第173話 強化魔法の代償

 暖かい芋煮うどんを食べたら大分疲れも取れてきた気がする。

 そんな訳でちょっと頂上部分をぐるりと散策。

 この山の山頂はなだらかで広い。

 地面は基本的に茶色っぽい岩や小石で植物は岩にへばりついている草類だけ。

 そんな殺風景な山頂だが周りの景色は格別だ。

 さっきと反対側は高い山が連なっている。

 左右もいまいる場所からずっと山脈が連なっているのがわかる。

 空の青さが一段と濃い。

 そして登山者の皆さんはだいたいうちと同じような感じだ。

 料理を作って食べたりお弁当を持って来ていたり。


 気持ちはいいのだがだんだん肌寒くなってくる。

 雨風を通さない長袖のジャンパーを着ると少しは暖かくなるけれど。

 そろそろかな。

 皆のところへ戻ってみる。

「そろそろ出ましょうか」

 ちょうどユキ先輩がそんな話をしているところだった。

「勿体ないけれどそうしましょうか。身体も冷えそうですし」

「仕方ないですね」

 そんな訳で荷物を入れてザックを背負う。

 そうだ忘れないうちにやっておこう。

 身体強化、対象俺!


 下りはなかなか楽だ。

 足が自動的に進んでいく。

 強いて言えばちょっと膝下脛後ろ側の筋肉がちょっと疲れてきた感じ。

 でも身体強化魔法と回復魔法を使えば問題無い。

 シンハ君とかフルエさんは余力が有り余っているらしく凄い勢いで下りていく。

 仕方ないなという表情でタカス君も別荘の鍵を持って同行。

 彼もなかなかタフだよな。

 まあタカス君は身体強化も回復魔法もほぼ何でも使えるのだけれど。

 他の皆さんは快調に歩く速度で下山中だ。


「よく見ると色々な花が咲いているんですね」

 行きは上ばかり気にしていたけれど帰りは花を愛でる余裕もある。

 森林限界より上で大きい木が無いからかこの辺は草の花が多い。

 ピンク色のや黄色いの等、小さいけれど綺麗な花がよく見ると色々咲いている。

 写真を撮れたら記録に残せるのにな。

 ユキ先輩のイラストもカラーの道具が無いから白黒しか描けないし。

「持って帰ってもどうせ持たないでしょうしね。記憶に残すしかないでしょう」

「でも綺麗だよね。よく見るといっぱい咲いていて」

「一つ一つの花も可憐でいいですし、あちこちに咲いているのを全体像で見るのもいいですね」

 そんな感じであちこち見ながら下りていく。


 帰りはペースが早い。

 休憩1回目でもう森林限界よりずっと下まで下りてきた。  

「あと1回休憩を入れるか入れないかで帰れるかな」

「そうですね」

 さっき通過した道標に下りあと1時間半と書いてあった。

 ただそろそろ膝が疲れてきたかな。

 足首も大分疲れている感じ。

 身体強化魔法を切れ間無くかけているから今はまだ大丈夫。

 ただ帰って魔法が切れた時の事を考えると恐ろしい。

 回復魔法連発で大丈夫だろうか。


 再びレモン水を回し飲みして一気に下りる。

 小さく別荘地が見えてきたなと思ったらどんどん近づいてきて、割と簡単に到着。

 強化魔法ぎりぎり3回でなんとか辿り着いた。

 ただそろそろ足の筋肉が危険な気がする。

「ちょっと部屋で休んでいる。疲れたしさ」

「今日はミタキにしては頑張ったものね。大分魔法を乱発したようだけれど」

 ミド・リーめ。気づいていたか。

「入念にストレッチをしておいた方がいいですよ。まだ筋肉が温かいうちに」

「わかった。ありがとう」

 ナカさんの忠告に礼を言って自分の部屋へ。

 自分に清拭魔法をかけた後ささっと服を着替えてベッドへ。

 回復魔法をかけたところで身体強化魔法が切れた。

 どっと押し寄せる疲労感。

 やばい、これはやばすぎる。

 俺は何とかベッドに倒れ込むとそのままぐったりと……


 気がつくと外が暗くなりかけていた。

 慌てて身体を起こそうと……ウギャッ!

 やばい、全身凝り固まっている。

 ザックを下ろしているから回復魔法を使えない。

 何とか転がってベッドから脱出し、足を床につける。

 膝がガクガクしていてスネがガチガチでうまく立てない。

 腰までかなりきている。

 真っ直ぐ前に歩くのが辛い。

 むしろ後ろ向きで歩く方が楽という訳のわからない状態だ。

 何とかザック内の魔法杖の効果範囲まで来た。

 回復魔法、対象俺! 回復魔法、対象俺! 回復魔法、対象俺!

 3回かけて少しだけましな状態になる。

 あくまで少しだけだ。

 後ろに足を引くような怪しい歩き方で移動して部屋を出る。


 ちょうど夕食の準備をしているところだった。

 遅れたかなと思ったのだけれど今日は遅めのようだ。

「ちょうど呼びに行こうかと思ったところです」

「私は寝かせたままでもいいと思ったんだけれどね」

 なお俺以外は揃っているようだ。

「それでどう、足を上げられる? 前方向の段差とか大丈夫?」

 どうやら状態はミド・リーにはバレている模様。

「多分明日はまともに歩けないぞ。身体強化を使いすぎるとそうなるんだ」

「要は筋肉痛の酷い奴だな。時間が経たないとなおらないけれど、その分筋肉も付くからさ。明日は十分休めばいい」

「元々ミタキは運動不足だしね。ちょうどいいかな」

 なるほどそういう事か。

 それにしても確かに歩くのすら不自由な状態だ。

 これに明日は筋肉痛も加わるのか。

 回復魔法で何とかならないだろうか。

 何か気が重い。

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