第122話 俺、倒れる

 突如異変に気づいた。

 やばい。身体がおかしい。

 自分の体力を考えずに遊びまくったせいだろうか。

 腕とか脛の筋肉とかがプルプルしているのは多分筋肉痛の前兆。

 Tシャツの袖から出た腕や首筋部分が熱いのは日焼けのせい。

 でも感じる異様な疲労感はそれだけじゃない気もする。

 時々ふらっとめまいがするし異様に足がつりまくる。


 浅いところにいたのが幸いだった。

 微妙にいう事をきかない足で騙し騙し歩く。

 砂浜が非常に歩きにくい。

 何度も足がつるし1回ほど本気で倒れた。

 それでも何とか起き上がる。

 砂を払う気力も無い。

 でもここで倒れたらヤバい気がする。

 必死で歩いてなんとか家へ。

 そしてそのまま床にダウン。


 やばいこれは何の症状だ。

 単なる遊び過ぎにしてはおかしくないか。

 目をつむってゆっくり呼吸をする。

 心臓が異様にどくどく言っているような感じ。

 頭もずきずき痛む。

 眩暈がしそうな感じも治っていない。

 足は意識して姿勢を保たないとすぐつりそうになる。

 首筋が熱いのは単なる日焼けのせいだよな。

 どちらにせよ今までに経験した事が無い症状だ。

 やばいぞ俺。

 そう思った時だ。


「大丈夫、ミタキ」

 ミド・リーの声。

 気付いてくれたのか誰かが呼んでくれたのか。

 いずれにせよ有難い。

「ちょっと遊びすぎたみたいだ。何かおかしい」

「みたいね、ちょっと待っていて」

 とととと、ミド・リーが向こうへ歩いていく足音。

 何だろう。

 治療魔法で治すのではないのだろうか。

 それとも例の魔法アンテナが必要な程の症状なのだろうか。

 俺、不安。

 でもミド・リーが治せない病気はその辺の治療院でも治せない筈だ。

 だから呼吸をできるだけ落ち着かせて待つ。


 わりとすぐ足音が戻ってきた。

「まず軽い回復魔法をかけるわ。ちょっと楽になったら身を起こして」

 何かわからないがとりあえず言うとおりにする。

 ちょっと身体が楽になった気がした。

 俺はゆっくり身を起こす。


「次はこれを飲んで。飲みにくくても全部飲むこと」

 大きめのコップ2杯程の何かを持ってきていた。

 ミド・リーの持っている食べ物とか飲み物って結構オチがあるんだよな。

 でも今回は飲まないという選択肢は許されていないようだ。

 仕方なく俺は手前のコップを手に取り、口に運ぶ。


 お、思ったより美味しい。

 薄いレモンと水飴の味だ。

 前世でいうところのはち●つレモン風だな。

 はちみつではなく水飴だけれど。

 もう一杯もいただく。

 同じ味だ。

 水飴とレモン汁と、ちょっとだけ塩かな。


「多分これで回復すると思うわ。ただ今日はもう安静にしていること。あと夕食はしっかり食べる事。それで明日は問題ない筈よ。あとこのタオル、首にかけておいて。ぬるくなったら自分の魔法で適度に冷やしてね」

 濡らしたタオルを貰った。

 言われた通り首にかける。


 あ、何か急に楽になってきた感じがする。

 めまいと頭痛が収まっていく気配。

 何だったのだろうこれは。

「何か病気なのか、俺は」

「ハンガーノックと脱水症状と日焼けよ」

 うっ。そういえば水を飲んでいないかもしれないな。

 でも水中だし暑さは感じなかったけれど。


「説明するとね。まずミタキは小食でしょ。普段はあまり動かないからそれでも十分持つけれど、今回は思い切り遊んだから食べた分の栄養分を使い果たしてしまったの。これは糖分を取ればすぐに回復する。でも念のため夕食はしっかり食べる事。

 次に脱水症状。ずっと水で遊んでいたから気付かなかったんだろうけれど、汗は結構かいているのよ。それなのに水分もほとんどとっていないから脱水症状になった訳。これも今飲んだ分で回復すると思うわ。

 日焼けはもうわかるわよね。とりあえず冷やしてなさい。熱っぽいのが取れたらいつものスキンケアグッズ貸してあげるから化粧水を塗っておくこと。以上ね」


「どうもすみません」

 俺は頭を下げる。

 どれもこれも情けない理由というか何というか……

 要は自己管理が足りなかった、それだけだ。


「まあミタキは思い切り体を動かした経験があまり無いしね。だからどれだけ食べれば動けるかとか、これくらいで水を補給しようとかの感覚があまり無いんだと思う。だからこれからはその辺意識してね。どっちも原因は単純だけれど程度が進むと本当に危険なんだから」

「気をつけます」

 反省。


「それにしてもミタキは知識は色々あるのにこういう事は気付かないのね」

「何せ前世でも動かない生活だったからさ。経験が無いんだ」

「そっか。そういえばあの魔法杖が出来てからだもんね、動けるようになったの」

 うんうんとミド・リーは納得する。

「身体が動かない事に慣れちゃっているんだよね、きっと。でももう健康なんだから少し体を動かしてその分食べるようにしないと」

「努力します」

「まあ筋肉ムキムキのミタキというのも想像できないけれどね」

 まあそうだな。

 俺自身もそんなものは想像できない。

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