第162話 予想通りの招き主

 蒸気自動車はターカノさんの指示通り走っている。

 そう、あくまでターカノさんの指示なのだ。

 だからとんでもない所を走っていても俺達のせいじゃない。

 王宮の裏門から王宮内へ。

 門はターカノさんの魔法証明か何かで停められる事なく通過した。

 現在はいくつかの建物の間をゆっくり走行中。

 王宮内の構造は一般人には未公開。

 だからどこを走っているかは不明だ。

「そこの建物の脇に入って停めて下さい」

 周りと比べて比較的小さめの建物のの脇で自動車を停める。


「それでは改めて。本日は当方の我が儘で急な予定変更をさせてしまい申し訳ありませんでした。中でホン・ドが待っております。荷物や車はこのままで大丈夫ですのでどうぞこちらへ」

 ターカノさんに案内されて俺達は中へ。

 回りと比べると比較的小さいとは言え実際には結構大きい建物だ。

 しかも一般的な造りと違って壁が白い。

 一度焼いた後釉薬をかけて再度焼いているのだろう。

 綺麗だけれどお金のかかる造りだ。

 床も本物の石が敷いてある。


 ターカノさんの後をついていくと食堂という感じの部屋に出た。

 既に豪華な食事が並んでいる状態だ。

 そして先客が2名。

 想像通り殿下とシャクさんだ。

「どうも久しぶり。今回も突然で申し訳ないね。実はちょっと君達に確認してもらいたい物が出来たんだ。それでちょっと集まって貰ったわけだ。

 でもまずは食事にしよう。長旅疲れただろう。予定変更させたお詫びにこの辺での名物料理を色々ならべてみた。ただサーブするメイドはいないので各自で取る形になるけれどね。話の内容が秘密に関わるのでシャクとターカノ以外の人間を下げさせたから。

 だから取りあえずあまり気を遣わないで、まずは料理を楽しんでくれ給え」


 言うだけあって料理は豪華だ。

 子豚の丸焼きなんてのもあるし、トロトロにとけそうな角煮なんてのもある。

 瓜と鶏肉の冷たいスープなんてのも美味しそうだ。

 しかもこの国の料理ではあまり嗅いだことのない香りがする。

 高価な香辛料をガンガンに使っているようだ。

 普通のパンもあるけれど薄焼きの膨らまないパンはここの伝統料理。

 色々な物を挟んで食べると美味しいらしい。

 更には水飴ではなく砂糖を使ったきちんとしたケーキまで置いてある。


「このような御歓待誠にありがとうございます」

「挨拶とかは抜きにしよう。取りあえず食べながらだ。特にこの丸焼きの豚の皮。冷める前に食べないと美味しくない」

 そんな訳でさっさと全員着席して食事開始。


「遠慮しないで取ってくれ。取りあえずはまずこの豚の皮部分だな。ここの野菜と一緒にパンに挟んで、このタレを少し入れて食べると美味しい」

 殿下は自分の分を取りながらそう説明。

 お勧めということで早速真似てみる。

 うん、これは美味だ!

 パリパリした感触と深い塩味、表に塗った甘いタレと裏側の脂の自然な甘み。

 タレのちょっと酸っぱさが非常にマッチしている。

「美味しい、これ」

「だろ。僕も肉より皮が好きな位だ。ただ肉も場所によって味が違う。確認してみてくれ」

 丸焼きは勿論美味しいが、当然他も同じレベルで美味しい。

 挟む力を入れすぎると汁を出しながら潰れてしまう角煮とか。

 さっぱりしているけれど旨みが強い冷たいスープとか。

 流石王子の勧める料理と思ってしまう。


「ところで確認してもらいたい物とは何でしょうか」

 そう言えばそんな話だったよなと思い出す。

 料理が美味すぎて忘れていた。

 流石ユキ先輩だ。

「海軍が試作していた蒸気動力のボート、試作品がやっと出来たんだ。それでこの方面では一番詳しい君達に見て貰って駄目出ししてもらおうと思ってね」

「出来たんですか」

 シモンさんが身を乗り出す。

「まだ試作段階だけれどね。今は王宮内船庫に入っている。歩いてもすぐの場所さ。大きさは君達の蒸気ボートと同じくらい。まあ同じ軍の連絡艇を元につくったから当然だけれどね。

 でもまずは夕食を食べてからだ。あとこの建物に宿泊用の部屋もあるから今夜はここで泊まってくれ。ちょっとばかり話もしたいしね」


 どんな話だろう。

 ちょっと嫌な予感がする。

 でもまずは夕食を食べてから。

 シモンさんが今すぐにでも見に行きたそうな顔をしている。

 でももう少し待って貰おう。

 せめて皆が夕食を食べ終わるまで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る