第184話 ジャンクが足りない

 商店街で色々な店をのぞいてみてふと俺は気がついた。

 ここの食べ物は健全すぎる。

 例えばここの商店街の食料品店で売っているもの。

 野菜とか肉とかの材料や、出来合いのものでもちゃんとしたおかずの一品になるものが多い。

 お菓子類もあるけれどケーキとかクッキーとかお上品な物ばかりだ。

 しかも輸入砂糖を使っているから値段もお高い。

 もっと庶民的で身体に悪くて癖になりそうな物があってもいいと思うのだ。

 いわゆるジャンクフーズの類い。


 ウージナではジャンクフードに近い扱いのものとしてフィッシュチップがあった。

 これは某国の屋台フードとは違いイワシや小鯖の内臓を取って二度揚げしたもの。

 ただ材料が小魚というところが健全過ぎる。

 カルシウムが健康にいいですよとか言われそうだ。

 そしてここリゾートなコイにはそれすら無い。

 もっとジャンクを、不健康を!


 そんな物は健全な生活に必要ないなんてまとも過ぎる意見はパス。

 健全な生活にはたまには毒も必要だ。

 例えば酒とかタバコとかジャンクフードとか。

 そんな訳で正しいジャンクフードは何か。

 やっぱり俺としてはポテチとコーラの組み合わせだろうと思うのだ。

 まずポテチ。

 あの栄養価の偏り。

 油と塩と食感のハーモニー。

 まさにキングオブジャンクフードの名にふさわしい。

 カウチポテトなんて単語もあるくらいだ。

 言葉の由来は違うけれど。

 コーラも必要不可欠だ。

 あの薬臭い人工的な香りと炭酸の刺激、そして甘さ。


 この組み合わせをなんとかして実現できないだろうか。

 残念ながらコーラの材料を俺は知らない。

 でもその辺で売っている香料で何とか出来ないだろうか。

 ポテチの方は大丈夫だろう。

 ジャガイモはまだまだあるし塩も岩塩のいいのがある。

 油は猪魔獣オツコトのラードで充分。

 いいダシが出そうだ。

 青海苔は無いので代わりにバジルの粉末でも振りかけてやれ。


 そんな訳で買い物をして商店街から別荘へ帰る。

 起き出してのそのそしている皆さんに挨拶しつつキッチンへ。

 待てよ、色々加工するには工作系魔法を使った方が楽だな。

 そんな訳で俺専用工作魔法アンテナもキッチンへと持ち込む。

「ミタキ君、また何か新しい物を作るのかい?」

「今度は道具や機械じゃない、ジャンクフードだ」

「何それ、ジャンクフードって」

「不健康でそれほど旨くもないのに止まらなくなる悪魔の食べ物だ」

「何それ」

 シモンさんとミド・リーに不審な目で見られるが無視。


 さて、まずはポテトではなくコーラの方を作ろうか。

 こっちの方が難しそうだからな。

 茶色に作りたいのでシンハ君のところの新製品であるもっと甘い水飴(ブドウ糖)を使う。

 これをちょい焦がしてカラメルに。

 あとは毒っぽい成分も必要だ。

 炭酸と糖分だけではちょっと足らない。

 オリジナルなコカコーラはかつてコカの成分が入っていたらしい。

 でもコカインなんて入れるとやばいしそもそもそんな材料は無い。

 ここはカフェイン程度で我慢しよう。

 手持ちのものでカフェインが多いというと紅茶だ。

 なら濃い紅茶に糖分と香料をブチ入れて二酸化炭素を溶かしてやれ。


 さてそれではベースを作ろう。

 葉を細かく粉砕して限界近くまで濃く入れた紅茶にもっと甘い水飴を入れる。

 あと酸味も欲しいので市販のレモン汁も追加。

 香料というか香草は取りあえずローズマリーとローレルと生姜を粉砕して煮沸して煮詰めたものを漉して投入。

 まだ香りがヤバくない気がして他にも香草を粉砕して追加投入。

 うん、オリジナルコーラとは別の意味でヤバい香りがしてきたぞ、よしよし。


 次は二酸化炭素作りだ。

 これはウージナで姉貴が使っていた道具を自作すると楽だな。

 そんな訳で工作系用魔法アンテナでちゃっちゃと二酸化炭素捕集機を作る。

 原理は簡単。

 火を燃やして出てきた気体を冷やすだけ。

 なおゴミが入らないよう途中にフィルター代わりの布を通す。

 ほどよく冷やすとドライアイスと氷が溜まっていくシステムだ。

 生活魔法レベルの風魔法でちまちま風を送って炭火をガンガン燃やして二酸化炭素を捕集する。

 水と一緒にコップ1杯くらい溜まったところで終了。

 これをさっきのヤバいコーラベースと一緒に密閉できる容器に入れて、中を凍らない程度に冷やしつつ工作系魔法杖で混ぜ込んでやれば完成だ。

 半重3kg程度出来た怪しい茶色い液体を味見してみる。

 うん、これはヤバい液体だ。

 スモーキーで薬臭くてでもなんとなく美味しい。

 本物コーラとは全く違うがジャンキーな点ではいい線行っている。

 これは冷やしてとっておいてと。


 ポテチ作りはそれに比べるとまだ簡単だ。

 まずラードから揚げ油を作って、ジャガイモを薄切りにして、からっと揚げて塩と香草を振ってやればいい。

 ひひひひひ、これで究極のジャンクフード完成も見えてきたぞ。 

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