は後という事で半日ほどウージナを観光して貰った感じかな。

 君達の製作速度はかなり早いしさ。未来視達も4時頃までには出来るだろうって予知していたしね」

 しれっと殿下がそんな事をバラしてしまう。


 えっ。という事は……

「まさかと思いますが、朝の話から今のこの状態まで、全て予知で知っていらっしゃったのでしょうか」

 アキナ先輩が丁寧かつゆっくりした口調でそう尋ねる。

 表情こそ笑顔だが目が笑っていない。


「そんな事は無いさ。予知なんてそんな確かなものじゃないんだ。可能性が高い低いがある程度わかるだけで確たる未来なんてわかるものじゃない。

 前も言った通り未来は変わるものなんだ。ほんのちょっとした事でね。

 例えば十数年前に未来視が見た未来ではアストラムこのくには戦争でスオーに占領される可能性が高かった。でも昨日の段階では本格的な戦争に入る可能性はほぼ無くなった。今のところ序盤の小競り合いは避けられないがすぐに停戦に持ち込める可能性が高い」


「その移動用魔道具を使ってみれば少しはわかるかもしれません。予知魔法の不確かさが」

 ターカノさんがそんな台詞を口にする。

 どういう事だろう。

 俺達はターカノさんの方を見る。

「移動魔法は未来予知とよく似た魔法なんです。治療魔法や回復魔法が生物魔法の一部であるように、移動魔法と予知魔法も恐らく同じ魔法の一部なんです。ですから人によっては移動魔法が使える杖で未来を視る事が出来るかもしれません。

 そうすればきっと予知というものの不確かさがわかりますわ」

 なるほど。

 そう言えば時間は空間の仲間だという話を遠い昔に聞いたような気がするな。


「依頼された全ての魔道具に認証機能を付与し終わりました」

 ジゴゼンさんがそう言って一礼する。

「それでは撤収致しましょうか」

「そうだな。後はこっちの仕事だ」

 殿下が頷いた。

「そのうちその自動車もボートも、この移動魔法が使える魔道具さえも誰もが使える時が来るだろう。何時になるかはまだわからないけれどね。それじゃまた学園祭には来るからさ。その時にはまた面白い物を考えて作っておいてくれ」

 えっ、また来るの。

 そう思ったのは俺だけでは無い筈だ。


「それでは失礼致します」

 ターカノさんの声とともに4人とも姿が消えた。

 引き渡し用に作った魔道具も全て姿を消している。

 一気に人が減った中誰かのため息が聞こえた。

「最後の最後に気が重くなるような事を言っていったね」

「言わなくてもどうせ来るだろ、あの人は」

 シンハ君の台詞にうんうんと皆で頷く。


「それじゃ気を取り直して移動魔法用の魔道具とボートと車の認証をしましょうか」

「そうだね」

 そんな訳で肩掛けポーチ型の移動魔法用魔道具を1つずつ取る。

 認証そのものは簡単だった。

 手に取った瞬間、認証機能の使い方が全て頭の中に入り込む。

 ボートや車も同じだった。

  ① 最初に触れた人が所有者として認証され

  ② 他の人が触れた際に所有者を委譲するか追加認証していいか決めて

  ③ 3人目からは所有者のうち2名が認めれば認証または委譲できるようだ。


「これで盗まれても安心ね」

「いや、盗まれる時点でまずいだろ」

「そりゃそうだけれどね」

「取りあえずこれで自由に旅行できるのだ」

「でも学校内は移動魔法で入れないから、試しに出て行くと帰るのに苦労するぞ」

「と、さっき失敗したミタキが言っております」

「でもその前のこのポーチは改良しましょう。このままだと服に合いませんから」

 ちなみに黒色革製、肩紐と脇の下を通る横紐で身体に固定する方式だ。

 軍用だから銃用ホルスターを思い出しながら俺が作ったデザインである。


「とりあえずデザイン考えようか。全員別の方が自分のがわかりやすくていいよね」

「そうだね。でも今日はそろそろ終わりかな。時間的に」

「じゃあ明日ですね。それまでにデザインを考えて」

 確かにだいぶ遅くなったような気がする。

 そう思ったら5時の鐘が鳴り始めた。

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