第188話 実は危険な装備品

 夕食はなんと米飯、それも白米のお茶漬けだった。

 焼肉やゆで野菜、茹で肉や冷製の肉、生野菜や玉子焼き、チーズ等色々なおかずが並んでいる。

 これから適当なおかずを捕ってご飯の上に置き、だし汁をかけるという食事。

 そう言えば西岸は雨が多くて温暖だから稲作もやるんだよな。

 米食人口もそこそこいるらしいし。

 ユキ先輩はエビゾ・ノにいたのだからその辺の文化を知っていて当然だ。

 それに米は売っていれば必ず俺が買い込んでいる。

 前世の記憶を取り戻して以来時々無性に食べたくなるから。


「確かにこれならさっぱりにもこってりにも出来るね」

「ミタキは米のご飯大好きだからこれは嬉しいんじゃないの」

「バレたか」

「でもパンとはまた違って美味しいですよね。炊くのが難しいですけれど」

 そんな感じで夕食を食べ始める。


「そう言えばミタキ君、何を作っていたんだい?」

「万能魔法杖の小型化。取りあえずこれで持ち歩けるようにしてみた」

 まだつけたままのウエストポーチを叩いてみせる。

「それって万能って言うけれど、要はタカス君の魔法を簡易的に使えるようにしたんだよね」

「そうそう」

「あの大きな魔法杖でなくても実用になるんですね」

「威力は落ちるけれどね。魔法銀ミスリルを使ってやっと実用的な魔力が出るかな位だから」


「ちょっと聞いていいですか」

 ユキ先輩が難しい顔をして尋ねてくる。

「その魔法杖は、そこにある誰でも工作魔法を使える杖と原理的には同じものなのでしょうか」

 何故難しい顔をしているのだろう。

 そう思いつつ普通に答える。

「ええそうです。機構を無理矢理小型化しただけで」

「なら他の魔法、例えば風魔法用や電気魔法用の同じ物も作れますよね」

「そうですね」

 何故そんな事を聞くのだろう。

 ユキ先輩はますます難しい顔をしている。

「ついでにもう一つ質問です。その魔法杖というかバッグは別の種類の物をいくつも付けて使う事が可能でしょうか。付けにくいとかいうのは別として」

「出来ますよ」

 何か問題があるのだろうか。


「ナカさん。秘密保持魔法を最大限にかけていただけますか。対象はこの部屋だけでいいですから」

 これはアキナ先輩だ。

 先輩も何かに気づいたらしい。

「わかりました。この時点で空間魔法や知識魔法を使ってもこの部屋の会話は傍受できない状態です。ただこの状態は半時間程度しか持ちませんけれど」

「充分です。ありがとうございます」

 何事なんだと思いつつ俺はユキ先輩の方を見ている。


「それではミタキ君に質問します。もしシャクさんかターカノさんにご協力いただけたとした場合、自由に移動魔法を使える杖が作れることになりませんか」

 うっ!

 確かにそうだ。

 でも今まで全く気づかなかった。

「更に言うと移動魔法を使える杖と他の攻撃魔法が使える杖を同時装着した兵がそれこそ百人程度でもいたら、それこそとんでもない事になると思いませんか」

 その通りだ。

 そんなチートな軍隊、どうやって相手にしろというのだ。


 勿論移動魔法を使用不能にする魔法も魔法陣も存在する。

 でも全ての関係場所を移動魔法使用不能にする等出来る訳がない。

 そもそも移動魔法を使える人間なんて圧倒的に少ないのだ。

 この国全体で十数人か、下手すると数人程度。

 だからこそ通常の戦争が成り立つ訳だ。

 移動魔法の使い手は貴重すぎて戦場に投入できないから。

 投入して万が一失った場合、敵の同種の攻撃を防ぎ得ないから。


「まさか小型化することでそんな可能性が出来るとは思わなかったな」

「すみません。私がもっと早く気づいていましたら」

「いえ、私も今気づいただけですわ」

 ユキ先輩はそう言って、そして付け加える。

「ですからその携帯型魔法杖については全力で隠し通した方がいいですわ。万が一気づいてはいけない勢力に知られてしまうとこの前以上の事態になるでしょうから」

「ならこれも廃棄した方がいいんでしょうか」

「いえ、それは持っていて下さい。ミタキ君自身が身を守るには必要でしょう。既に襲われている事ですし、用心するにこした事はありませんから」

「なら全員持っていた方がいいかな」

「ミタキ君以外は皆さんある程度魔法で自衛できますから。それに魔法銀ミスリルを使う以上それほど量産出来る物でも無いでしょうし」


 なるほど。

 確かに体力以外でも俺が一番軟弱なんだよな。

 攻撃魔法を持たないミド・リーやシモンさんも魔法の応用で攻撃出来るし。

 ナカさんに至っては幾つ魔法を隠し持っているかわかりゃしない。

「ではこの話は此処までにしましょう。ナカさん、魔法を解除して下さいな」

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