第186話 強制トレーニング

 ジャンクフード試食会の後。

「この生活を続けたら帰った頃にヤバいよね。少しは運動しないと」

「そうですね。微妙に身体が重くなった気も致しますわ」

「同意だね。登山と魔獣狩りをやったけれどそれ以上に食べている気がするよ」

「ならジョギングかな。全員で」

 恐ろしい提案がなされた。


「そこまでする事は無いんじゃないか。折角のリゾートだしのんびりすれば」

 俺は反対した。

 しかしだ。

「一番トレーニングが必要なのはミタキだよね」

「僕もそう思うよ」

「観念しようや。まあ初心者用にゆっくりやるからさ」

 そんな訳で俺まで強制参加。

 なお万能魔法杖は事前に取り上げられた。

「これを使うとトレーニングにならないでしょ」

「登山の時は一応あれでも鍛えられたけれどな」

「ならあれくらいハードにやってみる?」

「遠慮しておきます」

 そんな訳で湖一周ジョギングのスタートだ。


「こっちは先に行くぜ」

「なのだー!」

「3周くらいしないとトレーニングにならないしな」

 身体強化組3人は凄い速さで走り去っていく。

 シンハ君、初心者用にゆっくりやるのではなかったのか。

 まあこうなるとは想像していたけれど。

 残りは小走り程度の速さでスタートだ。

 この湖の一周は2離4kmくらい。

 だから歩いたならそんなに苦労はしない距離。

 実際朝に散歩したし楽勝だよな。

 その筈だが、その筈なのだが……

 やばい、呼吸が続かない。

 足もだるい。

 ペースが維持できない。


「どうしたのミタキ、もう駄目?」

「先に行ってくれ。こっちはゆっくり回るから」

「まだ半離1kmも走っていないじゃない」

「……正確には271腕542mだ」

 自分が走った距離は鑑定魔法でわかる。

 なお他の皆さんはこれくらいは平気らしい。

「皆体力あるなあ」

「ミタキが軟弱なだけよ」

 はいそうですか。

 まあ自覚はあるけれど。


 仕方無く全員俺に会わせて歩きペースになる。

「これは根本的に鍛えないと駄目だよね」

「いいじゃないか。別に不自由することも無いしさ」

 あ、ミド・リーとシモンさん、それにナカさんの様子が変だ。

 どうも伝達魔法で会話をしているような気がする。

 他の皆さんも会話に加わっている様子。

 そして。

「よし、方針を変えましょう。一度別荘に戻ります」

 ユキ先輩が宣言する。

 何だ。何をする気だ。

 俺だけ何もわからないまま別荘をUターン。


「計画変更でドライブをしましょう。確か見晴台まで馬車道があるはずです」

 ドライブに変更か。

 それなら楽でいい。

 身体強化組3人は走らせたままにしておいて、取りあえず蒸気自動車をスタンバイさせる。

 石炭を投入し、水を回して、魔法で釜を加熱させて……

「それじゃ行こうか」

 その場にいる全員が乗って自動車はスタート。


 見晴台までは3離6kmちょっと。

 湖畔、沢沿い、気持ちのいい森を抜けて到着する。

「ついたよ。取りあえず降りて。僕は自動車を転回させるから」

 そんな訳でシモンさんだけを残して俺達は蒸気自動車を降りる。 

 蒸気自動車は3回くらい切り返して方向を変えて……えっ!

 転回を終えた蒸気自動車はそのまま走り出してしまった。

 運転席のシモンさんだけが乗った状態で今来た道を帰っていく。

 どういう事だ……まさか!


「これならミタキも運動せざるを得ないよね。帰るために」

「ちょっと遠いから走らなくてもいいですわ。それでは行きましょうか」

 そういう事か、やっぱり!

「折角ですから見晴台まで行ってから帰りましょう」

 そういう事で見晴台の場所へ。


 ちょっと開けたところに木製の展望台があった。

 高さは3階建てくらい。

 上がってみると確かに見晴らしがいい。

 前側正面が中央山地で左右が平地。

 そして右側の平地は海まで遠く見晴らせる。

「ここもなかなか景色がいいね。シンコ・イバシの方もよく見える」

「お弁当を持ってくるといいかもしれないね」

「でもこれ、カロリー消費の為の運動だよ」

「そうだった」

 そんな事を言いながら景色を堪能した後はいよいよ帰りだ。


 道そのものは大変歩きやすい。

 馬車道だから平坦で舗装済み。

 しかも緩い下り坂だ。

 ある程度リズムをつけて歩けば自動的に足が出る。

 足が追いつかなくならないようブレーキをかけなければならない位だ。

「これは楽だな、気持ちよく歩ける」

「今のうちはね」

 そう言ってミド・リーがにやりとする。

 確かこの道はずっとこの調子で下り坂か平坦な筈。

 それとも何かあるのだろうか。

「それじゃ身体も温まってきたし、そろそろ走ろうか」

 なんだと!

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