第89話 肉祭り2回目と次の魔獣討伐方針

 鐘が鳴る音が聞こえた。

 4回、つまり午後4時だ。

「そろそろ夕食の支度もしようか。みなさん戻ってくるだろうしね」

「そうだな」

 熊魔獣アナログマの事は気になっているが、その辺は食事中にでも先輩達に聞けばいい。

 とりあえず飯を炊いて、肉を切って準備する。


 今日はモツ無し。

 前回思い切りよく皆さんが食べてしまったからだ。

 残りは冷凍している鍋用だけ。

 だから今日は鹿魔獣チデジカ猪魔獣オツコトの肉の部分が中心だ。

 例によって焼き肉用と刺身用を準備。

 何せミド・リーの殺菌殺虫魔法を使っているから生で食べても基本的に平気。

 モツと違って火を通さないとヤバそうなものは特にない。

 まあ脂身多めの豚トロ的部分とかは絶対焼いた方がいいけれど。


 押麦ご飯を炊き、トロロも準備し、サラダも出来てスープも完成したところで皆さん戻ってきた。

 まるで見ていたようなタイミングだと思ったけれど単なる偶然だろう。

 ただ見てみるとなかなか大荷物だ。

 シンハ君は自分より大きな荷物を背負っているし、ヨーコ先輩もかなり大きめの荷物を抱えている。

「どうしたんですか、その荷物」

「いや、今後の作戦に必要だからさ」

 嫌な予感。

 なお荷物は梱包されていて中身はわからない。

「それより飯だ飯だ、腹減った」

「そうですね。ちょうど用意も出来ているようですし」

 手を洗ったりした後、再び肉の宴が幕を開ける。


 ◇◇◇


「鹿はさっぱり、猪はこってりという感じかな、基本は」

「鹿刺身美味しい。止まらない」

「私は猪の脂がある部分を焼くのが好きだな」

「満足いくまで食べるには胃袋が足りないです」

「塊をさっと焼いて齧り付くのもいい」

 皆さん完全に野生になっている。

 俺自身は鹿魔獣背中肉の刺身がやっぱり好みだ。

 煎酒もどきにちょっとホースラディッシュを入れ、つけて食べるのが最高。

 ただ麦トロご飯も悪くないけれど本当は米のご飯が欲しい。

 この刺身、握り寿司にしたら最高だと思うのだ。

 来る途中にカーミヤで買ってくれば良かったと後悔している。


「そういえばボートの改造、終わったか?」

 何故かヨーコ先輩がシモンさんに尋ねる。

「一応終わったよ。でも船を使うよりもっといい物をミタキ君が考えてくれた」

 俺は話が読めない。

 シモンさんは立ち上がって今日作った投光器セットの処へ行く。

「これ。これを持ち歩いたらボートの蒸気機関を動かす必要はないよ。静かだしね」

「ならいよいよ夜の活動も出来る訳だな」

 ヨーコ先輩はにやりと笑う。


「どういう事ですか?」

 話が読めない以上聞いた方が早い。

「魔獣は本来夜行性だ。だから本当は夜の方が討伐に向いている。ただ夜だと暗すぎて暗視魔法が使える人以外は動けない。だからボートから線を引っ張ってあの明るいので照らして、討伐をしようと思っていたんだ」


 えっ、まさか…… 

熊魔獣アナログマを狙うつもりじゃないですよね」

「積極的に狙うつもりはないが、いるなら討伐しないとな。アレが一番住民にとって脅威が大きい」

「そのためにオリハルコンを使った武具の買い物をしてきたんだ。鎧とか槍とかさ」

 シンハ君が持っていたあの大荷物はそれか。

「いつの間に相談したんですか?」

「そういえばミタキ君はキッチンで作業していたな」

 そうだったか。

 全く気づいていなかった。


「そんな訳でみんなは武具等の買い出しに、僕はボートの静音化と線の延長作業をしていたんだ。あとは荷車のタイヤに猪魔獣オツコトの革を追加してパンクしにくく改良したな。まあ線の延長はミタキ君と作った鹿魔獣チデジカ魔石利用の装置で必要なくなったんだけれどね」

 謎は全て解けた!

「ミタキの分も魔法銅オリハルコンの魔道マントを買ってあるぞ。明日にでも全員の装備を確認して、シモンさんに直して貰う予定なんだ」

「ただ魔法銅オリハルコン魔法銀ミスリルの盾を装備すると向こう側へ自分の魔法攻撃をするのが不可能になります。その分作戦は考えなければなりません」

 なるほどな。


 なお会話をしている間にも肉はどんどんと消えていく。

 皆さんどれだけ食べる気なのだろう。

 シンハ君など猪魔獣肉の前足腿部分の塊を焼いてはかじっている状態だ。

 しかも残った骨を見ると2本目だったりする。

 ちょっと待てシンハお前1人でどんだけ肉食っているんだ!

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