第101話 深夜の露天風呂

 夕食そのものは唯一のオチが入った以外は美味しかった。

 そして俺としては久しぶりに食べ過ぎた。

 俺の胃袋的にはあのメニュー、1個で充分だった。

 それを3個食べたのだから当然動けなくなる。

 そんな訳で皆さんが風呂へ入る中、俺はさっさと寝ることにした。

 まあ一緒にはいると雑念が色々入るというのもあるけれど。


 そうやって早く寝てしまうと早めに目が覚めてしまう。

 窓の外は暗くリビング側の気配は無い。

 よし、皆さん寝ているな。

 実はこういう機会に試したい事があったのだ。

 それは温泉をゆったり独り占めすること。

 どうも皆さんが入っていると雑念が入っていけない。

 だから誰も入っていないだろう今こそがチャンスだ。


 着替えとタオルを持って例の風呂場へ。

 よしよし、誰もいない。

 なので一応服を持って行くが、浴槽の横で脱いで裸で入らせて貰う。

 おお、これぞ温泉だ。

 前世と今世併せてここが初めての温泉だけれども。

 皆さん服を着て入っているのにと思うと若干の背徳感も感じるがそれもいい。

 混浴風呂とはきっと背徳感も含めて味わうものなのだ。

 というのは今俺が考えついたのだけれども。

 暗い山と星空を眺めつつ身体をゆったり伸ばす。


 うーん、快感。

 外の空気は寒いのだが温泉に入っているとそれが心地いい。

 頭寒足熱という奴かな。

 これならいつまでも入っていられそうだ。

 皆さんが長湯する気もわかる。

 明るくなり始めたら部屋に戻ろう。

 それまではここを独り占めで満喫だ!


 お約束で泳いだりもしてみる。

 風呂としては広いが泳ぐには狭いな。

 更にこのままスチームサウナに突入!

 蒸し暑くて100も数えないうちに撤退!

 やっぱりこの浴槽の一番外側が一番気持ちいい。


 ほげー、という感じでぼーっとしていたら、少し空の色が変わってきた。

 そろそろ戻ろうかな。

 そう思った時、入口の方で気配を感じる。

 まずい。

 慌てて下半身だけ短パンをはく。

 何とか間に合った。

 闇に慣れた目で誰が入ってきたか確認。

 これはミド・リーだな。

 体形と髪型でわかる。


「ミタキ、いるの」

 俺がいる事がバレている。

 まあ棚に置いておいた服を見ればわかるか。

 なので返事はしておく。

「ああ」

「隣お邪魔するね」

 来るなという前に来てしまった。

 まあ来るなとは言えないけれどさ。

 そして自分が上半身裸の事に俺は気づく。

「悪い、俺だけだと思ってつい上を脱いでる」

「それくらい大丈夫よ。ミタキは裸だけじゃなくて身体の中身まで見慣れているし」

 確かにそうだ。

 でもそれとこれとは話が違うような気もするのだが。

 まあいい。


「こんな時間に何故お風呂に入っていたの?」

「昨日食べすぎて早く寝たら早く目が覚めた」

「小食なのは相変わらずなんだね」

「ミド・リーはどうして?」

「この時間だとお風呂を独り占め出来るからね。昨日もこの時間入っていたの」

 なるほどな。

「ミド・リーも朝は早いものな」

「昔のミタキほどじゃないけれどね」

「あれはよく倒れた分、昼寝が多かったせいだぞ」

「そういえばそうだっけ」

 そうです。

 何せ週に一度は倒れ、月に一度は治療院送りだったからな。

 初等学校の2年頃からは大体自分の体力がわかって無理しなくなったけれど。


「そういえばミタキと2人だけで話すのって久しぶりだよね」

「確かにそうだな」

 今はこの8人の仲間で動いているからな。

 俺も倒れる事が無くなったし。

「初等学校まではしょっちゅう倒れてはミド・リーの世話になったしな」

 シンハがいなければ治療院まで運ぶのも、治療院で初歩の治療魔法をかけてもらうのもミド・リーだ。

 おじさんとおばさんは忙しいから危険な状態でない限り結構待たされる。

 その間ミド・リーに治療魔法をかけてもらいながら色々話をしたものだ。


「今、こうやって合宿なんて家から離れて出来るのも、考えてみればミド・リーのおかげだよな」

「何しんみり言っちゃって」

「でもそうだろ。馬車で揺られるだけで倒れる身体だったんだぞ」

「でも今の蒸気ボートなら平気なんじゃない?」

「更に言うとヌクシナ村のあの堰堤、前の体力だと一気に上るのは無理だったぞ」

 ファントゥナの花を取りに行った丘だって10腕20m程度の高さの丘。

 道のりだって家からあそこまで半離1km強程度。

 それを数時間かけていた時からまだ1年も経っていない。


「ミタキの身体を治療したのは別にミタキの為じゃないんだからね」

「でも俺は感謝してもしきれない状態だな。だいたいミド・リーがいなければ此処までのどこかで間違いなくくたばっているだろうし」

「うーん、それは洒落になっていないかも」

「事実だろ。実際やばい状態も何度もあったし」

 特に小さい頃は皆と同じように遊べるし遊びたいと思った結果、無理しがちだったから。


「おかげで治療魔法をはじめ、生物魔法は一通り使えるようになったけれどね。特殊魔法なんてほとんど遺伝だけれど」

「遺伝だけじゃないだろ。それこそ初等学校前から治療魔法の難しい本を読んでいたの、俺は何度も見ているし」

「他に読む本も無かったからね」

 そんな事は無いと思うのだが、それは言わない。


 実際ミド・リーには色々世話になっているのだ。

 病弱関係以外でも色々と。

 小さい頃はミド・リーがいたからこそ行動範囲が広がったというのもあるし。

 中等部の受験だってミド・リーとシンハ君と3人で対策したしな。

 ミド・リーは頭良すぎて教え方は今ひとつだったけれど。


「考えてみれば中等部に入るまではずっとミド・リーと一緒だったんだよな」

「まさか錬金術研究会にミタキが来るとは思わなかったわ」

「あの時はとにかく前世にあった材料が欲しくてさ。でもミド・リーがいたから入りやすかったというのもあるな」

 そう思うと色々とミド・リーには世話になっているのだ。

 それが当たり前と思える位に。

「ありがとうな、色々」

「何よあらたまって」

 なんとなくそう言いたくなったのだ、なんて言えない。


「さて、そろそろ上がってもう一眠りしてくる」

「わかった。じゃあまたね」

「はいはい」

 俺は風呂場を出て着替え、寝室へと戻る。

 

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