第93話 夜の出来事(2)

 当たり前だが狩りまくっていると大型魔獣の頭数は減ってくる。

 鹿魔獣チデジカ21頭、猿魔獣ヒバゴン14頭、猪魔獣オツコト8頭。

 これだけ討伐してしまった結果。

「うーん、ここから500腕1km位の範囲には大型の魔獣はいないね。一番近いのが620腕1240m先の猿魔獣ヒバゴンかな」

 討伐最初の確認でそんな状態になってしまった。


「今夜はやめておく?」

「そうだな。成果も無さそうだし」

 そんな訳で出して早々に片付け開始だ。

「もともと今日までで既に例年分以上の討伐実績らしいな。係員に最初に訊いた時には例年は合計14~15頭も討伐すれば上出来言っていたしさ」

 既に3倍近く討伐してしまった訳か。


「これって放っておいたら資源回復するのかな」

「一年あれば余裕よ。隣接区域にはいるんだし」

「でもこの合宿中には戻ってこないよね」

「どうだろ。じき隣接区域の個体が移動してくるとは思うけれど、どれくらいかかるかはわからない」

「魔獣が少なくなって町が困る事は無いかな」

「それは大丈夫だ。元々魔獣を使う産業はこの町には無い」

 そんな事を言いながら戻る。


 途中砦の警備兵さんに、

「あれ、もう終わりなのかい」

と声をかけられた。

「今日は気配を感じないので終わりです」

 俺がそう答えたら彼はうんうんと深く頷いて、

「あれだけ毎日捕っていればいなくなるよな」

と納得されてしまった。

 やはり例年に比べるとかなり討伐しているのは確かなようだ。


「さて、このまま寝るにはどうも落ち着かないよな」

 確かに仮眠からさめて食事をした後なのだ。

 寝るといっても素直に眠れないだろう。

「そういえば合宿に来てからミタキの作るおやつを食べていないよね」

 ミド・リーが余計な事を言った。

「そういえばそうだね。甘いのはフールイ先輩やナカさんが作った焼き林檎とかコンポートとか位だよ」

「お肉が美味しかったせいもありますけれどね。確かに甘いおやつが恋しいところですわ」


 仕方ない。

「材料が揃っていないのであまり期待しないで下さいよ」

 そう言ってキッチンへ。

 でも確かに最近甘い物を作っていなかったな。

 秋以降は姉貴の店の商品を買っていたし、合宿中は肉中心だったし。

 ただできるだけ早く食べたそうだからそんなに凝った物は作れない。

 考えた結果パンケーキという無難な線に落ち着いた。

 ベーキングパウダー代わりの酒石酸入り重曹は持ってきてある。

 あとは明日以降のために小豆をちょっと煮ておこう。


 ◇◇◇


 おやつを食べ雑談をした後、そろそろいつもの時間だろうという事で寝た。

 でも何かを感じて俺の意識が戻る。

 感じたのは違和感。

 更に言うと気配と匂いだ。


「ミタキ君、こんばんわ」

 すぐ横で声がした。

 俺のではない体温も感じる。

 なんだこの状況は!

「目が覚めたのはわかっている。これでも気配は感じる方なんだ」

 もう間違いない。

 ついでに言うと昨晩寝た時は俺1人だった。

 当たり前だが間違いない。

 ならばだ。


『何故ここにいるんですか、ヨーコ先輩』

 ちょっとでも声が聞こえるとまずいので伝達魔法を使う。

「毎日一緒にいるのになかなか仲が進まないからな。こういう時は夜這いだと本に書いてあった。だから試してみた」

 おいおまちょっと待て!

「ちなみに『女の子の愛と恋のマガジン・やっちゃお!』の先月号だ」

 そんな俗な雑誌の中身を信じてはいけません! というか……

『ヨーコ先輩ってそんな雑誌を読むんですね』

「出来ればこの場ではヨーコと呼び捨てにしてほしい」

 出来るか!


『そんな雑誌を信じちゃ駄目ですよ。こういう事は慎重にやらないと』

「2学期はほぼ毎日並んで学校から帰ったり、色々やってみたけれどうまくいかなかったからな。だから色々本を読んで研究してみた。どうも他の人とこの辺の話はしにくくてな。学校では皆私をお嬢様扱いするからこういった話が出来ないし。例外としてアキナ先輩ならこういった話を本気で出来るけれど、先輩はライバルでもあるからな。君を巡っての」

 状況はわかった。

 思い切りわかった。

 でもどうしろというのだ。


「それにしても夜這いとは恥ずかしいな。服を着ないで寝るのはいつもの事だが、横に君がいるとなるとやはり色々感じるものがある」

 ヌードですかい!

 しかも寝るときはいつもだと!

 なんと今もだと!

 ヤバい、理性が危険だ。


「それとも私は魅力が無いだろうか。中等学校に入ってからはラブレターも貰った事は無いしな」

「それはファンクラブ等でお互い牽制し合っているからです」

「ファンクラブなんて知らないぞ」

「女子にも男子にもあります。俺はよく知らないですけれど」

 シンハ君が前に入っていたけれど、ヨーコ先輩に近づきすぎるという事で除名されたんだよな。

 まあその辺はシンハ君の名誉にもかかる事だから言わない。

「どうせなら直接言ってきてくれればいいのに」

「言い寄りたい奴が多すぎて互いに牽制している状態なんです。男子も女子も」


「何かつまらないよな。そういうのは」

 先輩がため息をついたのが聞こえた。

「昔から特別扱いばっかりだ。言っておくが私だって女の子なんだぞ。普通に恋もしたいし男子とお付き合いなんてのもしてみたい。学校帰りに仲間内で何か食べながらおしゃべりなんていうのもあの石鹸作りが初めてだしさ。それまでは剣術研究会でも必要最小限以上話しかけてくる奴すらいなかった。ナカさんはある程度は話しかけてくれたがそれだけだな。あとはシンハと模擬戦をする位だ。奴は訓練でも模擬戦でも遠慮せずに受けてくれるからな」

 どうもシンハ君がファンクラブを除名されたのは石鹸関係で仲良くなったせいだけではない模様だ。

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